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連載

【第17回】しあわせな春花壇

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第17回】しあわせな春花壇

2016/05/24

春の庭はいつもやっぱり特別だ。冬の間エネルギーをいっぱいにため込んでいた株は、暖かさで一気に生育が進み、緑がモコモコと湧きあがってくるようだ。植物の生育など実感できない、と思っている人からすれば、信じられないくらい、その動きはとても大きくてドラマチック。一日たりとも庭から目を離せないのはそのせいだ。冬の間、庭に恋い焦がれた気持ちも、その喜びを増幅させる。わくわく、どきどき、はらはら。そんな言葉をいくつ重ねても、春への庭の想いは表現しきれない。

暖冬の年なら、冬のうちから花は咲き始める。寒さに強く、成熟の早いわい性の草花たちがスタート陣営だ。クリサンセマム「ノースポール」、イオノプシディウム、白や黒のネモフィラ、アリッサム、ストックなど。またディモルフォセカや寒咲きジャノメギク、リナリアなども、温暖な年は早くから咲く。

(1)3月、プリムラ マラコイデスが華やかに咲いて、早春をスタートさせてくれます
(2)イングリッシュデージーも早くから開花。しかも梅雨頃まで長く咲く優良選手です
(3)冬のハボタン、パンジーに、早春から開花する草花たちを組み合わせています
(4)寒咲きジャノメギクは、その名の通り寒さに強く、早くから大輪の花を咲かせます

4月になると、カレンジュラやポピーなどのニーハイ丈(ひざ丈)の草花も咲き始める。その間にも大型の草花たちは、葉を増やし茎を太陽めがけて伸ばして、開花の準備をしている。そして5月、ゴールデンウイークを過ぎ、バラの花たちが本格的に咲き始めるのに呼吸を合わせるように、ラークスパーやジギタリス、キンギョソウなど花穂を伸ばす草花たちが華麗に咲く。春花壇は最高潮の時を迎える。

(1)5月になると、色とりどりのキンギョソウが春を祝います
(2)カレンジュラも春の定番。特にわい性のデージーシリーズは、扱いやすさが特徴です

6月になってようやく開花の盛期を迎える、遅咲きの草花もある。スカビオサ、タチアオイ、ラバテラ、ニゲラ、ロベリア、サルビア ホルミナム、ニーレンベルギアなど。春早くに花が終わった草花を少し入れ替えすれば、長く花壇をよい状態に保つことができる。

サルビア ホルミナムは春早くから咲き始めますが、開花の盛期は遅めで6月になってから

青色と黄色の花でまとめた春の玄関側の花壇。色の分量の配分でイメージは変わります

一年草で花壇を作っているので、毎年ひとつとして同じものはない。毎年、違うドラマが誕生するのもそのせいで、花が咲いてみないと、どんな花壇になるのかわからない。もちろん色や品種、そして組み合わせもあるが、冬の間の苗の育ち具合も大いに仕上がりに関係してくる。

私の玄関側の一年草花壇では、毎年色を決めて、カラーガーデンにしている。植える苗や球根のすべてを、花壇からコンテナまで色を統一する。ホワイトガーデンなら白い花だけ。ブルーガーデンは、わりと地味になりやすいので、反対色の黄色と組み合わせることが多い。ピンクガーデンでは、色幅のあるピンク色をグラデーションにして、アクセントに赤い花を加える。オレンジ色の花は春の花のイメージが少ないかもしれないが、カレンジュラ、ディモルフォセカ、ウルジニアなど案外豊富だ。オレンジ色のパンジーやビオラもきれいな色が出る人気色。これらには紫色の花を合わせると新鮮だ。

(1)きれいな青色が出るシノグロッサムは、反対色の黄色のカレンジュラと合わせて
(2)ピンクの花壇には、赤をさし色にするとリズム感が生まれ、キリッとまとまります
(3)カレンジュラの黄色とオレンジ色が爽やかな春の花壇です

色を限定した分、花壇に統一感が出て、全体のインパクトは絶大だ。色合わせの失敗もしにくい。今年はホワイトガーデンに挑戦だ。白いルピナス、オステオスペルマム、ニゲラ、イングリッシュデージー、キャンディタフトなど、すてきな白花だけを集めて光の競演をさせている。

ホワイトガーデンは地味というより、こんなに華やか。ラバテラとオルレア、フランスギクなどを合わせています

春の草花たちは、冬の間に大きく育った株から、たくさんの花をつける。1株は大きく、株の頂上は花で埋め尽くされ、それは見事だ。だがボリュームが大きい分、ほかの草花とのバランスが難しいことがある。ここが植えつけの時の考えどころだ。

花壇の構成の基本は、後ろに高性種、中ほどにニーハイ種、手前にわい性種。そしてレイズドベッドのように高さのある花壇なら、最前面にほふく性の草花を植える。花壇の大きさにもよるが、ひとつの種類をまとめて数株ずつ植えるやり方が定番だ。だが、最近は1種類を1カ所にかためずに、ややランダムに横方向に並べるような植え方を試している。これはふだん私が夏花壇で使うやり方だが、この方が草花のボリュームのバランスでの失敗が少ない。自然風にいろいろな草花が寄り添って咲く感じも出る。もちろん主役やボリュームが出にくい草花は、贅沢にまとめ植えもする。絵を描くように、草花を慎重に配置する。うまくいった時は、歓喜であふれる。

手前にロベリアを配し、中心にナデシコと青みがかったトーンの草花を重ねています

それでも草勢のよい春の草花たちは、大きく広がりすぎて乱れることもある。それを防ぐには毎日見ていて、広がりすぎたり、倒れそうな茎を切って制御しておく。花がらを日々摘む時に、ハサミで適宜切る程度なのでそんなに手間もかからない。もちろん草丈の伸びるものには、まっすぐに支柱を立てて誘引する。

最後に、春花壇の草花を上手に咲かせるコツを。ほどよい気温で草花が気持ちよく生育する春には、肥料と水を最低限にして伸びすぎないように心がけている。お行儀よく育てるのが第一。ただし、わい性の草花のコンテナ植えは、次々と花を咲かせるために、週に1度の割で液肥を与えて肥料切れしないように努める。置き肥を併用すると、さらに花は最後までよく咲く。せっかくの命だから、最後まで美しく咲かせたい。これも一年草育ての美学だと思う。

(1)オルレアとポピー。白と赤の高性種同士の組み合わせです
(2)リナリアは早春から長く咲き続け、しかも丈夫。こぼれダネでもよく殖えます。ミックス色のタネなら、パステル系の賑やかさが映えます

次回は「春花壇から夏花壇へのシフト」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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