自然の力を生かす有機栽培 【第9回】スタート勝負の秋冬野菜

厳しい暑さが続く8月。秋冬野菜の種まきを成功させるための、工夫やアイデアをお伝えします。

はじめに

人間も野菜もぐったりしてしまうほど暑い近年の夏。年々、記録的な猛暑に見舞われることが増え、従来の作型で8月に秋冬野菜の種をまくと発芽しない、または、初期で枯れるという事例が相次いでいます。本来なら比較的順調に育てやすいダイコンや葉菜類も「あれっ!?」と驚くほど、栽培が難しくなってきました。そこで今回は、秋冬野菜の種まきを成功させるための工夫をご紹介します。

水やりと被覆を徹底し、高温と乾燥から守り切る!

近年は8月中旬のお盆を過ぎてもあまり涼しくならず、株式会社いかすの畑でも深刻な水不足に悩まされています。そのため、難しくなっているのが、ニンジンをはじめとする、秋冬野菜の種まきです。従来通り8月に種をまくと、高温と乾燥で発芽がそろわず、かといって「まだ暑いから、涼しくなってからまこう」とのんびりしていると、急に気温が下がって生育期間が足りず、十分に育たなくなってしまいます。

そこで僕らが意識しているのが、種をまいたら「本葉が出るまで徹底的に守り抜く!」ということ。まだ根をしっかり張れていない幼い野菜にとって、過乾燥はまさに命とり。土の表面が乾燥していたら、早朝または夕方に水やりをし、過剰な乾燥にさらさないことを徹底しています。この時期、日中の水やりは根がダメージを受けてしまうので厳禁です。

また、トンネル状に白寒冷紗や防虫ネットを掛けて遮光するのも手。野菜をネットで覆うことで、強い日差しをほどよく遮るとともに、まだ活発に活動している虫の被害も防げます。

トンネル状に防虫ネットを掛けることで、遮光と防虫の両方ができる

トンネル状に防虫ネットを掛けることで、遮光と防虫の両方ができる

“ずらしまき”で適期を探り、全滅のリスクを防ぐ

秋冬野菜の中で特に種まきが難しいのが、ニンジンです。もともとニンジンは、大暑(7月22日~8月6日)のころの夏まきが定番でしたが、最近は暑すぎてこの時期にまくと失敗しやすくなっています。

そこで、リスクを最小限に抑えるためにおすすめなのが、複数回にわたる“ずらしまき”です。例えば8月1日~9月にかけて、10日おきにずらしまきをしていくと、必ずどこかで適期に当たるため、少なくとも全滅することはありません。もちろん、うまくいけばより長くより多くの収穫を楽しめます。

ちなみにここ神奈川県平塚市では、ニンジンは9月末に種まきをしても問題ありません。10月に種をまくなら黒の穴あきマルチを張った畝にまいて、不織布を掛けて保温することで、翌年3~4月に収穫できます。

水やりのこつは「水を見るな、空気を見ろ」

種まきの成功を左右するのが、水やりです。種まきに適した理想の土壌は、雨が降った数日後の状態。もし、土を掘ってみて、地表2cmほどがカラカラに乾いていたら水やりをして、その翌日に種をまいてください。地下と表面の土の層の境目がなくなるよう、水分をつなげます。こうすることで、毛管現象により根から水分を吸い上げられるのです。

水やりをしたらひと晩置いて、翌日に種まきをして鎮圧します。再度、同じように水やりをすると、なお万全です。水が蒸発しないよう、まきすじをもみ殻などの資材で被覆しておくと、乾燥せずに発芽がそろいやすくなります。

まきすじをもみ殻などで被覆して乾燥を防ぐことで、発芽がそろいやすくなる

まきすじをもみ殻などで被覆して乾燥を防ぐことで、発芽がそろいやすくなる

また、水やりのこつは、土の粒と粒の間にある空気の層をつぶさないこと。ハス口を使って優しい水圧で、ゆっくりと何往復かすることで、土の粒と粒の隙間に水が入り込み、空気がぷくっと押し出されて抜けます。つまり、水やりをするときには、目に見えない「空気」を意識することが大切。これは、普段の水やりでも同じです。

一方、ダメな例は、集中豪雨のようにドバッと勢いよく水をかけてしまうこと。強い水圧で空気の層がつぶれ、乾くとカチカチの層になり、地下が酸欠状態になって、種まきにおいては発芽不良を招きます。

直まきに向く野菜、育苗したほうがいい野菜

ところで、野菜には直まきに向くものと、育苗した方がよいものに分けられます。

直まきに向くのは、太い根が地中にまっすぐ伸びる直根タイプの野菜。たとえばニンジン、ダイコン、カブといった根菜類は、移植すると根がダメージを受けやすく、健全に育ちにくくなります。コマツナ、シュンギク、ホウレンソウといった葉菜類も直まきにした方が、直根が伸びやすく、株張りのよい立派な姿に育ちます。

