文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第24回・最終回】庭を楽しむ 庭と親しむ
2016/12/27
草花を育てることや庭仕事の楽しみについて、これまでいろいろ語ってきた。だが、いつも高いモチベーションを保ち続けてきたわけではない。忙しくて庭に出られないときもあるし、暑くて外に出るのがおっくうなこともある。なんとなくやる気が出ないときだってある。一歩踏み出せば庭はそこにあるのに、ずいぶん遠くに感じられる。そんなことがたびたびあった。
高床式の住宅では部屋と庭に段差があって、庭は住居面よりかなり低い位置にある。庭に出るときは、よいしょと下へ足を踏み出さないといけない。庭へのアクセスを考えたときに、これが一番のネックになる。そう思った私は、居間兼ダイニングにつながる庭にデッキを設置することにした。今から9年前のことだ。
小さな庭でタネまきからたくさんの苗を育ててきた私には、植える土のスペースが何より貴重だ。そんな私が庭の半分ものスペースをデッキに割くなど、途方もない考えにも思えた。だが思い付いたらなんでもやってみたい方だ。いろいろ悩んだ末にウッドデッキ専門の業者に、イペというハードウッド材を使ってデッキを作ってもらった。
デッキを室内と同じ高さにしたので、掃き出しの窓を開けるとすぐ庭に出られる。以前、3cmほどの段差がある友人の家のデッキにつまずいて、足指の骨にひびを入れたことがあった。それで少しの段差も作りたくなかった。室内から庭への眺めも、フラットなことでより生きる。隣家との境には高さ1.2mのフェンスを作ったので、囲われ感が増したのも居心地の良さを生んだ。
土の部分は減ったが、コンテナを自在に配置できる広いスペースが生まれた。大型コンテナを配置し、縁の部分に作った奥行き15cmの細長い花壇に草花を植え、だんだん緑や花を増やしていった。パーゴラには今、ブドウのつるがはっている。人工的なデッキのスペースは、だんだん庭らしく生まれ変わっていった。
さらにライティング計画も念入りにやった。デッキのフェンスにはマリンライトを2個配置し、さらに光量の強いライトで家屋側の上部からデッキの床を照らすようにした。ライトがあれば、夜も庭を楽しめる。こうして庭とより親密になるための条件をだんだん整えていった。
庭にはデッキの他にも、玄関のドアまで続くレンガ敷きのスペースなど、土のない場所がある。こういうスペースを持て余してしまう人も多いが、上手に緑化できればすてきな庭空間になる。小さなコンテナをたくさん並べるとごちゃごちゃするので、大型のコンテナを中心に用い、少し大小の差をつけて美しく見えるように飾る。広ければ人が通る動線をコンテナの間に確保する。
庭は元々より自然らしくが理想だろうが、デッキのような構造物は住宅の庭らしい風情をつくるのに一役買ってくれる。美しくしつらえることができれば、庭の完成度は増す。
庭には構造物の他にも、さまざまな演出用のものがあると、より庭らしくなる。ガーデンテーブルは居心地の良い空間づくりに大切だし、フェンスやパーゴラなどの囲いの構造物は、くつろぎの庭を作るのに大切な要因だ。ちょっとしたオーナメントも緑の中にさりげなくあると、いい感じのしつらえ感が出る。ちょっとずつ自分にとって居心地の良いものを増やしていくと、どんどん庭と親密な関係になれる。
デッキを作ってからは、室内から見る庭の景色にも気を使っている。窓から見える正面の位置に花のコンテナを配置したり、オーナメントを飾ったり。うちの庭は外の通りからは見えないけれど、花のあふれる空間になっている。それも自分が楽しむためだ。そんなぜいたくもしている。
わが家でもう一つ、庭を作り庭を楽しむ大きな原動力になっているのが猫の存在だ。猫と庭の相性は抜群。イギリスでも猫は庭の大切な守り神で、どこの庭にもその庭らしい風貌の猫がいる。うちでは8歳になる猫と暮らしていて、室内飼いだが気候のよい時季はリードを付けて一緒に庭に出る。それでわが家の庭には、「めいちゃんの庭」という愛称が付いている。猫がいると庭はより輝いて見える。そこで一緒に過ごすのも私にとって大切な時間だ。
普段の生活の中で庭をどう楽しむか。それは人それぞれだろう。私にとっては純粋に植物を育てる場としての役割が大きいが、お茶を飲んだり、くつろいだりする場でもある。庭を洗濯場として使ったり、人によりいろいろ庭との接し方があると思う。外の風は心地よいし、室内に閉じこもっているだけでなく、庭をもっともっと活用できたらいい。
次回から新連載「初心者さんもやってみよう! タネまきから苗育て A to Z」がスタートします。第1回目は「タネまきから始めましょう」です。お楽しみに。