夏野菜が育っていく時期に頭を悩ませるのが、厄介な雑草や病害虫。畑全体をよく観察し、有機栽培の手法で総合的な「初期防除」を行いましょう。
目次
はじめに
畑の夏野菜とともに、周囲の雑草もぐんぐん伸び始める時期は、害虫や病原菌も活発に動き始めています。厄介な雑草や病害虫を抑えるために、最も重要なのが「初期防除」! とくに有機栽培では、畑全体をよく観察し、総合的な対処が不可欠だと考えています。そこで今回は、そうした雑草と病虫害対策の考え方についてお話しします。
生物多様性が高い畑は、病虫害が拡大しない
いかすの畑では、深刻な病虫害はほとんど発生していません。もちろん害虫や病原菌が、まったくいないわけではありません。被害が発生しても一部にとどまり、それほど広がらないのです。なぜでしょうか?
その理由は、多様な生物が共存している環境にあると考えています。僕らの畑は有機JAS規格にのっとった栽培をし、作物残渣や緑肥作物といった大量の有機物をすき込む土づくりで、生態系循環を「勢いよくまわすこと」を大切にしています。そのサイクルの中には、害虫も益虫も、病原菌も有益菌も含まれています。多様な生物がお互いにけん制し合って共生しているため、特定の病虫害だけが爆発的に増えることがないのでしょう。
いかすの畑では、有機物をすき込む土づくりによって、多様な生物が共存する生態系循環を「勢いよくまわす」ことで深刻な病虫害を防いでいる
総合的な視点で、あらゆる対策を講じる!
とはいえ、病虫害がまったく発生しないわけではありません。その場合は、病虫害が発生した要因を「総合的」に考えるようにしています。
一般的には病虫害が発生すると、つい害虫や病原菌そのものに注目しがちです。「こいつらをやっつければ万事解決」と考えてしまいがちですが、たとえ農薬で害虫を1匹残らず駆除したとしても、それで被害が止まるとは限りません。長期的にはむしろ状況が悪化してしまうこともあります。
なぜなら、病虫害を招く要因は一つではないからです。まずは、病虫害が発生する仕組みを整理しましょう。
「IPM」で、多角的なアプローチを選択する
病虫害が発生するのは、下図のように主因・素因・要因の三つが重なったときです。逆にいうと、これらの要因を1個ずつ小さくしていけば、重なりがなくなり、被害が拡大しないということです。この考え方をもとに、複数の技術を総合的に組み合わせて雑草・病害虫を防除することを、IPM(Integrated Pest Management)=「総合的病害虫・雑草管理」と言います。
三つの要因に対し、短期的な対処と、長期的な予防を組み合わせる多角的なアプローチを選択すると、病害虫を寄せつけない畑をつくれます。
主因(病害虫)
病原菌や害虫などの存在そのもの。対処としては害虫を捕殺したり、天敵を呼び寄せて個体数を減らしたりするなど。農薬を使って主因を小さくするのもアプローチの一つ。
素因(作物)
病虫害に遭いやすい野菜の性質。野菜を健全に生育させることで、このリスクを減らせる。接ぎ木苗や耐病性のある品種を選ぶのも手。
誘因(環境)
病虫害が発生しやすい環境。風通しが悪い、日照不足、水はけが悪いなど、環境に問題がある場合も、病虫害を招きやすくなる。
↓
発生
三つの要因が重なったときに、病虫害が発生。すべての要因を極力小さくし、重なる部分がなければ、病虫害は発生しない!
猛暑や過乾燥など「誘因(環境)」の影響が大きい
これら三つの要因のうち、近年、とくに影響が大きいのが「誘因」です。猛暑や冷夏、猛烈な多雨や干ばつといった異常気象が増えているからです。
そもそも露地栽培では気温も降水量も変えられませんから、環境=誘因は最もコントロールが難しい要因です。しかし、誘因に対するアプローチはいろいろ考えられます。
例えば、トマトは疫病予防のため、株元にわらやもみ殻、チップといった有機物を重ねています。これらの有機物に付着している枯草菌やトリコデルマなどが、雑菌の繁殖を抑えてくれ、疫病菌を抑える作用が期待できます。もちろん、泥跳ねによる病原菌の飛散を防ぐという物理的な効果もあります。
剪定枝チップに付着した枯草菌やトリコデルマなどによる疫病菌抑制が期待できる
また、僕は枯草菌の一種である納豆菌を使うこともあります。病気予防のため、納豆パックについたネバネバや、納豆1粒をつぶして水に溶かし、葉面や通路に散布することもあります。
緑肥作物をまくと、環境が劇的に改善!
