文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第20回】夏のガーデニングの楽しみ
2016/08/23
真夏は暑さとのたたかいで、庭に出るのも大変。それでも私にとっては、この季節は案外楽しみが大きい。何より花壇では、夏の草花たちが伸び伸び育ち、花を咲かせている。センニチコウ、ジニア、ケイトウなど、花もちのよいものや、インパチェンス、ビンカ(ニチニチソウ)など、花がらが自然に落下するセルフクリーニングタイプのものが中心。そのうえ、カラフルなコリウスやハツユキソウ、銅葉のバジルなどの葉ものや観賞用トウガラシなどをたくさん使うので、手のかからない花壇になる。この季節の草花たちは、どれも丈夫なのがうれしい。
夏は土が乾きやすいが、花壇では水を控えめにする方が伸びは抑えられる。水やりの間隔をなるべくあけて、そのかわり与える時は、根の先まで届くようにたっぷり、が基本だ。草花の鉢植えも大鉢だけを使えば、水やりの手間を減らせる。我が家は一年草を植えている玄関側の花壇が東向きなので、午前中によく日がさす。そのため、午前中ではなく夕方に水やりをする。
草花たちの手入れをするのも夕方になってからだ。蚊の出る時間帯だが、日は少しかげっているので作業はしやすい。長袖のシャツに厚地のパンツ、靴下、日焼け止めは必須。その上に蚊除けスプレーをたっぷりかける。庭に出るためにこんな重装備をしていると、これから戦場に向かう兵士みたいだ。
夏にはもうひとつの楽しみも待っている。それはハボタン、パンジー、ビオラのタネまき。夏がくると、「また今年も夏まきの季節がやってきた」とわくわくする。私にとっては、季節を感じる夏の行事だ。タネまきは季節ごとに行っているのだが、夏はタネをまく草花が少ない分、特に思い入れが深い。
ハボタンはいつも、7月の終わりから8月の初めのうちにまく。外にまき床を置いておくと、3日もすれば芽が出そろう。丸葉のものやクジャク葉のもの、葉がピンク色や紫色、白っぽいものなど、毎年いろいろな品種をまく。茎が伸びる高性種のタイプがお気に入りだが、伸びすぎないように双葉が出た時に「ビーナイン」というわい化剤(※)を使う。小作りにしたい時は、何回か散布するとミニタイプのハボタンも自在にできる。
芽が出てからいちばん気を遣うのが、アオムシの被害。ハボタンは2階のベランダで管理しているが、それでもチョウが卵を産みに来て、葉に虫食い跡ができる。それでハボタン用にスプレータイプの薬剤を1本用意して、週1回くらい散布している。
このあと8月の2週目くらいには、パンジーとビオラのタネまきだ。こちらはまき床を屋内で管理するので、この時期だけラックを居間に用意する。私たちが快適と感じる気温なら、パンジーやビオラもスムーズに発芽する。いつもいる場所にまき床を置くので、一日に何度も眺めながら発芽を待つのが楽しみだ。芽が出そろえば、外に出してたっぷり日ざしを浴びさせて育てる。夏にタネまきや苗育てをしているおかげで、夏のガーデニングは充実している。気力も十分だ。これがなかったら、暑さですっかり庭仕事が遠のいてしまっているかもしれない。
庭では草木が伸びる時期なので、定期的な切り戻しが欠かせない。小さな庭ではすぐにバラの枝やつる性の草花でいっぱいになってしまうので、日々切ってばかりいる。茂りすぎると庭は輪郭を失い、雑然とする。一度にやると大変なので、日々少しずつ切る。この方が暑い季節は庭仕事がはかどる。
暑い季節の庭仕事のコツは、一日のリズムを作ることだと思う。水やりなど庭仕事のだいたいの流れを習慣にする。そうすると自然と身体が動く。もちろん庭仕事は朝や夕方にして、暑い時間に無理して作業しないことが大切だ。とはいえ、夏の作業は春や秋と比べると多くなく、一日はゆったりと過ぎていく。だからこそ、楽しむゆとりもあるのだろう。このあと暑さがひけば、一年草の華やかな競演の季節が初冬まで続く。草花たちの移ろいで季節を感じられるのが、庭仕事の何よりの収穫だ。
※2ページで紹介している薬剤は、掲載時に適用があるものです。薬剤を使用する場合は、薬剤メーカーのホームページなどで適用をご確認のうえ、散布する植物に登録のあるものを使用してください。
次回は「秋のタネまき私流」を取り上げる予定です。お楽しみに。