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【第12回・最終回】栽培のあれこれ(その2)~楽して経済的なエシカル栽培~

【第12回・最終回】栽培のあれこれ(その2)~楽して経済的なエシカル栽培~

2019/11/26

今回も前回に引き続き、栽培のあれこれを自分勝手に書きたいと思います。あれこれといっても病虫害防除を中心に農薬や化学肥料の投入について触れてみます。それに関していかにコストをかけずに楽に栽培するか、併せて人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動を表す今話題の「エシカル」な取り組みにつながればと思っています。

なぜオーガニックは廃れたのか

農薬や化学肥料を使った野菜は絶対に食べたくないという、オーガニック(有機栽培)志向の人は周りにもいます。江戸時代までは化学産業はなく、循環型社会が成立していたので、オーガニックが当たり前だったわけです。今だってオーガニック食材を求めることは可能ですが、全耕地面積に対するオーガニックの取り組み割合は0.2%しかなく、結局、割高だし、選択肢も限られるのが実情です。

では、なんで私たちはそんなオーガニックな暮らしをやめてしまったのでしょうか。答えは簡単です。産業革命以降の爆発的な人口増大を支えるには効率的に大量の食料を確保する必要があったからです。栄養が循環せず、作物に一方的に収奪される田畑には、手軽に正確に、しかも衛生的な化学肥料は都合がよいのです。

また、同じ品目の作物を大量に作ることは、特定の病害虫の大量発生の原因になります。大面積に大量に湧いてきた害虫を人が手でつまんで捕殺するなんて現実的ではありません。作物を安定的に生産するためにやはり農薬も欠かせないのです。

農薬を使うか使わないか

私は農薬推進論者でも熱狂的なオーガニック傾倒者でもありません。ただ、作物を栽培する立場としては農薬を使うと栽培が格段に楽になりストレスを感じなくなるのは間違いありません。肥料に関しても同様です。オーガニックで野菜を作るためには、土の栄養を確保するために大量の堆肥を投入し、雑草と戦い、虫や病気と格闘しなければなりません。さらに有機JAS※1に従ってオーガニックの野菜を作ろうとしたら最低でも種まきや苗の植え付けの過去2年以上は化学的な農薬や肥料を使うことはできません。

これでは大面積での栽培なんて現実的ではありません。もたもたしているうちに食料の安定供給はあっという間に破綻してしまい、地球という船に乗った77億人は飢えてしまいます。

家庭菜園程度の規模で、退職して時間も十分あり、目や手も行き届くし、野菜に多少穴が開いていようが、そろいが悪くても、少しくらいの虫なら払って洗ってOKというならオーガニック栽培を追求するのも楽しいと思います。いやむしろ理想です。ただ、私のように働きながら週末だけにしか面倒は見られないという場合は、オーガニックの栽培はなかなか大変なのです。なので、よりオーガニックに近い栽培を目指し、余力があればオーガニックに挑戦するくらいの方が現実的だと思っています。

※1 有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができ、この「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されている。

化学農薬や化学肥料を使うというのはどういうことなのか

例えば、私たちだって、病気になれば病院へ行って、薬をもらって飲みますよね。私はオーガニック派だから薬は飲みませんなんて、なかにはそういう人もいるかもしれませんが、多くの人は言わないわけです。そんなものです。それは薬の研究が進んで、毒性やそれに伴う副作用などをよく知った上で、お医者さんが処方してくれるから安心して使っているわけです。

実際に植物から聞いたわけではないのですが、植物だって、病気にかかり、虫が寄生すれば治してほしいはず。今は、農薬の毒性に関して、研究も進み、また厳しいチェックがあるので、決められた作物に、決められた濃度を、使用時期を守って使えば人体への影響はほぼないと思ってよいでしょう。自分で使う分にはそこのところを確認しながらできるのでより安心ですよね。買ってきた野菜だって例えばGAP※2認証をきちんと取得した生産者の野菜ならば農業の工程管理がきちんとできているので安心です。

とはいうものの、いくら安全だからといっても化学農薬を使うことは、人工的に作られた化合物を自然環境へ放出することにほかなりません。ましてやそれが私たちの口に入る食用作物に使われることを考えると、その使用は注意深く、かつ最小限に抑えることが大切なことに変わりありません。

ところで、オーガニックでは農薬は使わないと思っている人がいますがそれはちょっと違います。農薬によってはその成分に、食品添加物と同じものや天敵農薬のように害虫を捕食する虫が農薬という場合もあります。このように天然物や、天然物由来の一部の農薬は、オーガニックにも使えることになっているのです。なので「農薬」イコール全てが化学的なものとは限らないということを覚えておいてください。

肥料は、空気中に大量にある窒素と水素から作ることは可能なのですが、水素の取り出しにはエネルギーが必要で実際には天然ガスが原料になっています。従って、地下資源の消費を減らすという観点からも化学肥料の消費は抑えたいものです。

また、化学肥料だけだと栄養が偏り、土の状態も悪くなります。堆肥など有機質の肥料を施せば化学肥料では補えないプラスアルファの栄養や機能が得られます。私たちが日ごろからきちんと食事をし、適度な運動をしたり、穏やかに暮らすといったことで病気にならないような努力が必要なように、土の状態を適切に整えてあげることは植物の食と住の問題に関わり、健全に育つために大切です。それに堆肥の利用は、近年問題になっている畜産廃棄物や食品残渣などの循環利用に役立ちます。近いうちに肥料取締法(法律の名称も変わるようです)は改正になり、堆肥の積極的な利用を促すよう変更される予定です。