ニンジンを直まきする様子

ニンジンを直まきする様子。直根が伸びやすく、株張りよく育つ

一方、キャベツやブロッコリーは、育苗が断然おすすめです。これらのルーツは、地中海沿岸の岸壁などに生えていたケールに近い野生種。もともといっせいに発芽しない性質を持つため、直まきすると発芽があまりそろいません。そこで、セルトレーに1粒ずつ種をまいて育苗し、定植した方が、安定して収穫できます。

ハクサイ、レタスは直まきも可能ですが、育苗した方が発芽がそろいやすく、初期の虫害も防げます。いかすの畑では、これらは育苗してから植えています。

セルトレーに種をまいてレタスを育苗する様子

レタスを育苗する様子。セルトレーに種をまいて育苗し、定植する

ちなみに苗作りも水やりが重要です。早朝に水やりをして、夕方にはほどよく乾燥した状態にするのが基本。一日の中で乾湿の差をつけることで、根が養水分を吸収する力を高め、乾燥に強い苗になります。

キャベツ類は「スーパーセル苗」で病虫害に強くなる!

晩夏から秋にかけては、虫が活発に活動する時期です。そこで、いかすの畑では、キャベツ、ブロッコリー類を「スーパーセル苗」にしてから植えています。

スーパーセル苗とは、簡単に言うと、わざわざ“老化”させて作る苗!通常、種まきから20日で完成する若苗をセルトレーに40日植えっぱなしにして、水のみを与えて育てます。すると、途中で育苗培養土の養分が切れるため、双葉が落ち、茎葉がアントシアニンを蓄えて赤みを帯びた色になります。

こうして完成したスーパーセル苗は、植物の葉や茎の表面を覆うワックス状のクチクラ層が、通常の約3倍の厚さになるとされています。。クチクラ層は、植物が自らを乾燥や病害虫から守る重要なバリアーなので、病害虫や乾燥に強い株になるという訳です。また、アブラナ科の害虫を呼ぶ揮発成分が、通常の4分の1になるという報告もあります。

ただし、スーパーセル苗にできるのはキャベツやブロッコリーなど、ケールの野生種を先祖とする植物学上「ブラシカ・オレラセア」に分類されるものだけです。同じアブラナ科でも、ハクサイは老化に弱いので、若苗で植えるのが鉄則。スーパーセル苗にはなりません。

病害虫や乾燥に強くするため、わざわざ“老化”させて作る「スーパーセル苗」。双葉が落ち、茎葉がアントシアニンを蓄えて赤みを帯びた色に

病害虫や乾燥に強くするため、わざわざ“老化”させて作る「スーパーセル苗」。双葉が落ち、茎葉がアントシアニンを蓄えて赤みを帯びた色に

結球野菜は養分を切らさず

ところで、コマツナやホウレンソウなどの葉菜類は、基本的に元肥で育てます。

一方、ハクサイやキャベツといった結球野菜は、2回の追肥が基本。いかすの畑は、地力が高いため、緑肥と少量の有機質肥料3~5kg/10aで追肥をせずとも十分な結球が可能です。地力が高くない畑では、元肥に追加して、必要な時期に2回の追肥を行うと、スムーズに結球します。定植から2週間後と4週間後に有機質肥料を追肥すると、1回目の追肥が茎葉繁茂期、2回目の追肥が結球開始時に、それぞれ適切な肥効が発揮されます。これは有機質肥料の場合、植物が吸える状態に分解されるまでに2週間かかるからです。

結球野菜の栽培を成功させるためは、とにかく生育スピードの速さが勝負!肥料切れにならないように管理し、旺盛に葉を展開させることで、立派な玉に結球します。

立派な球に結球したハクサイ

立派な球に結球したハクサイ。肥料切れにならないように管理し、生育スピードを速くすることが重要

おわりに

僕の考えは「三つ葉(三つ子)の魂、百までも」。幼いころの生育環境は、野菜にとっても大変重要です。本葉が展開するまでは乾燥と高温から「守り切ること」。さらに本葉3枚のころには、野菜自身が根を伸ばして自立に向かいます。

例えば、良質な腐葉土を少し足すなど、有用菌(善玉菌)と共生する環境を用意してあげると、その後も土壌微生物とよい共生関係を築き、病気に強い健全株に育ちます。次の第10回のテーマは、「葉物野菜を育てよう」。病虫害対策などをお伝えします。

内田 達也

内田 達也

うちだ たつや

株式会社いかす取締役。会社員を経て28歳から農業の世界へ。(公財)自然農法国際研究開発センター、霜里農場での研修を経て、農業法人の生産責任者として8年間、実証ほ場、実験ほ場、育種ほ場等で科学的な検証を行いながら農業を実践。2015年3月に株式会社いかすを立ち上げ、有機農業・自然農法・自然農・自然栽培・炭素循環農法・パーマカルチャー・バイオダイナミック農法・慣行農業などさまざまな農法を取り入れ7haを経営する。持続可能な農業の担い手を増やす「はたけの学校【テラこや】」講師を務める。著書に『はじめての自然循環菜園(無肥料・無農薬で究極の野菜づくり)』(家の光協会)がある。

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