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連載

【第18回】春花壇から夏花壇へのシフト

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第18回】春花壇から夏花壇へのシフト

2016/06/28

晩春になると、遅咲きの花たちを横目に見ながら、夏花壇へと本格始動の準備を始める。できるだけスムーズに、日々ほんの少しだけ右から左にちょっと動かすくらいで、いつの間にか春の花壇が夏花壇に生まれ変わりますように、と願いながら。
もちろんそんなわけにはいかないのだが、ここを手際よくこなして、夏花壇へと踏み出したい。言葉にするととても簡単だが、実際ひと筋縄ではいかない。春の花たちが一斉に終わるわけではないし、タネ採りもしたい。土の準備もしなくては。でも遅れると梅雨が明けて、本格的な夏がきてしまう。そうなると、暑さの中での作業はもっと大変になる。

(1)春の終わり頃になると咲き始めるサルピグロッシスとデルフィニューム「ブルーミラー」です
(2)ガイラルディアも6月になってから開花する、春花壇の遅咲き組です
(3)花が終わりかけたように見えても、花がら摘みなどの手入れ次第で、まだまだ花姿を維持できます
(4)タネ採りもこの季節の大切な仕事。莢が色づくのを待つルピナスです

だから、今日はこの作業が進められそうだと見極めて、少しずつ春花壇の始末をしながら、夏の草花の植えつけをしていく。まずは花の終わったコンテナから。花壇には土作りがあるので、ある程度一度に片づけるのが理想だが、コンテナは、ひとつずつ植え替えていける。

冬まきにしたローレンティアとフロックスを、早速、鉢に寄せ植えにしました

この時期、夏花壇の作業が進まないまま、ずるずると夏へとずれ込むとどうなるか。終わりを告げてみすぼらしくなった春花壇と、まず対峙(たいじ)しなくてはならない。この頃、台風などがきたら最悪だ。それまでのうっとりするような春の花たちの姿が、嘘のように変わり果ててしまう。
それでも実際は梅雨の時期に当たるから、作業は先延ばしになりがち。晴れたら晴れたで照りつける初夏の太陽は厳しく、数十分も動けば退散したい気分になる。しかも、このあと旅行に出かける予定でもあれば、今から植えつけをしようという気は失せてしまう。

こういう流れが目に見えているから、初夏には緊張感を胸いっぱいに張り詰めて、夏花壇へのシフトの作業に励む。アリとキリギリスの話でいえば、せっせと日々勤勉に働くアリのスタイルだ。もしかしたら、私はこういうアリ型の勤勉さを、ガーデニングから学んだのかもしれない。日々少しずつコツコツと頂上を目指して、自分の足で登っていく。目的の日の朝に大枚をはたいてヘリコプターをチャーターして、山の頂上に到達する人もいるだろうが、それは私のスタイルではない。体力を温存して、三段跳びで駆け上がることもできない。いつも日々少しずつ進み続けるしかない。

春から夏花壇のためのタネまきも進めている。ケイトウ、観賞用トウガラシ、ベゴニア、ニコチアナなど、種類は豊富だ。春まきの苗たちはみな丈夫で、手数もかからない。2階のベランダには、春花壇のあとに植えつける予定の苗たちが、そわそわと葉や茎を揺らしながら出番を待っている。
とはいえ、そうタイミングよく植えつけができるわけではない。苗たちはすくすく育っても、なかなか植えつけ場所があかない。いつも押したり引いたりのせめぎ合いだ。特につる性草花は、ほとんどが5月にまきどきを迎えるが、適期だからと威勢よくまいてしまうと、植える場所がなくて困ることになる。実際はうちのような小さな庭では、少し遅めにまくほうが、つるも伸びすぎずにちょうどよく仕上がる。

(1)少しだけ苗を作りたい草花は、もっぱらセルトレイを利用してタネをまきます
(2)苗を管理しているベランダ。ラックだけでなく、床にも苗がいっぱいです

苗たちのお嫁入り先を庭のどこにするか、と考えるのは夏花壇作りの一番の楽しみだ。それはまるでパズルを当てはめていくようだ。もちろん大きくは夏花壇のテーマも決まっている。それにしたがって、しかるべきところに植えていくのだが、春花壇のようにきちんと設計図通りに植えていくわけではない。もう少し場当たり的に、あるもの、育ったもの全体を眺め渡して、その時のイメージを頼りに順に植えていく。毎年違う草花を育てているし、花色など全体のイメージも変える。仕上がりがどうなるのか、できあがらないとわからないが、かえってわくわくしながらやっている。こういう庭作りの方法が、飽きないで毎年続けられる原動力になっている。

植えつけの時は、まだ小苗なので、育っていく姿も楽しみです

花壇の土作りに関しては、秋に時間と手間をかけて丁寧に土作りしている分、この時期は土を耕して堆肥と肥料を入れる程度だ。気温が高く生育が進みやすいので、肥料過多は禁物だ。土はやせ気味で水はけがよい方が、ほどよく育つ。夏の草花たちは丈夫なので、うまく育たないより、大きく育ちすぎる心配の方が大きい。
梅雨との格闘をなんとか乗り越えて、無事に夏花壇への切り替えが終わった時は、安堵の気持ちでいっぱいだ。ひとつのことをやり終えたあとの充実感だろう。とはいえ、植えつけの段階では、まだ苗たちも小さく、花ももちろん咲いていない。これから夏の花壇を育てていく楽しみが待っている。ここからまた、ドラマチックに夏花壇は、花開いていく。

コリウス、ニチニチソウ、センニチコウなどを植えた夏花壇のコーナーです

暑さに負けず咲く花たちに元気をもらいます。写真はホウセンカです

次回は「庭作りと創造する楽しみ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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