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【第4回】野菜作りのための追肥の基本

吉田健一 (株)ハイポネックス ジャパン

よしだ・けんいち

(株)ハイポネックス ジャパンに入社し、植物栽培試験を通して「実践型、土と肥料の基礎知識」を学ぶ。現在はNHK趣味の園芸やグリーンアドバイザー認定講師としても活躍。自宅でも園芸を楽しむサラリーマン園芸家。

【第4回】野菜作りのための追肥の基本

2019/03/19

よい土に元肥と石灰類をしっかり入れて植え付けた野菜苗も、追肥次第で生育が違ってきます。豊かな収穫のために追肥の方法をしっかり学びましょう。

追肥について学ぼう

よくある質問:「追肥(ついひ、おいごえ)」とはなに? 与えないとどうなるの?

苗の植え付け後の生育

野菜の生育が旺盛になってくると、根から肥料分が吸収され、土の中の元肥がだんだん少なくなります。プランター栽培では菜園と比べ土の量が少ないため、土が乾きやすく水やりの回数も多くなり、プランターの底から肥料成分が流れやすくなります。植え付け時に与えた元肥がなくなると、株の生育が悪くなります。肥料切れが進むと古い葉から黄化が始まり、株全体が淡い緑色になります。新しい葉が出ず、花付きも悪くなり、収穫は難しくなります。このような状態にならないために野菜栽培には追肥が重要なのです。

生育を旺盛にしたいと思い、ついつい1回当たりの追肥の量を多くしがちです。しかし、追肥の量が多過ぎると、株がしおれ、ひどいときは枯れることもあります。第2回で説明したように、多く与え過ぎると土の中の肥料の濃度が高くなり「青菜に塩」のように根が脱水状態になります。用土は湿っていても株は水切れのようにしおれていきます。

追肥は栽培期間の長いトマト、ナスなどの果菜類、ニンジンなどの根菜類、栽培期間の長いキャベツやハクサイなどの葉菜類には不可欠です。ミズナやコマツナなどのような栽培期間が短い葉菜類は、菜園では元肥だけで収穫できるといわれています。しかし、プランター菜園では肥料の流亡が多いため、追肥は必要です。

復習になりますが、プランター栽培の場合、保肥性の少ない用土は肥料切れを起こしやすいので、保肥性を高めるために植え付け前の土づくりのときに赤玉土を2割程度、土に混合しておくことをおすすめします。

よくある質問:プランター栽培だと土の中でどのような成分が不足してくるの?

植え付けて1カ月を経過すると、元肥で与えた肥料成分は少なくなります。野菜の生育で必要な肥料の三要素(窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K))の中で、野菜が最も必要とし、根から多く吸収される成分は窒素とカリです。しかし、窒素とカリはプランター栽培では流されやすく、不足するので追肥として補給が不可欠です。

特に高温期の夏は、マンガン、ホウ素、鉄などの微量要素が不足しやすくなります。トマトは生育が進み、実が肥大するころになると、カルシウムが不足し尻腐れ症が発生しやすくなります。

よくある質問:いつごろから追肥を与えたらいいの?

野菜の種類や根の生育スピードによって異なりますが、基本的に追肥の目安は根がプランターの内側面にたどり着く、植え付けから3~4週間後です。根がプランターの内側にたどり着くころには、分根し、養分を吸収する根毛も出来上がっています。簡単な目安は、用土が乾きやすくなってきたときです。

土に混合した元肥の効果が2~3カ月と記載されている場合でも追肥は必要です。施用開始の目安は同様に3~4週間後。与える理由は、土の中の元肥の肥料成分には早くなくなる成分があるため土の中の肥料成分のバランスを保つためです。元肥の効果が2~3カ月と記載されていた場合、追肥(粒状肥料)は標準施肥量の1~2割程度少なくします。

よくある質問:雨、長い曇天、寒いときは追肥を与えない方がいいの?

野菜が元気に育ち、肥料をしっかり吸収するには、十分な光、土の中の新鮮な空気、土の温度などの環境条件が整うことが重要です。梅雨時期は、曇天が続き、日照不足から野菜が光合成を十分にできなくなります。また、雨で用土が乾きにくく過湿になると、土の中に新鮮な空気が不足してしまいます。冬の低温時は、土の中に肥料成分があっても吸収されにくくなります。追肥を与えても根から吸収されずに、土の中の肥料成分が過多になり、根傷みや根腐れを起こす原因になります。環境条件が整わないときは、追肥を与えないようにします。

よくある質問:追肥にはどのような肥料が適しているの?

