北海道、我が菜園で出会った「野菜の命の物語」 【第14回】雪が割れ、水面の奥から姿を現すワサビ

写真集『野菜美』(新樹社刊)より

写真集『野菜美』(新樹社刊)より

すりおろしたワサビの色は、春の野の色を映し出す

日差しが高くなる4月は、わが家のある北斜面の雪解けが一気に進む。敷地内にある湧水地を覆う雪が割れると、水面の奥から姿を現す植物がワサビである。葉はまだ黄色いが、太陽の下で日増しに緑の色を取り戻す。雪が消えるころには、膨らんだ花蕾から白い花弁がほころびだし、花茎を勢いよく伸ばしている。

ワサビは深山の沢沿いに生える多年草である。香味野菜として栽培され、寒冷紗で覆われた清流のワサビ田はよく知るところのものである。わが菜園のワサビは、かつて宮崎県椎葉村を訪れた折に、道端で買い求めた数株の葉ワサビを定植したものだ。自生種か栽培種だったかは定かでないが、エゾヤマザクラの咲くころ、湧水地は足の踏み場がないほど真っ白な花で埋め尽くされる。

野生状態で生えるワサビの収穫は山菜採りの気分になれる。デスクワークの疲れを吹き飛ばす楽しみの一つで、日当たりのよしあしや水分の多少など、場所による形や色などの個体差の識別は結構面白いものだ。店先に並ぶような形のよいものも見つかれば、小指ほどのものもあり、でこぼこのものもあれば、色も緑の濃いもの薄いもの、淡い茶色のものなど、さまざまである。すりおろされるいくつものワサビは、おろし金の上で円を描きながら混ざり合い、春の野の色を映し出してくれる。

掘り起こしたワサビは、細かな根が絡み合うように伸びている。こぶになって分かれた子株からも根生葉(こんせいよう)が生え、野菜として売られているワサビとはかなり異なるものである。コラージュの構想は花を咲かせ、見事な根を持つワサビの全体像が主役のはずだった。だが、掘り起こした株のなえが想像以上に速く撮影はかなわなかった。

次回は「野草としての生命力が魅力のミツバ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

奥田 實

写真・文

奥田 實

おくだ・みのる

北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。

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