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【第2回】プランター菜園のための土づくり ~土の化学性と生物性~

吉田健一 (株)ハイポネックス ジャパン

よしだ・けんいち

(株)ハイポネックス ジャパンに入社し、植物栽培試験を通して「実践型、土と肥料の基礎知識」を学ぶ。現在はNHK趣味の園芸やグリーンアドバイザー認定講師としても活躍。自宅でも園芸を楽しむサラリーマン園芸家。

【第2回】プランター菜園のための土づくり ~土の化学性と生物性~

2019/01/22

「プランター菜園のための土づくり」の2回目です。今月は、「土の化学性」と「土の生物性」についてお話しします。少し難しい話も出てきますが、皆さんに伝わりやすいように丁寧に書いたつもりです。土づくりには欠かせないセクションなので、しっかり理解して春の野菜作りに役立ててください。

土の化学性 ①土の酸度(pH値)

野菜作りで大切なこととして土の酸度(pH)があります。土の酸度とはpHの値が7.0を「中性」、それより値が低いと「酸性」、高いと「アルカリ性」で、多くの野菜は「弱酸性」でpH5.5~6.5でよく育ちます。中には、酸性土を好む野菜はサツマイモやジャガイモが、中性を好む野菜にホウレンソウなどがあります。土のpHの測定は市販の簡易土壌診断試験紙や試薬で測定します。

よくある質問:土が酸性化するとどうなるの?

マグネシウムとカルシウムの流亡の仕組み

土が酸性になる原因の1つは、土の酸度を調整するカルシウムやマグネシウムが雨や水やりなどで流され、酸性化が進むためです。また、窒素肥料の原料が分解されて、酸性の成分が土の中に溶出されることなどもあります。

一般に酸性化した土の酸度調整には石灰類を使用します。石灰には「消石灰」「苦土石灰」「有機石灰」があります。消石灰はアルカリ性が強いため土に混ぜてすぐに種まきや苗を植え付けると根を傷めるため、2週間ほど土になじませてから使用します。苦土石灰は消石灰に比べアルカリ性が弱いため、土に混ぜた後すぐに植え付けできますが、酸度調整効果が表れるにはしばらくかかるため、同じく2週間ほどしてから植え付けた方がよいでしょう。また、苦土石灰は植物の栄養素としてカルシウムやマグネシウムを補給する働きがあります。有機石灰の原料は貝化石やカキ殻で、植物に必要なミネラルなどの栄養素を含む半面、土に混合後の酸度調整には時間がかかるため、苦土石灰と同量混合するのが効果的です。ちなみに、苦土はマグネシウム、石灰はカルシウムのことです。

施用量は下の表に示すように、石灰と土の種類によって異なります。保肥性の高い赤玉土などは、多く施用します。

石灰類を土に均一に混ぜ込むときは、土が湿っていると石灰が1カ所に片寄り、固まりやすくなるため注意します。混ぜるときは土を乾燥させてから混ぜ込み、その後、軽く水をかけてなじませるようにします。

よくある質問:アルカリ性の土はどのように弱酸性に調整するの?

一般的に、土がアルカリ化することはあまりありませんが、石灰類を多く混ぜ過ぎると、アルカリ性になり、土に含まれる植物の生育に不可欠な鉄、銅、マンガンなどの微量要素が根から吸収されにくくなり、新葉の白色化などの欠乏症状を起こします。

アルカリ性になった土を弱酸性に矯正することは難しく、酸性の性質の肥料(硫安、過リン酸石灰、塩化カリなど)を使用したり、酸性のピートモスを土に混合したりします。また、土の中のカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ性の成分を植え付け前に水で流し、乾かしてから使用することもあります。

土の化学性 ②土に含まれる肥料の量(EC値(電気伝導度))

土の中に含まれる肥料の量の目安としてEC値があります。EC値を測ることで、植え付け前の土の中に肥料成分がどれくらいあるかが、ある程度分かるため混ぜ込む肥料(元肥)の量の目安になります。

よくある質問:最適なEC値の目安は?

