夏野菜が本格的に育ち始める時期は、有機栽培で最も重要な「根の力」に注目しましょう。しっかり根を張らせることで健全な株に育ち、収穫量アップにつながります。
目次
はじめに
有機栽培で最も重要なのは「根の力」です。夏野菜が本格的に育ち始めるこのシーズン、しっかり根を張らせることで健全な株に育ち、収穫量がアップします。ポイントは、野菜が求めているタイミングで、養分と水分をうまく吸えるように環境を整えること。今回は、夏野菜の手入れについてお話しします。
初夏の手入れで「野菜の一生」が決まる
初夏は、春に定植した苗がぐんぐん根を伸ばす時期。トマトやキュウリなどの果菜類は、次々と花が咲き、実がなり始めます。
つまり、夏野菜にとっては自分の体(茎葉)を作る「栄養成長」と、子孫(花や実)を作る「生殖成長」を同時に進めるという、複雑なことを成し遂げねばならないのがこの時期なのです。ここで適切な手入れができたかによって、収穫量が大きく変わります。初夏は、野菜の一生が決まると言ってもよい重要なターニングポイントです。
野菜がまだ小さい梅雨こそ、水不足に要注意
まずこの時期に注意したいのが、梅雨でも「水不足」になることがあるということ!近年は、梅雨でも十分な雨が降らないことが増えています。まだ小さい“少年時代”の野菜にとって、過度な乾燥と高温はまさに命取り。
特に比較的冷涼な気候を好むトマトは、花をボトボト落とし、なんとか自分の身を守ろうとします。「トマトはアンデス原産で乾燥を好むから」と思って、乾燥しているのに水やりを控え、追い込み過ぎてしまうと、極端に実付きが悪くなってしまいます。つまり土壌が乾燥していたら、たとえ梅雨でも水やりが必要ということです。
葉からの水分の蒸散は天然のクーラー。茂みができていないときの猛暑は特に注意する
トマトは2週間ごとの追肥でエネルギー切れを防ぐ
トマトは、完熟果をコンスタントに収穫する珍しい野菜です。完熟果とは、「完全なる果実と種」。特に植物が一生のうちで最もエネルギーを注ぐのは、種を完成させること。それを何度も何度も、一生繰り返すのがトマトです。
トマトを長期にわたってたくさん収穫するためには、途中で養分が切れないよう、養分供給を一定にすることが必要です。つまり、定期的な追肥です。
有機質肥料の場合、土中の微生物が分解し、野菜が養分を吸える状態になるまで2週間かかります。そのため、第1果房の根元の果実がピンポン玉大になったら追肥を開始。以降は2週間ごとに追肥を続けると、栽培期間中の養分供給量を一定に保てるので、エネルギー切れになることがありません。
ちなみに、トマトは無肥料栽培でも地力が高ければ問題なく収穫できます。しかし、無肥料栽培の場合、どうしても早く株が疲れて終わりがちだと感じています。
※追肥の基本量は米ぬかなら1平方メートル当たり150g
第1果房の根元の果実がピンポン玉大になったら追肥を開始。以降は2週間ごとに追肥を続けるのがポイント
摘果は、「追肥並みの効果」!若どりして樹を疲れさせない
キュウリ、ナス、ピーマン、ズッキーニは、トマトと同じように次々と実を付けますが、完熟させず、未熟果を収穫するタイプの野菜です。
トマトに比べるとエネルギーの必要量は低いものの、生殖成長を何度も繰り返し続けるため、たくさん収穫するためには強い草勢が必要です。トマトと同じく着果が始まったら、2週間おきに有機質肥料の追肥をします。
1番果は早めに摘果(摘花)し、体づくりを優先。その後も株が疲れないように少し若めの果実を収穫していくと、茎葉に養分が回ってしっかり育ち、最終的に収穫量がアップします。株が弱り気味のときは、摘果をするだけで元気を取り戻すことがあり、その高い効果は「追肥並み」と感じています。
ちなみにズッキーニは冷涼な気候を好み、暑さに弱いため、中間地ではなかなか本領を発揮できません。涼しいうちにどんどんとって「先行逃げ切り」を目指しましょう。
株が小さいときや、疲れてきたときには、できるだけ若どりして株の負担を減らす。また、この写真のような曲がり果や乱形果などは、早めに摘果しておくと着果負担を減らせる
わき芽は少し伸ばすと根の発達が促される
トマトやピーマンなどのわき芽かきは、わざと10cmほど伸ばしてから取るようにしています。その理由は、わき芽と根の伸長が連動しているため。わき芽を少し伸ばすことで、連動している根が発達し、草勢が強くなります。一方、わき芽が出た途端に取ると、植物の成長を促す植物ホルモンの分泌が不足し、草勢が弱まってしまうとされています。
ピーマンの芽かき。わき芽を少し伸ばしてから取ることで、連動している根の発達を促す
多本仕立てで草勢を強くする
主枝は1本仕立てではなく、側枝を生かして多本仕立てにすると茎葉の数が増え、根張りがよくなります。すると草勢が強くなり、暑さや乾燥など厳しい環境条件に耐える力が高まります。
例えばキュウリの仕立ては、親づる(主枝)が7~8節まで伸びたら先端を摘芯し、勢いのある子づるを3本伸ばします。葉が重ならないようにつる同士を25cm空けて、上へ誘引すると、1枚1枚の葉がしっかり光合成をしてくれて、よく育ちます。
また、トマトは第1花房下の太いわき芽を1本伸ばして、主枝と側枝の2本仕立てにし、地上1m以上になったら放任にします。株元はすっきりとして風通しがよいのに、ブッシュ状に茂った葉面から水分が蒸散されるため、天然のクーラー状態となって暑さを和らげます。
キュウリは、3本伸ばした子づるに着果させ、なり疲れを防ぐ
古い下葉も元気なら生かし、根をとことん伸ばす
ところで僕は、むやみに摘葉しません。なぜかというと「根を守りたい」から。特に有機栽培は、根の力が最も重要です。化成肥料を使うなら根がそれほど伸びていなくてもぜいたくに養分を吸えますが、有機栽培では野菜自身が頑張って養分を吸わなければならないため、根をしっかりと伸ばす必要があります。
そのためには何をすればよいでしょうか?多くの根を維持するためには、多くの葉を維持する必要があります。つまり、古い葉もまだ働いている(=光合成をしている)なら、風通しが悪くならない範囲で生かし、最後まで働いてもらう方が得策です。
たとえばオクラ。一般的には果実を収穫したら、そこから下の葉は摘葉してすっきりさせますが、僕らは最後まであまり摘葉しません。参考書通りにきっちり摘葉しなくても、病気にならず、収穫量を確保できることがわかっているからです。
勢いよく茂ったズッキーニの葉。下葉は最後まで生かす
おわりに
今回は、夏野菜の手入れについてお話ししました。夏野菜といっても、その性質や成長パターンはさまざま。特に有機栽培では、適切な整枝や追肥により、根を伸ばすことを最優先に考えなければなりません。次の第8回では、太陽熱を利用する畑の環境づくりについてお伝えします。
文:加藤恭子 写真協力:高橋稔