いろいろあった2025年が終わり、新しい年が始まっています。年が明けると今までの運気がリセットされると感じることは、前向きに生きていこうとする私たちにとって大切な感覚です。
この時期の行事や物品には縁起を担ぐ風習があり、東アジアに共通する文化の一つになっています。その中でも、お金にまつわることや貨幣単位を植物に当てはめて縁起を担ぐのは日本独特の面白い園芸文化かもしれません。

神奈川県の横浜は、市としての人口が370万を越える大都会。それでも郊外では、離れ小島のように雑木林が残されていて、昔ながらの植物たちが暮らしています。そんな常緑林の中は暗く、林床と呼ばれる生息環境を好む植物たちが暮らしています。
地面を緑のじゅうたんのように覆うのは、常緑小低木であるヤブコウジです。

ヤブコウジ
ヤブコウジArdisia japonica(アルディシア ジャポニカ)サクラソウ科ヤブコウジ属。この植物は東アジアの植物で、中国の秦嶺(しんれい)山脈以南の湿った林内、朝鮮半島、日本では九州から北海道に原生している種(しゅ)です。
ヤブコウジは、主に暖かくて暗い常緑広葉樹林に生えますが、この属の中では珍しく温帯に適応した種であり北部の落葉樹林の中にも生息しています。

中国最南部熱帯雨林の林床
近代の分子分類学によるとヤブコウジ属(Ardisia)は複数の系統が混在する「属複合体」と考えられており、現在は属の再定義が進行中です。その種数は、700種以上に及ぶ巨大なグループであり、属の発祥はインドから東南アジアの熱帯林床にあると考えられています。そして、ヤブコウジ属の赤い果実を動物が散布することで、東アジア、オーストラリア、太平洋諸島などへと広く拡散・分化したと考えられています。

大平洋の離れ小島にヤブコウジ属が分布している理由は「ヤブコウジ属の分布パターン」と「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(East Asian Australasian Flyway)」、通称「EAAF」がよく重なっているからです。「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」とは、渡り性水鳥の広大な渡りルートのこと。つまり、鳥類のふん散布によって東アジア各地や諸島へも分布拡大した可能性があると推定されます。

ヤブコウジを漢字で「藪柑子」と書きます。「藪(やぶ)」に生えるミカンのように小さな実がその語源です。そして「柑子(こうじ)」は「好事(こうじ)」に通じること。冬でも青い葉を付け、コントラストのよい赤い実を付けることから正月用の寄せ植えに好まれました。
景気のよいセンリョウ、マンリョウにも似た見た目に加え、愛称も「十両」と呼ばれ、縁起担ぎに使われました。

10両は大金です。現在の金額でどのくらい価値があるのでしょうか?
江戸時代の区分や米相場にも違いがあるのですが大まかに概算すると、米1石(こく)の価格を1両として計算してみます。1石は約150kgだから、現代の価格に直すと1両は10万円ほどと見積もられます。
つまりヤブコウジ(10両)は、現在の価値にすると約100万円の貨幣価値と見積もられます。

葉に白斑が入っているヤブコウジ
江戸時代では園芸が盛んでした。このヤブコウジには赤い実を楽しむ以外に葉の白斑や黄斑、縮れ葉などの葉芸があり、江戸時代・大正時代に大変な人気があったのでした。
私も白斑入りヤブコウジを育てています。葉緑素が足りない分だけ果実に栄養を回せないので、実が付きにくいですが、日陰の庭を彩るカラーリーフとして重宝しています。

ヤブコウジは太く短い地下茎を持ち、その節から新芽を伸ばし小さな群落を形成します。
この土に埋もれた地下茎によりある程度の耐寒性を持ち合わせ、背の低い植物体と相まって、落ち葉に保護され寒さに耐えられました。ヤブコウジは、こうした性質を獲得して熱帯起源のご先祖さまを持ちながら、北海道の北緯44度付近にも分布を広げたヤブコウジ属の北限分布種なのです。

カラタチバナ
「十両」の次は「百両」のお話です。カラタチバナArdisia crispa(アルディシア クリスパ)サクラソウ科ヤブコウジ属。属名のArdisiaとは、ギリシャ語で「尖(とが)ったもの」を意味し、種形容語のcrispaとは、「波打った」ことを表します。それはカラタチバナの葉縁が波状に縮れていることを意味しています。

カラタチバナ
カラタチバナ(百両)は、ヤブコウジ(十両)やマンリョウ(万両)よりも環境適応性が低く、繊細な性質です。強い日射と乾燥を嫌い、空中湿度の高い場所を好みます。雑木林での原生状態の観察では、マンリョウより生育量は少なく、暗い環境を好むようです。そして加湿にも乾燥にも弱いように思います。
カラタチバナをお店で購入して何度か育てましたが、私の家庭環境での栽培にはなじみませんでした。

カラタチバナ(百両)は、今の価値で1000万円。中国南部、台湾、朝鮮半島南部、日本など東アジアの温暖な地域に分布する常緑小低木です。日本では、新潟県や福島県を北限に生息していて、世界的分布は照葉樹林帯と一致して、その林床に特化した植物の一つといってよいと思います。
次回は、ヤブコウジ属[中編]です。お楽しみに。