文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第14回】冬の庭仕事
2016/02/23
冬の庭はとても静かだ。風のない晴天の日などは、まるで時が止まったかのよう。パーゴラに絡んだブドウも、花壇の宿根草たちも、葉を枯らして地中で眠りについている。秋にタネをまいた一年草は日に日に葉を広げているとはいえ、身を縮めるように地面に張りついたような姿をしている。
一年草や宿根草が中心の私の庭では、冬は緑が少なく、露出した地面が目立つ。だが、多くの植物で埋め尽くされている庭では、冬の方がまとまっていてすてきなところもある。葉を落とした落葉樹の枝ぶりもエレガントだし、冬の庭だって捨てたものではない。
植物たちが休む冬は時間がたっぷりあるので、庭仕事も余裕をもってできる。秋は土作りやら、植えつけで忙しかったので、後回しにしていた植物たちの手入れをする時。私の庭では、つるバラの手入れが筆頭だ。まず伸びすぎた枝や不要な小枝を、容赦なく切ってさっぱりさせる。イングリッシュローズなどは、あまり切らなくてもいいというが、昔、HT(ハイブリッドティー)系のバラを育てていた私は切らずにいられない。それでなくても小さな庭では、伸びた枝でいっぱいになってしまう。新しいシュートがたくさん伸びた年は、いったん誘引をすべてはずして、アーチやトレリスに誘引し直す。太くてかたいつるはひとりでは誘引できないので、夫とふたりで作業する。
バラのほかにも、つる性のロニセラやブドウのつる、低木など、伸びすぎてしまったものは、短く切り詰めておく。高木と違って、この季節に剪定できるものはたくさんある。毎年やっているのでコツはつかんでいて、セイヨウニンジンボクなどは、ほぼ主枝だけにして丈を60cmほどにも切り詰めてしまう。冬に庭が裸状態になるのは、こんな剪定のせいだ。
伸びすぎた枝やつるなどを切ってさっぱりした庭は、土が露出していていかにも寒々しい。冬は乾燥しているので、土もパサパサして見える。もっと黒々ふかふかの土にしなくてはと、時折、表面に堆肥をまく。掘り返せない所などは、こうして堆肥をすき込むと少しは違ってくる。土だらけの空間には、まだいろいろ植えられるような気がするのもこの季節だ。再び植物が茂り始めれば、植える場所などないとわかるのだが、この季節、想像の庭では違う植物が伸びる光景が頭に浮かんでしまう。
ただ庭の中央の芝生は、冬も微妙に青さを残している。というのも、西洋芝を混ぜているため。コウライシバが残っているせいでところどころ枯れてまだらだが、いずれ西洋芝に切り替われば冬もまぶしい緑が拝める。この冬のうちにコウライシバの根を丁寧に処分しておくといいのかもしれない。
晩秋に寒さに弱いものを屋内に取り込めば、私の庭では植物の防寒についてはあまり考えなくてよい。ただ、この冬は庭の片隅の菜園に植えたサヤエンドウが、秋のうちに少し伸びすぎてしまったので、べたがけシートをかぶせるつもりだ。特に霜柱が立つような寒さの厳しい所では、一年草や宿根草の霜害が問題になる。霜が降りると凍った土が盛り上がり、根が持ち上がって乾燥してしまう。寒い日は庭に出ないこともあり、気づいた時には枯れていることも多い。
べたがけシートがなくても、苗たちの株元に枯れ葉や腐葉土などを敷き詰めておくだけで毛布代わりになる。温暖な地域でも、ひと冬にたいてい数日は厳寒の日がある。その1日が植物を凍死させることだってある。一年に1回きりの春だし、春の楽しみを減らさないためにも、冬に備えをしておきたい。
冬枯れの庭の中で、唯一華やかなのはハボタン。定番のコーナーは、デッキの花壇。ここにぎっしりと苗たちを植え込む。毎年夏にいろんな種類のハボタンのタネをまくのも、冬の楽しみのため。厚く巻いた葉は、まるでバラの花のよう。寒さが厳しくなるにつれて、葉の色はどんどん濃くなり、華やかさを増していく。ピンク、紫、アイボリー、そして青みがかった緑の葉がよいハーモニーを出して、独特の冬色を作っていく。
昔は、寒くて植物たちの休む冬などなければいいのにと思っていた。だが、今は冬の役割について理解しているつもりだ。冬があるからこそ、春から植物たちは再スタートを切って一から生育できる。そして私たちにもまた、準備と多少の休息が必要だ。冷気でほおを染めながら少しずつ日々庭を整え、春への助走を始めている。
次回は「春まき計画スタート」を取り上げる予定です。お楽しみに。