通路にエンバクなどの緑肥作物をまくことも、「誘因」へのアプローチとして有効です。緑肥作物が無数の根を張り巡らすため、作物が育ちやすく透排水性のよい土壌になります。また、地上では緑肥作物の茂みが、テントウムシやクサカゲロウなど益虫のすみかに。これらの益虫たちが害虫を捕食し、主因も減らしてくれるので一石二鳥です。
ただし、必ず注意したいのが、緑肥作物が作物の生育を阻害しないこと。作物の葉色が緑肥作物よりも薄くなってきたら、緑肥作物の勢いに負けているサイン!
こうなったら一刻も早く緑肥作物を刈り敷いて、作物を優位にします。基本的には、エンバクの草丈が40cmになったら、10cm残して刈り取って、地面に敷きます。敷き草が土の乾燥を防ぎ、その下が多様な生物の棲み家になることで、生態系循環が促進され、野菜の生育がよくなります。ちなみに刈り草はアミノ酸や糖などの栄養素が豊富。敷くことで、その栄養を作物に補給できます。
緑肥作物は、「混播(こんぱ)」もおすすめです。混播とは、2種以上の種を混ぜてまくこと。マメ科、イネ科などの緑肥作物の種を混播すると、地上でも地下でも生物の多様性が高まり、より病害虫が発生しにくい環境をつくれます。最近はいろいろな品種の緑肥作物が開発されていますから、畑の状況に合わせて選んでください。
緑肥作物のエンバク。「誘因」へのアプローチとして有効
必要に応じ、速効性のある肥料も使う
ところで、いくら地力が高い畑でも、野菜が根を伸ばせなければ養分を吸えません。そこで夏野菜の定植後、低温で生育が止まってしまった場合は、有機JAS対応の窒素肥料を使うこともあります。窒素の刺激が「最初のドミノ」となり、ドミノ倒しのように根が伸び始めます。
ちなみに、このように低温で生育が止まってしまったケースでは、米ぬかをまいても、微生物によって植物が吸える状態の窒素に分解されるまでに時間がかかって速効性がないため、手遅れになる可能性が高いです。
反対に、土中の窒素が過剰で作物の代謝が滞り、成長が止まってしまうこともあります。いわば作物の「メタボ」です。この場合は、作物の葉色が濃くなるのが特徴。あくまでも僕の場合ですが、こうしたときには代謝促進のために、酢を500~1000倍に薄めて葉面散布しています。
野菜の一生は、フルマラソンを走るようなものです。コースの途中で水やバナナを補給するように、適した追肥と水やりによって体力が回復し、長期にわたって走り抜けます。
緑肥作物で、畑の環境が大きく改善する
雑草も初期の対応が大事です。「上農は草を見ずして草を取り……」ということわざがありますが、これは優れた農民は草が見える前に除草するという意味。このことわざのように、草が生えてくる前から対処することが最善です。
僕らは種まきや定植をする3週間前、まず表層5mm~1cmの土を削りとり、種まきや定植の直前にもう1回、同じように表土を削っておきます。これでしばらく草が生えてこず、作物が先に育ってその場を制圧します。ダメ押しでさらに2週間後、作物を避けて表土をそぐと安心。こうなれば、もう雑草に作物が負けることはほぼありません。
雑草対策には初期の対応が肝心。種まきや定植前だけでなく、2週間後に表土を削ることも対策に
おわりに
今回は、農薬に頼り過ぎない雑草・病害虫対策についてお話ししました。近年は異常気象になることが多く、野菜の生育に大きな影響を及ぼしやすくなっています。病虫害には総合的かつクリエーティブな視点でアプローチし、野菜の健全生育をサポートしてください。
次回は、夏野菜の手入れについてお伝えします。
文:加藤恭子 写真協力:高橋稔