追肥には、与えたらすぐに根から吸収される速効性肥料が適しています。水に溶かして与える液体肥料(液肥)などです。また、速効性とゆっくり効く緩効性をミックスした固形肥料(粒状タイプ、錠剤タイプ)も適しています。

有機質肥料はすぐに効かずに、土の中で分解されて根から吸収される遅効性肥料のため、速効性と緩効性を兼ね備えた化学(化成)肥料との配合肥料がおすすめです。有機配合肥料を使用すると有機質肥料のアミノ酸などの効果もあり、野菜作りには適しています。

成分的には、プランター内で不足しやすい窒素、カリを含む肥料が適しています。また、高温期は微量要素が不足しやすいため、微量要素を含む液肥が適しています。ただし、成分が大きく偏らないようにバランスよく施肥することが大切です。トマトの尻腐れ症には、発生する前から、定期的にカルシウムを含む活力液「リキダス」などを与えるようにします。

よくある質問:肥料の計り方はどうすればいいの?

粒状肥料の計量の目安

市販されている粒状肥料の裏面には施用量が記載されています。「一握り」「グラム」などの表記が一般的です。粒状肥料は製品によって比重が違うので、一概にいえませんが、男性の一握りが35~40g、女性の一握りが25~30gになります。女性の一握りは約10g程度少なくなるので覚えておきましょう。

液体肥料と粉末肥料の計り方と希釈方法

液肥と粉末肥料は、計量キャップや計量スプーンを使って計ります。どちらもない場合は、ティースプーンで代用することができます。液肥の場合はティースプーン1杯が約2cc、粉末肥料の場合はすり切り1杯が2gになります。

よくある質問:追肥のときに行う「中耕(ちゅうこう)」とは?

吉田流 追肥の効果を高める中耕の方法

中耕作業とは、菜園で野菜の生育中に、畝の間の土を軽く耕すことです。以下のような効果があります。
・土の表面を軟らかくして、通気性、排水性をよくする
・追肥を混合すると、土に肥料がなじみ根から吸収されやすくなる
・雑草の発生防止にもなる

中耕作業をプランター栽培にも活用すると追肥の効果を高めます。方法はスパゲティ用のフォークを準備し、根の先端部に近い表層の部分の土を5cm程度掘り起こし、土を軟らかくします。ここで注意することは、株元の土を掘り起こすときに根を傷めないようにすること。液肥、固形肥料(粒状タイプ、錠剤タイプ)でも同様に行います。

丸型プランターの場合は、プランターの縁に沿って幅5cm、深さ5cmを、長方形プランターに2株以上植わっている場合は、プランターの縁に沿って同様に掘り起こします。株間の中耕は根を切ってしまうことがあるので避けます。中耕は追肥ごとに必ず行うようにしますが、液肥の場合は1カ月に1回が目安になります。

よくある質問:固形肥料の追肥はどうやるの?

吉田流 固形肥料の追肥方法

固形肥料の場合は、1カ月に1回を目安にして中耕作業を兼ねて土に混合します。特に有機配合肥料は、土に混合することにより有機質肥料の分解がスムーズに進みます。

上手な追肥方法として、1カ月に1回施肥する肥料なら、1回の施用量を少し減らし、2カ月に3回の施用にして施肥のタイミングを細分化すれば、プランター内の肥料の変動をより少なくし、肥料成分バランスを維持することができます。収穫量も多くなります。特に、トマト、ナス、キュウリなどの果菜類には効果的な追肥の方法です。追肥後は必ず水やりをするようにしましょう。

よくある質問:液体肥料の追肥はどうやるの?

液肥は固形肥料と比較すると、すぐに効果が表れます。微量要素を含むという長所もありますが、肥効期間が短く、特にプランター栽培では肥料成分の流亡が大きいという短所もあります。そのため、水やりを兼ねて1週間に1回必ず施用する必要があります。夏など土が乾き過ぎている場合は、必ず一度土を湿らせた後に与えます。

希釈液の施用量の目安は、プランターの底から流れ出る程度に与えます。追肥を始めた2~3回は、根が十分に張っていないためプランターの土の上半分が湿る程度にとどめます。一度、水で希釈した液肥は保存できないため、使い切るようにしましょう。

液肥は、特に葉菜類には葉色の維持などに効果的です。夏の高温期にはトマトなどの果菜類は微量要素が不可欠なため、固形肥料と併用して2週間に1回の液肥の施用が効果的です。

よくある質問:液肥の葉面散布はどのような効果があるの?

液肥の葉面散布だけでは十分に生育させることは難しいですが、元肥を施用したコマツナやミズナなどの葉菜類の肥料として葉面散布を行うのは効果的です。施肥間隔は5~7日に1回、早朝に散布します。高温時の日中散布は葉を傷めることがあるので避けましょう。葉面からの養分の吸収は、葉の表面より裏面が、古い葉より新しい葉の吸収率が高いとされています。

今月のまとめ

栽培の途中で与える肥料は「追肥」といい、野菜の生育と収穫には不可欠な肥料です。1カ月に1回施肥する肥料なら、1回の施用量を少し減らして、2カ月に3回の施用にするのがおすすめです。スバリ! 追肥は細分化(分施肥)して与えることがポイントです。

次回は「プランター菜園の土づくり」です。お楽しみに。

JADMA

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