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【第11回】栽培のあれこれ(その1)~栽培にもコツとかよい道具とかがあって、知っていれば楽ちんなの~

【第11回】栽培のあれこれ(その1)~栽培にもコツとかよい道具とかがあって、知っていれば楽ちんなの~

2019/10/29

2014年1月にスタートした前シリーズの「畑がなくてもここまでデキる コンテナ菜園のコツ」の連載から、現在の連載を含め足掛け6年続いてきた連載も残すところあと2回となりました。これまではやや教科書的な書き方をしてきましたが、残りはややぶっちゃけ話も織り交ぜながら個人的な経験に根差した自分なりの作物栽培のあれこれを書いてみたいと思います。私と皆さんの栽培環境は一致するわけではないので、書いた内容が必ずしも皆さんにとって最適ではないかもしれません。また、私自身も日々勉強しながらの栽培なので、これがベストというわけではありません。それでもここは押さえておくと遠回りしないで済むとか、便利といったことは過去の経験の中にあるので触れてみたいと思います。これまでの連載と重複する部分もありますが、振り返りの意味もあるのでそこはご容赦のほどを。

栽培上達の近道は栽培の計画と記録から

実際にメモしたカレンダー

第8回、9回で紹介したシーズン前に各都道府県の栽培暦や実用書などを参考に、種まきや植え付け時期、それに元肥や追肥の量や時期、必要であれば農薬の散布時期や量なども計画します。私は、細かなことはノートに書いておきますが、作業名は鉛筆でカレンダーに書き込んでおきます。理由は複数の作物を栽培していると作業を忘れて時機を逸してしまうからです。

計画に従って実際の作業をしたら、今度はボールペンなどでカレンダーに書き込んで記録しておきます。普段、お勤めの皆さんのガーデニングは、週末の管理が中心になると思います。雨などで作業が1週間ずれるようなこともあるでしょう。それぐらいは誤差の範囲内なので、あまり神経質にならず作業を進めましょう。

ノートにはコンテナのサイズや畑の面積、実際の栽培株数、施肥量の計算、害虫の発生時期、気が付いたこと、こまごまとしたことなど好き勝手なことを書き込んでいきます。特に栽培上の問題点は次の年の管理で修正をかけていきます。例えば「ハクサイの畝とキャベツの畝の間にツケナの床を作ったらハクサイ側のツケナの出来が悪かった」といったようなことが観察できたら、翌年の栽培ではツケナの床の横にはハクサイは植え付けないといったような対策ができます。

肥料の量などは栽培に必要な窒素、リン酸、カリの成分量と、使用した肥料の名前とその成分量、それに1株当たりの施肥量を記載しておくと翌年の栽培がスムーズになります。計画と記録は栽培上達の第一歩です。

やはり種まきにこだわっちゃうんですよね

セルトレイへの長ネギの種まき

栽培は、種まきから始めなくとも苗を購入して植え付けるところからスタートしても構いません。苗から始めれば、種まきから始めるよりも栽培管理のための多くのストレスから解放されます。種から苗を仕立てることは、子育てと同じで手間がかかりますからね。

しかし、種だから得られるメリットもたくさんあります。例えば、苗では入手できない品種が選べます。苗は売れ筋の一般的な品種にどうしても偏りがちです。自分好みの品種を栽培するにはやはり種からということになります。また、好きな時期に栽培をスタートできるというのも種まきの大きなメリットです。促成で通常よりも少し早く育てるとか、抑制で逆に遅く育てたいとか、そういったいわゆる普通栽培の時期から外れるとやはり苗の入手は難しくなります。そして、何よりも苗を安価に作れることも大切なメリットです。もちろん、土やポットの費用など資材代、それに苗を育てる時間もコストですが、自分で行うなら知れています。苗を仕立てて、ホームセンターの苗売り場へ行き、計算していくら分節約できたな、とニヤリとするのも実は私の楽しみの一つです。

