文・写真・イラスト
淡野一郎
あわの・いちろう
株式会社サカタのタネ勤務。新聞などに掲載のベランダでの菜園実践記から中学校の技術科教科書まで幅広く執筆。著書に『ここまでできる! ベランダでコンテナ菜園』(家の光協会)などがある。
【第1回】計画半作 ~栽培は栽培前の計画次第~
2018/12/25
農業の世界では種(タネ)半作とか、苗半作とかよく言います。これは種(タネ)の氏素姓(うじすじょう)や品質で、あるいは植物の赤ちゃんである苗をしっかり作ることで作物栽培全体の半分は決まるようなものだということのたとえです。しかし、それは栽培が始まってからのことで、本当の栽培は種(タネ)をまいたり、苗を育てたりする前の机の上での栽培計画から始まります。実はこの作業の成否が実際の栽培に大きく影響してきます。
計画しないとどうなるの?
計画といってもあまり難しく考える必要はありません。作物の栽培は料理に似ています。どんなジャンルの料理を食べたいか、イタリアン、中華、フレンチ……じゃあイタリアンにしたとして、パスタでジェノベーゼ……材料はパスタ、塩、オリーブオイル、バジル、マツの実、パルメザンチーズ……道具はフードプロセッサー、パスタ鍋、パン……調理の手順は?
慣れれば何も見なくたってやれるのでしょうが、初めからレシピなしで作れる人はいないでしょう。それと同じです。作物栽培も分量と手順を間違えなければ、そして気象的な問題がなければ、初めてでも70~80点程度の出来にはなるはずです。
ならば作物栽培は? まず何を育てたいか、ジェノベーゼ……ならバジルね。春まきでベストは何月のいつごろ? コンテナ栽培、どこに置く?どんな日当たりを好むの? 、準備するものは種(タネ)、品種は? 、セルトレイ、種(タネ)まき用培養土、7.5cmポリ鉢、培養土、コンテナ……プランターのサイズは? 、何㎝間隔に植える? 、っていうか、そもそも家族 3人分のジェノベーゼソースにはどれくらいのバジルを育てればいいの? 、追肥のタイミングは? 、その量は? 、種類は? 病気や虫の害は?
こんな感じで、種(タネ)まき前に計画しておかなければ相当混乱しますし、うまくできないのも容易に想像できます。
いつ計画を立てたらいいの?
計画ですから栽培が始まってからするのでは遅いです。普通は春の種(タネ)まき前の12~1月の冬や、夏秋の種(タネ)まき前の5~6月ぐらいにします。もちろん冬に1年分を計画すればより体系的な計画が立てられます。なので冬の農閑期に行う場合は特に「ストーブ園芸」なんて呼んだりもします。
どんな手順で計画したらよいの?
栽培する作物が決まったら、栽培のためのレシピを作りましょう。まず栽培する作物の栽培スケジュールを立てます。例えばA4の紙に定規で線を引き、それを作物に応じて栽培する月の分等分してそれぞれをさらに3等分しましょう。私は紙派ですが、コンピュータソフトなどを使っても構いません。最初の4等分に5月、6月という具合に月を記入し、次に3等分したところに上旬・中旬・下旬とします。コンピューターならば1週間単位の方がよいかもしれません。
その横に作業を入れていきます。バジルならば、例えば4月14日に種(タネ)まきを、間引きの1回目を28日、2回目は5月5日、植えつけを5月13日……と、こんな具合に入れていきます。このとき、普段、仕事をしている人は、作業が土日など休みに重なるようにするのがコツです。参考にしたものと作業の日数が3日程度違っても大きな問題にはならないので気にせず決めていきましょう。
主な作業
・芽だし
・種(タネ)まき
・間引き
・畑の準備(肥料の種類、施肥量など)
・植えつけ(畝間、株間)
・病虫害の防除(防虫ネット張りや殺虫・殺菌など)
・追肥(肥料の種類、施肥量など)
・収穫
作業を書き入れたら、その下にまた横線を引いて今度は作業の詳細を書き入れていきます。必要な資材なども書き込むとよいでしょう。種(タネ)まきなら、種(タネ)はもちろん、セルトレイにまこう、それに種(タネ)まき用培養土でしょ、といった感じです。これでレシピはできあがりです。
情報を集めよう
いやいや、栽培作業や資材などを書き込めって、そんなの初めから分かるわけないでしょ! そんなお叱りを受けそうです。そうですよね。初めは作物の生育具合も作業も分からなくて当たり前です。近くによい先生でもいればいいのですが、なかなかそんなわけにもいきません。
まずは栽培のための情報を集めましょう。種(タネ)袋にも簡単な栽培暦があります。これは品種ごとの種(タネ)まきや収穫時期を知るには頼りになる情報ですが、途中の細かな栽培手順はスペース上かなりざっくりとしか表現されていません。なのでここは園芸の実用書や専門書、あるいは信用できるウェブサイトを頼りに作っていきます。最初は慣れないし、知らないことがいっぱいなので手間取るかもしれませんが、根気よくこなしましょう。情報元(ソース)もメモしておけば後で便利です。
栽培する作物が複数の場合は別途、作業だけをカレンダーに書き込んでいくとタイミングを逃さず作業できますね。
栽培中は記録をつけよう
実際に栽培を始めたら、日記のように栽培記録をつけていきましょう。これは、過去の記録からよりよい栽培時期や手順、方法を探るために大いに役立ちます。何よりも、次の年の栽培計画や作業がスムーズになります。面倒ならばレシピの紙やカレンダーなどに何日に何をやったかだけ書き込むだけでもやらないよりはましです。ですが、初めのうちはできるだけ詳細に書いておいた方が自分のやり方のいいところ悪いところがよく分かり改善の参考になります。
出芽まで何日かかったとか、間引きや植えつけたときの葉枚数は何枚だったか、植えつけ後何日で追肥したとか、それらのタイミングが早かった遅かった、といった記録はあると何かと便利です。特に疑問に思ったところ、手順の工夫などは書き留めておきましょう。
また、ツバメをいつ見たといった動物の発生消長や、初霜はいつだったといった気象現象なども記入しておくと次の年の栽培の参考になります。特に害虫、例えば幼虫のアオムシが葉を食害するモンシロチョウをいつごろ見たなんて情報はかなり役立ちます。モンシロチョウは春と秋にはよく飛ぶので注意が必要ですが、真夏の暑い時期はあまり飛ばないので防除に神経質にならなくてよいなんてことの判断材料になります。
プロの方法をこっそり参考にするのもレベルアップの一つの方法です。近所に農家の畑があったらその農家がいつに何を植えた、どんなふうに畝を立てているかといった情報は神様級に役立ちます。だって、自分と同じ地域、気候で栽培しているわけですからこれ以上のよいお手本はありません。そんなことをきっかけにお話しできるようになれば、それこそよい先生になってもらえるかも。今はスマホなんて便利なツールもあるので写真を撮ってメモに記録しておくなんて方法もよいでしょう。
翌年も計画を立てよう
翌年の計画は、前年の栽培前の計画と栽培中の記録を突き合わせて立てていきます。栽培中に疑問に思ったところも解決していきます。作業のタイミングや手順など改善が必要ならば反映させていきます。私は翌年の栽培では新しい品種を4分の1から3分の1程度入れて比較して楽しんでいます。種(タネ)半作・苗半作ならぬ計画半作。果たして計画がうまくはまるかドキドキもので、栽培が待ち遠しくなります。
次回は「一粒万倍(いちりゅうまんばい) ~種(タネ)まき前にひと手間かけて種(タネ)をまけば喜び万倍~」です。お楽しみに。