自然の力を生かす有機栽培 【第8回】真夏の太陽熱を利用する「太陽熱発酵処理」

畑の野菜が高温と乾燥にさらされる夏本番。この時期の水やりのコツとともに、太陽熱発酵処理を利用した土づくりの方法もお伝えします。

はじめに

梅雨が明けると、夏本番。近年は35℃以上の猛暑日になることも多く、畑の野菜たちにとっては高温と乾燥にさらされる試練のときです。しかし、強い太陽光が降り注ぐ7~8月は、実は土づくりを一気に進めるチャンス!今回は、真夏に欠かせない水やりのコツと、このシーズンにしかできない太陽熱発酵処理のやり方をお伝えします。

近年は露地の畑でも水やりが必要!

真夏の強い太陽光が降り注ぐシーズン。人間が汗をかくのと同じように、植物も主に葉の気孔から水分を蒸散することで体外へ熱を逃がし、暑さから身を守っています。

そこで重要なのが、水やりです。水が極端に足りなくなると、植物は干からびないように気孔を閉じ、蒸散をストップします。こうなると、もはや生きるか死ぬかの瀬戸際!蒸散できない=体外に熱を逃がせないため、やがて植物は熱中症のような状態になり、枯れてしまいます。

夏の水やりは、早朝または夕方が鉄則。暑い日中に水をかけると、根が煮えてあっけなく枯死してしまいます。早朝もしくは夕方以降に行いましょう。夏野菜なら水やりの目安は1株あたり1~2L。土中に水が浸透するよう、たっぷりと水を与えます。

いかすの畑では、昨年の水不足による「トマトの花落ち事件」(第4回)の痛手を受け、今年から露地の畑に灌水チューブを設置しました。従来、露地の畑ではあまり水やりをしなくても問題ありませんでしたが、近年の気候下では、野菜によっては水やりが必須だと感じています。

夏の水やりは、早朝または夕方に。土中に浸透するよう、たっぷりと水を与える

夏の水やりは、早朝または夕方に。土中に浸透するよう、たっぷりと水を与える

多本仕立てで、“天然クーラー”効果を発揮させる

ちなみにミニトマトなどの多本仕立ては、第7回で紹介したように草勢を強くするほか、真夏の防暑対策としてとても有効です。複数本の側枝を伸ばすと、主枝1本仕立てに比べて圧倒的にたくさんの茎葉が茂るので、直射日光を遮って、木漏れ日の差し込む快適な環境を形成します。そして、大きくなると集団で一斉に水分を蒸散するため、気化熱により周囲の温度を抑えられます。いわば“天然のクーラー”です。

いかすの畑では、ミニトマトが草丈1mを超えたら、枝を伸ばし放題にする半ブッシュ栽培にしています。この仕立て方をすると、下の方は整枝しているので風通しがよく、病虫害を抑えられます。一方、上の方は茎葉が茂るので、株間は涼しく、水やりがあまり必要なくなります。

下の方は整枝して風通しがよく、草丈1mを超えたら枝を伸ばし放題にする「半ブッシュ栽培」で、“天然のクーラー”効果を発揮させる

下の方は整枝して風通しがよく、草丈1mを超えたら枝を伸ばし放題にする「半ブッシュ栽培」で、“天然のクーラー”効果を発揮させる

太陽熱発酵処理でふかふかの土になる

真夏の強い太陽光を逆手にとって、土づくりに利用するのが今回ご紹介する太陽熱発酵処理です。

「えっ、土を発酵させるの!?」 と驚かれるかもしれません。発酵資材として利用するのは、中熟堆肥(または米ぬか、緑肥、作物残渣(ざんさ)などでもOK)。湿らせた土に透明マルチを張ると、夏の日差しで土中の有機物の分解が一気に進みます。すると、パンづくりと同じように、発酵によって二酸化炭素が生じ、土を膨らませるイメージです。この二酸化炭素の圧力が地中に届き、土をふかふかにしてくれます。

太陽熱発酵処理の3つのすごい効果

【効果1 】雑草対策になる

透明マルチでぴったりと覆った土が、強い太陽光にさらされて高温になり、表層2~3cmにある草の種が死滅。1カ月ほどは雑草が生えにくくなります。

【効果2】土壌改良できる

土にすき込んだ有機物が分解され、土の団粒化が進むため、野菜が育ちやすいふかふかの土になります。

【効果3】病害虫対策になる

表層2~3cmのところにいる病原菌や害虫の卵も高温で死滅。近年、1~2月に多発している害虫のハクサイダニ※の卵にもとても効果的です。

※ハクサイダニは、さまざまな葉菜類や野菜に害をなす厄介な害虫で、5~10月ごろまでは休眠卵として土壌中で過ごし、11月ごろからふ化して活動を始めます。

太陽熱発酵処理の3つのすごい効果

しっかり土を湿らせてマルチを張る

太陽熱発酵処理で最も重要なのが、土の水分量。しっかりと湿った土に透明マルチをぴったりと張ることで、十分な効果が得られます。

もし、土が乾いた状態で透明マルチを張ってしまうと、高温になったときに地下から水分とともに土中に含まれている塩類が上昇。やがて水分が蒸発し、地表近くにこれらの成分がたまってしまいます。これは、砂漠と同じような状態。塩類濃度が植物の許容値を超えてしまうと、発芽障害や生育障害が起こるので注意が必要です。