移植で根が傷むことで収穫物に影響の出る根菜類の多く、それにツケナ類などの一部の葉菜類は畑やコンテナへ直接種まきする直(じか)まきをしますが、それ以外の葉菜類や果菜類は多くの場合セルトレイへ種まきします。セルトレイを使う理由は、決して安くはない種を無駄にしたくないということもありますが、それ以上に必要な苗を確実に、かつ最低限の面積で育てる意味が大きいです。それにセルトレイで作った苗はよくそろっているということもあります。根も傷みにくく、小さな苗の移植には適しています。いきなりポットで育苗という方法もありますが、芽が出ないと結構な量の土が無駄になります。ポットで育苗する必要があれば、セルトレイへ種まきし本葉が数枚育ってから植え替えた方が確実かつ無駄が少なくて済みます。

トマト「りんか409」の芽ばえ

この小さなスペースで育苗できるメリットを感じられるのは特に春まきの果菜類かもしれません。手製の加温箱は小さいです。そこに入れられる苗の数は限られます。セルトレイは必要な苗数よりも少し多めになるように切って使えるので便利です。

春先の果菜類の育苗が上手にできれば栽培上級者

加温プレートを設置した育苗箱(これにビニールのトンネルを付けます)

春まきの果菜類といえば、ひらめくのはトマト、ピーマン、ナス、キュウリといった夏野菜でしょう。いずれも果菜類で、キュウリはウリ科ですが、それ以外はナス科の野菜です。キュウリは育苗期間が短く、暖かくなってからの種まきで対応できるので育苗に手間はあまりかかりません。問題はナス科の野菜です。理由はこれらナス科の果菜類の種まきは気温の低い時期に行わないといけないからです。皆さんが苗を購入するのは5月の連休前後だと思います。このころになればほぼ生育適温になっているのでよいのですが、種まきはその60~70日ぐらい前、つまり早いとまだまだ寒い2月中~下旬にしないとなりません。

ところが、トマトやナスの発芽適温は25~30℃、ピーマンも28~30℃と高温です。うまく芽を出させるために種まき前に芽出しの処理を行い(温度や湿度をきちんと維持できれば芽出しは必要ないです)、種まき後も高温を維持しないとなりません。はっきり言って簡単じゃない、上級者向きなのです。

じゃあ、上級者向きだから初心者はやらない方がよいのかといえばそんなこともありません。温室などの加温もばっちりの育苗施設を作れば確かにハードルはグッと下がります。

しかし、プロではない私たちが高額な費用をかけて発芽育苗施設を作るというのも現実的ではありません。それを解決してくれるのがジベレリンとペット用の加温プレートです。これらを準備すれば面倒でハードルの高い育苗がグッと楽になっちゃうんです。以前は湿らせた種を一定期間カイロなどで包んで、温度を保って芽出しするなんて面倒なことをやっていました。頑張った割にうまくそろって芽が出ないことも多く、まき直すなんてこともありました。それをジベレリン処理するようになってからはもう楽で楽で、安心感は相当なものです。それに加え、加温プレートを用いれば安心感はより確かなものになります。加温箱の熱源としてペット用の加温プレート(現在はペット用以外にも温度設定がいろいろできるさらによい商品もあるようです。また本来の使用方法ではないので個人の責任でご使用ください)は発泡スチロールの箱に納まるサイズで、耐水加工してあり、温度も春まき果菜類の発芽適温にちょうどよく助かります。何よりも安価です。この2つのものを使うことで、よくそろって芽が出るようになり、種まき後の出芽時間が短くなります。出芽後の成長も寒さ負けすることなく順調に育てることができます。種まきや育苗が本当に楽になるので、ぜひトライしてみてください。

種まき用培養土のはなし

種まき用の培養土、といってもここではセルトレイに充填する土のことです。一般的には育苗用培養土といいますが、さまざまなメーカーからいろいろな種類の培養土が出ています。育苗のプロは、作物の種類によって異なる育苗日数、あるいは要求される養分量の違いを液肥の濃度や施すタイミングでうまく加減するので、培養土の種類はあれこれ持たず、意外と1種類でなんでもこなしてしまうものです。これには経験や独自のレシピがあり、私たちが同じようにしようと思ってもなかなかまねできるものではありません。

