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【第7回】木に触ったときのリラックス効果

宮崎良文

みやざき・よしふみ

千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長20194月からグランドフェロー)。専門は生理人類学。自然セラピー学の確立を目指し、人が自然に触れると安らぐという感覚を科学的視点から研究している。

【第7回】木に触ったときのリラックス効果

2019/06/11

木材は、居住環境において家具や内装材として用いられ、その接触は、体に心地よさをもたらしますが、科学的根拠は少ないのが現状です。私は自宅で無塗装の木材テーブルを使っていますが、購入時、なかなか探すことができず、木場の木材屋さんで切り出してもらいました。このような現状も、木材がもたらすリラックス効果に関する科学的根拠の不足が根底にあるのではないかと思っています。

今回は、まず、1. 木材と他の建材の手のひらへの接触が体に及ぼす影響を紹介します。次に、2. 塗装の影響を示します。一般に、木材は塗装して用いられることが多いのですが、その塗装が体にもたらす影響については、知られていません。最後に、3. 「木の床」を念頭に置いて、足裏への接触の影響を調べました。

本回も、前回に引き続き、池井晴美博士(現・森林総合研究所研究員)が、千葉大学博士課程において精力的に研究を進められた最新データを中心に紹介します。

居間の木のテーブルは木場の木材屋さんで切り出してもらいました

1. 木に手で触ったときのリラックス効果

1. 木材と他の建築素材の違い(引用文献1、2)

女子大学生18名(平均:21.7歳)に協力してもらい、閉眼にて、90秒間、手で触ってもらいました。手掌接触時の実験の様子を上の写真に示します。素材は、建築素材とし、30cm平方の木材(ホワイトオーク材無塗装)、天然大理石、タイルを用いました。さらに、代表的な人工物として、ステンレスにも触ってもらいました。生理指標は、近赤外分光法による脳前頭前野活動と心拍変動性による自律神経活動を用いました。

左前頭前野活動の変化を上の図に示します。左前頭前野活動は、木材に接触したときに、最も強く鎮静化し(ステンレス間と統計的有意差あり)、右前頭前野においても同様の結果でした。

副交感神経活動の結果を上の図に示します。木材への接触において、リラックス時に高まる副交感神経活動が最も高くなり、天然大理石およびステンレスと比べて、統計的有意差を示しました。つまり、木材への接触は、脳活動ならびに自律神経活動の両面から、体にリラックス効果をもたらすことが明らかとなりました。

さらに、女子大学生22名(平均:21.1歳)に協力してもらい、ヒノキ無塗装材と天然大理石を比べてみたところ、上記と同様に、ヒノキ無塗装材に触ることによって、体がリラックスすることが分かりました。

2. 無塗装木材と塗装木材の違い(引用文献3)

女子大学生18名(平均:21.7歳)に協力してもらい、閉眼にて、無塗装木材と各種の塗装木材に90秒間、手で触ってもらいました。素材は、30cm平方のホワイトオーク材無塗装、オイル塗装、ガラス塗装、ウレタン塗装、ウレタン塗装(厚塗)としました。生理指標は、近赤外分光法による脳前頭前野活動と心拍変動性による自律神経活動を用いました。

左前頭前野活動の変化を上の図に示します。無塗装木材への接触において、最も強い鎮静化を示し(ウレタン塗装厚塗間と統計的有意差あり)、右前頭前野においても同様の変化が認められました。

上の図に副交感神経活動の変化を示します。副交感神経活動は、無塗装材において、最も高く、ガラス塗装、ウレタン塗装、およびウレタン塗装厚塗と比べ、統計的有意差がありました。心拍数も、無塗装木材において、最も低いことが分かりました。

無塗装木材は、各種塗装木材に比べて、脳活動からも、自律神経活動からも、体にリラックス効果をもたらすことが明らかとなりました。

2. 木に足裏で触ったときのリラックス効果(引用文献4)

女子大学生19名(平均:21.2歳)に協力してもらい、閉眼にて、60cm平方の無塗装ヒノキ材と大理石に90秒間、足裏で触ってもらいました。安静状態においては足をぶらぶらさせておき、ヒノキ材が下から上がっていって接触する方法を取りました。生理指標は、近赤外分光法による脳前頭前野活動と心拍変動性による自律神経活動を用いました。

左前頭前野活動の変化を上の図に示します。ヒノキ材への接触において、大理石に比べて、鎮静化することが分かりました(統計的有意差あり)。右前頭前野においても同様の変化が認められました。

上の図にリラックス時に高まる副交感神経活動の変化を示しますが、ヒノキ材において、大理石よりも高くなりました(統計的有意差あり)。ストレス時に高まる交感神経活動は、ヒノキ材において、大理石に比べて低下することが分かりました(統計的有意差あり)。

つまり、ヒノキ材への足裏接触は、建材の一種である大理石に比べて、脳前頭前野活動の鎮静化、副交感神経活動の亢進、交感神経活動の抑制を生じ、体をリラックスさせることが明らかになりました。

おわりに

木材が五感を介して体にもたらすリラックス効果については、まだまだ科学的根拠が少ないのが現状ですが、上記したように、少しずつ蓄積されつつあります。これらの科学的データが知られることにより、木材の本来の価値が再認識され、積極的な使用や新たな利用につながると思います。代表的な自然由来の素材である木材が、現代のストレス社会の改善に貢献することを願っています。

次回は「園芸&公園セラピーでリラックス」です。お楽しみに。

引用文献

1)H. Ikei, C. Song and Y. Miyazaki International Journal of Environmental Research and Public Health 14(7) : 801 2017
2)H. Ikei, C. Song and Y. Miyazaki Journal of Wood Science 64(3) : 226-236 2018
3)H. Ikei, C. Song and Y. Miyazaki International Journal of Environmental Research and Public Health 14(7) : 773 2017
4)H. Ikei, C. Song and Y. Miyazaki International Journal of Environmental Research and Public Health 15(10) : 2135 2018

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