太陽熱発酵処理では、しっかりと湿った土に透明マルチをぴったりと張って、水分不足を防ぐことが重要

太陽熱発酵処理では、しっかりと湿った土に透明マルチをぴったりと張って、水分不足を防ぐことが重要

太陽熱発酵処理の手順

緑肥作物や野菜の残渣を使用する場合は、2週間ほど前から土にすき込んで分解させてから畝を立て、透明マルチを張ることも大事!未熟な有機物を閉じ込めると、空気が遮断された状態では分解がなかなか進まず、栽培時に発芽障害や生育障害を招きます。

それでは、太陽熱発酵処理の手順を説明しましょう。

【手順1】緑肥作物や夏野菜の残渣をすき込む

※緑肥作物や野菜の残渣を使わない場合は、手順2からスタートします。

緑肥作物や収穫の終わった夏野菜を地際で刈り、適当な大きさに刻んでその場に置いておきます。数日後、しんなりしたら表層10cmほどにすき込み、10~14日置いて未熟な有機物を分解させます。

【手順2】畝を立て、土が乾いていたら水をまく

中熟堆肥(または米ぬかでもOK)を1平方メートル当たり200~300gまいて、表層15cmほどにすき込み、すぐに畝を立てます。雨が降った翌日か翌々日、土がしっとりと少し湿っている状態がベストなタイミング。土が乾いていたら、畝全体が均等に水分を含むように水をまきます。

中熟堆肥(または米ぬか)をまき、表層15cmほどにすき込む

中熟堆肥(または米ぬか)をまき、表層15cmほどにすき込む

【手順3】透明マルチをぴったりと張る

しっとりと湿った畝に、透明マルチを張ります。マルチフィルムを足で踏んで引っ張りながら土をかけ、ぴたっと張るのがコツ。たるみや隙間をなくすことで、土の水分が保持されて太陽熱がくまなく伝わります。真夏なら3~4週間、太陽光にさらせば完了です。

【手順4】マルチを切り開いて1~2日置く

植え付けや種まきの1~2日前に、透明マルチを切り開いておきます。透明マルチを開けた直後は、土の熱やガスが残っているため、発芽障害や生育障害を起こす恐れがあります。

もし、土が乾いて白くなっている部分があったら、塩類が表層に上がってきてしまったサイン。その場合は、表土をあまり動かさないように水を静かにたっぷりまいて、塩類をしっかり流してから使います。ひと雨当てると安心です。

ポイント1

透明マルチを中央からカッターで切り、折り返すようにして通路を覆っておくと、太陽熱の効果で通路に草が生えにくくなります。

ポイント2

太陽熱発酵処理が済んだ畝の表層2~3cmは、草の種がない状態なので、できるだけ崩さないよう種まきや定植をします。

畝のマルチを切り開いて、植え付けや種まきまで1~2日置く

畝のマルチを切り開いて、植え付けや種まきまで1~2日置く

梅雨の間に透明マルチを張るのがベスト!

太陽熱発酵処理をした畝は、団粒構造のふかふかの土ができているうえ、雑草も病虫害も抑えられるので、秋冬野菜がよく育ちます。

たとえばニンジン。いかすの畑では従来、ニンジンは7月20日前後の種まきが主流でしたが、最近は猛暑を避けるため、8~9月まきの作型にずらしています。この作型だと7月の梅雨どきに透明マルチを張って、太陽熱発酵処理を始めれば間に合うので、しっかりと真夏の太陽光を当てられます。

ニンジンのほかにも、コマツナ、ホウレンソウなどの葉菜類やダイコンなど、直まきするあらゆる秋冬野菜に、太陽熱発酵処理をした畝は最適です。

太陽熱発酵をした土で育てたニンジン。葉が順調に展開している

太陽熱発酵をした土で育てたニンジン。葉が順調に展開している

おわりに

真夏の猛暑に野菜がダメージを受けやすい7~8月。しかし、この時期ならではの強い太陽光をうまく利用すれば、秋冬野菜の生育がぐんとよくなります。次の第9回では、夏野菜とはまた違う、秋冬野菜の楽しさ、種まきや育苗のテクニックなどを紹介します。

内田 達也

内田 達也

うちだ たつや

株式会社いかす取締役。会社員を経て28歳から農業の世界へ。(公財)自然農法国際研究開発センター、霜里農場での研修を経て、農業法人の生産責任者として8年間、実証ほ場、実験ほ場、育種ほ場等で科学的な検証を行いながら農業を実践。2015年3月に株式会社いかすを立ち上げ、有機農業・自然農法・自然農・自然栽培・炭素循環農法・パーマカルチャー・バイオダイナミック農法・慣行農業などさまざまな農法を取り入れ7haを経営する。持続可能な農業の担い手を増やす「はたけの学校【テラこや】」講師を務める。著書に『はじめての自然循環菜園(無肥料・無農薬で究極の野菜づくり)』(家の光協会)がある。

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