文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第19回】庭作りと創造する楽しみ
2016/07/26
植栽を自在に操って、庭をすてきにしたい。花の庭、緑の庭、コンテナ中心の庭。それぞれ理想は違っても、ガーデナーなら誰もが夢や理想を抱いている。一年草以外は年々育っていくものだから、季節を積み重ねながら庭を作り上げていく。季節や時間の流れと向き合いながら行うところが、ほかのものを創造するのとは違うところだろう。
庭作りは、白い画用紙に絵を描くのと似ている。どんな植栽も自由に選べる。その自由さがかえって、難しさにつながる。だが、季節が移り行く中でいろいろな植栽を試し、庭を作り上げる喜びは大きい。特に私の庭は一年草が中心なので、年ごとに違う植栽を使って作り上げる楽しみがある。
とはいえ、庭にはエクステリアや家屋などの構造物がすぐそばにあって、植栽選びには制約が多い。想像力も現実の壁に阻まれて、自由に羽ばたけない。そんな事情もあるだろう。それでも庭の小さなコーナーごとに、どう植栽を組み合わせていくか、精査し知恵を絞ることはできる。それが連続して、ひとつの庭の全体像となる。そういう考え方なら取り組みやすいだろう。ブロックを積み重ねて、ひとつのものを作っていく感覚だ。
庭の規模はどうであれ、豊かな植栽とシンプルな植栽を比べたら、私は豊かな方に断然軍配をあげる。多様性のある庭は、作るのも、育てるのも、見るのも楽しい。宝石箱にたくさんの宝を詰め込むような感じだ。開ける時の、あのわくわくした気持ち。たとえ小さなコンテナの世界でも、多様性がある方がすてきに見える。花壇ならなおさら。自分の感性次第で、魅力あふれる庭を作ることができる。
花の庭でポイントになるのは、カラーリーフや斑入り植物など、葉もの植物との組み合わせだろう。園芸種の草花は花つきがよいので、花だけでまとめると窮屈で不自然な感じになりやすい。それをすっきり上品にまとめてくれるのが葉ものだ。花は色にこだわってパステルカラーでまとめたり、それとは反対に原色の濃い色合いをギュッと集めてみたり。その時のアイデア次第で、花壇の空気感までガラリと変わる。
もちろん、花を育てるなら日当たりのよいスペース、半日陰なら葉を楽しむ宿根草など、それぞれ生かし方も違う。だが、半日陰だからと花をあきらめるのは早い。早春の球根類なら、まだ木々が茂る前の日当たりを確保できる場所を見つけて、花を楽しむことができる。スノーフレークやシラー、ハナニラなど、丈夫なものがたくさんある。これらは日本の環境に合っていて、毎年花を咲かせるので、庭の骨格にもなる。むきだしのフェンスや壁面には、つる性植物を這わせるとぐっと緑化が進む。殺風景だった庭も、だんだん植栽を加えていくことで空間の質を変えられる。やはりポイントは植栽の多様性だと思う。
庭を美しく見せるもうひとつのポイントは、コンテナの存在かもしれない。しかし、植物を買い集めてだんだん増えていくコンテナの置き場に困るのは、よくあるケースだ。テラスや庭にずらりと並べるだけだと、景観としてはいまひとつ。そうならないためのコツは、大型のコンテナを中心に配置すること。
私の庭のデッキにもコンテナをたくさん置いているが、ここは土のないデッキを花と緑でいっぱいにして見せるスペースにしている。もちろん、大型のコンテナがメインだ。ひとつだけ家の壁際に2段にラックを置いていて、ここに花の咲かない鉢花やハーブの鉢を並べている。タネまきした苗は2階のベランダで育てているので、苗が庭に侵入することはない。
とはいえ、最近の私は「すてきな庭作り」という縛りから、少し解き放たれた部分もある。それはほかの庭を見る時だ。誰もが生活の中で、少なからず庭や植物と親しんでいる。そのかかわり方や距離感はさまざまだ。
時々庭先にきれいにスイセンが咲くのを見つけると、「ああ、きれいだ」と思う。それだけでも庭や植物は十分に存在感をもっている。完璧に作り上げられた庭や植物だけが、私たちに平穏や喜びをもたらすわけではない。かといって、私の庭作りへの熱意が目減りしたわけではないのだが、そんなことに、改めて気づいた。
「庭作りと創造」というテーマを掲げながら、一方にはふだんの暮らしがある。植物たちとの個別のやり取りもある。美しさだけで切り捨てられないものもたくさんある。そんな立ち位置も最近自分なりに確認している。
次回は「夏のガーデニングの楽しみ」を取り上げる予定です。お楽しみに。