野菜の場合は種類により異なりますが、一般に0.6~1.0程度が目安になります。EC値が低いと土の中の肥料成分(塩類)不足を意味し、高いと土の中に溶けている肥料成分が多いことを表します。高いと根傷みが起こりやすくなり、ひどい場合は根から水分を奪われ「青菜に塩」の状態になります。

ホウレンソウやダイコンはEC値が高い状態に比較的強く、キュウリ、イチゴ、マメ科の野菜は弱い傾向にあります。野菜の種まき用土は0.5以下にしましょう。

よくある質問:EC値はどのように測定するのですか?

簡易EC測定器で測定しますが測定器は高価なので購入しなくていいと思います。代わりに土を購入するときのポイントをお教えします。家庭園芸肥料・用土協議会会員企業が販売している市販培養土の袋の裏面にはEC値が記載されています(上の表)。EC値が0.6~1.0なのを確認してから購入するようにしましょう。

土の生物性 土の中の微生物や小動物

土の中には放線菌、糸状菌(カビ)、細菌などの微生物や、ミミズなどの小動物が生息しています。植物に害を及ぼす微生物や小動物もありますが、多種類の微生物などが増えることにより、逆に病原性の微生物などを抑制する働きができてきます。このように微生物などが増えて活性化するためには、腐葉土や堆肥などの有機物が土の中にあることが重要です。土づくりには有機物が不可欠なので必ず入れるようにします。

よくある質問:土の中にいる微生物はどんな働きをするの?

微生物が団粒を作る仕組み

土に混合した有機物は微生物の働きにより分解されます。また、微生物が出す「のり」のような物質が細かい土の粒子(単粒)をくっつけて塊にし、土の通気性、排水性を改善します。つまり、土の団粒化を促進します。

微生物は、与えた化学肥料や有機質肥料を根から吸収しやすいように分解する働きもあります。

よくある質問:微生物やミミズが生きていくために必要な有機物は?

大きく分けて有機物には植物性堆肥(腐葉土、バーク堆肥、もみ殻堆肥など)と動物性堆肥(馬ふん堆肥、牛ふん堆肥、鶏ふん堆肥など)があります。

植物性堆肥は肥料分をほとんど含まず、土の通気性と排水性を高め、乾きやすい柔軟な土にする働きがあります。また、肥料分を含まないため、苦土石灰や有機石灰と同時に使用してもガスの発生などで植物に害を与えることはありません。腐葉土は、微塵(みじん)が少なく黒色で、ある程度葉の形を残しているものがよいです。土の中で分解しにくいマツの葉などが混入しているものは避けます。

動物性堆肥は植物性堆肥に比べ、肥料成分、特に窒素成分を多く含みますが、通気性、排水性を高め、土質を改善する効果はあまりありません。混ぜるときに注意することは、

・土に多く混ぜ込み過ぎると、窒素成分が多くなる。そのため株が大きくなるが、花付き、実付きが悪い状態になる

・石灰類と一緒に混ぜるとガスが発生するため、石灰類は有機物を混合する2週間前に混ぜるようにする

・夏場などの高温期の施用は避ける
(土の温度が高温になると動物性の堆肥は急激に分解される。根から過剰に吸収したり、EC値が高くなり過ぎて根腐れを起こしやすくなるため)

などがあります。

良質の堆肥は十分に発酵していることが大切で、完熟した堆肥の見分け方は「くさくない」「カビや緑藻が生えていない」「ある程度色が黒い」「熱がない」などです。

プランター菜園では、安全性の高い植物性堆肥を混合することをおすすめします。土に2割程度堆肥を混ぜるのが目安です。植物性堆肥は肥料成分がほとんど含まれないため、別に必ず肥料を混合します。

今月のまとめ

野菜作りには石灰類の施用は不可欠だが「過ぎたるは及ばざるがごとし」。土の活性化と根づくりは「土と有機物のコンビネーション」であることを忘れずに!

次回は「野菜作りのための元肥の基本」です。お楽しみに。

JADMA

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