そこで、液肥による追肥にあまり頼らず、手抜きで育苗してしまう私の方法を紹介します。ここではサカタのタネの「ネギ播種用培養土 葱キング」というネギの育苗用培養土を用います。ネギやタマネギは育苗期間が50~60日と、ほかの野菜の育苗期間の倍程度の期間を必要とします。他の多くの作物は、セルトレイでの育苗期間は長くても30日程度が一般的です。例えば育苗期間が30日として25日で肥料が切れてしまうと残りは液肥で補うことになりますが、これが実に分かりにくい。大概は急に葉が黄色くなることで、肥料切れに気が付き慌てて液肥を施すというパターンです。これは植物にとってもストレスでよいことは一つもありません。

左:ネギ播種用培養土 葱キング(40L)、右:スーパーミックスA(R)(タネまき・育苗用土)(40L)

植物も人間と同じで、ご飯は三度三度きちんと食べたいのです。そこで「葱キング」の出番です。「葱キング」は、ネギ類の育苗期間中肥効が続き、基本的に追肥をしなくても安心して育苗できる培養土です。ネギ類は土をそのまま使いますが、ほかの作物の育苗には肥料分が多過ぎるので、「スーパーミックスA」などのピートモスやバーミキュライトの細粒などを混ぜて薄めます。もともと「葱キング」の肥料成分は長く効くので途中で肥料分が切れてしまう心配はありません。作物によって育苗期間中に必要な養分量は異なるので、これらの配合割合は異なります。ご自分で試してから使ってください。ちなみに「葱キング」の窒素成分量は土1L当たり700mgなのに対し、葉菜類の育苗用培養土は一般的には100~200mg、果菜類で220~300mg程度です。

また、バーミキュライトは種をまいた後の覆土として単体で使うとより多くの場合に出芽率が高まります。いずれにせよ、「葱キング」と「スーパーミックスA」とバーミキュライトを持っておけば育苗用培養土はとしては用が足り、無駄に土を持つ必要もありません。

長持ちする苗のはなし

4月に種まきして、9月の植え付けの間際の長ネギ「夏扇」シリーズの苗

種は種類にもよりますが、低温で乾燥していれば基本的に長期間の保存が可能です。一方で保存ができないのが苗です。定植日から育苗期間をさかのぼって、播種日を決めて種まきするのが一般的な方法です。

ところが種ほどとはいいませんが、品目によっては育苗期間を上回って置いておけるものがあります。例えばレタス類や長ネギ、キャベツやブロッコリーなどがそれです。

セルトレイに種まきし、通常の育苗をします。植え付け適期になればそのままトレイから外して植え付けとなりますが、保存しておく場合は、ここからの処理に秘密があります。液肥などで追肥することなく土が乾いたら水やりする程度の管理にします。当然、下葉は黄色くなり、場合によっては枯れて落ちますが、中心付近の比較的若い葉は付いています。成長はほとんどしません。

この苗を使いたいときに畑やコンテナへ植え付けると目を覚ましたように再び成長を始めます。私の場合、例えば長ネギは4月上旬に種まきした苗を9月下旬に植え付けて育てていますが問題なく育ちます。もちろん植え付けの60日程度前に種まきすればよいのですが、こうしておけば夏前と秋の2回の植え付けに対応でき、異なる収穫時期用の苗を1回の種まきと育苗で済ませることができます。長ネギの場合、真夏は暑さのため休眠するので土が乾いていても大きな問題になりません。

他にリーフレタスも、長ネギほどの長期の保存はできませんが、育苗は1回で、植え付けは時間差で順次行い収穫するようなことをしています。気が向いたときに空いたスペースに植え付けられるので重宝します。

次回もお楽しみに。

JADMA

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