※2 GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のこと。これを我が国の多くの農業者や産地が取り入れることにより、結果として持続可能性の確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化に資するとともに、消費者や実需者の信頼の確保が期待されます。特にJGAP、ASIAGAP、GlobalGAPは、外部の認証機関による認証で、信用度が高い。

IPMってなんだ

大切なのは、毛嫌いしないで農薬や肥料のことをよく知って、うまく利用することです。IPMという言葉をご存じでしょうか。Integrated Pest Managementの頭文字を取った言葉で、総合的病害虫・雑草管理と訳されます。私たちが利用できる全ての防除技術を経済的な負担を考慮しながら検討して、病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じようというものです。その目的は私たちの健康に対するリスクと環境への負荷をできるだけ小さくし、自然が持つ病害虫や雑草に対する抑制機能をできるだけ引き出し、同時に安心して食べられる農産物を安定供給しようというものです。つまり、できるだけ安上がりな耕種的、物理的、生物的な方法を用いて病虫害を防除し、化学農薬という化学的な手段の利用は最終手段として必要最低限にしましょうというものです。

耕種的な方法には例えば耐病性品種を選ぶという方法があります。これだけでも特定の病気の感染は抑えられるので農薬の使用は減らせます。あるいは輪作をして連作障害を回避しましょうとか、接ぎ木苗を使って土壌病害を回避するなんていうのもこれです。物理的な方法には、種をまいた直後から防虫ネットで覆い、害虫に産卵の機会を与えない予防的な効果が高い資材を使うものがあります。ほかにも「エコピタ液剤」のような農薬だけれど素材はいわゆる水あめで、私たちの鼻の穴のようなもので虫にある気門をそれで封鎖して窒息死させて退治しちゃおうなんていうのもこの方法に当たります。生物的な方法には天敵や微生物農薬を使う方法があります。例えば軟腐病に効果のある「バイオキーパー水和剤」は「エルビニア・カロトボーラ」という細菌(実は病原性のない軟腐病菌)などがあります。

何よりも病虫害の発生の少ない時期に防除することが被害を最小限に抑えるためのコツですから、日ごろからよく観察することも大切です。普段働いていて週末しか世話のできない私ですが、帰宅後にヘッドライトをつけて行う夜の害虫探しは日課です。

どんなふうに自分の栽培にIPMを取り入れるのか

栽培計画を立てるときに、一般的な栽培の方法で施肥と薬剤散布の計画を立てます。ここまでは以前にご紹介した通りで、都道府県、地域のJA、農林水産省のHPなどから暦の入手は可能です。これに、前述したIPMの耕種的、物理的、生物的な方法を組み入れて化学的な農薬や肥料の削減を考えていきます。ありがたいことに今はウェブ上でネットサーフィンができるので、情報はお金をかけずに得られます。あれこれ工夫のために頭を悩ますのは楽しい時間です。

実際にあるキャベツ産地の栽培暦を使って、冬キャベツの栽培を例にシミュレーションしてみましょう。暦には次の通りあります。1㎡当たり完熟堆肥を2kg、有機配合肥料120g、追肥は化成肥料を40gを1回施します。また、病虫害の防除のための農薬は9月中旬の植え付け時に、植え付け穴にオルトラン粒剤を1株あたり2g施します。さらに下旬にアファーム乳剤、10月上旬にアドマイヤーフロアブル、同中旬にマッチ乳剤、同下旬にフェニックス顆粒水和剤を散布します。

まず品種選びです。例えば「新藍」を使えばいくつかの病気に対して強い性質を持っているのでこれを選びます。次に施肥です。堆肥を多くするという方法もありますが、私なら溝施肥にして肥料を4割減らします。つまり有機配合肥料120gを72gにするということになります。大したことはないような量に思えますが、生産者の規模でいうと10a当たり120kgを72kgにできるわけですから、これだけで約50kg、肥料袋なら2袋半の節約です。次に農薬です。一つは植え付け直後に防虫ネットのトンネル掛けをする方法です。メリットは無農薬にできることですが、欠点はネットや支柱、留め具などの資材代、それにネット張りの労力がかかります。さらにネットを張ったからといって放っておくことはできない点です。ちょっとした隙間から虫が入れば中で増えてしまい逆効果です。従って意外とまめに確認が必要です。それに大規模栽培には不向きです。

私の場合、比較的新しい薬の「べリマークSC」をセルトレイで育苗した苗にジョウロを使い灌注(かんちゅう・土に薬液を染み込ませる)してから植え付けます。この薬は高価なのですが、それに見合う効果があります。特に薬効が1カ月ほどありしっかり効きます。つまり、オルトラン粒剤分をべリマークSCに置き換え、アファーム乳剤からマッチ乳剤までの3回分はやめることができます。最後のアオムシ・ヨトウムシ対策のフェニックス顆粒水和剤は、有機栽培にも使える微生物を利用したBT剤に替えることで、農薬の使用回数はべリマークSCの1回だけ(有機栽培に使える農薬は使用回数としてカウントされない)ということにできます。コスト的には別途計算が必要ですが、3回分の農薬をそれぞれ購入しないで済み、散布労力も軽減できます。植え穴にオルトラン粒剤を投入する手間も省けます。それに、べリマークSCはトマトやナス、ピーマンなど夏野菜のポット苗へ同様に処理することができ、重宝しています。またBT剤の使用で環境負荷はグッと減らせます。がんばって防虫ネットを使い無農薬栽培に挑戦してもよいのですが、今は労力軽減を優先しています。

害虫の被害は大きくなってからよりも、幼苗のときの方が甚大です。特に例に使った冬採りキャベツの場合は、気温が下がっていく時期の栽培で、害虫の発生はどちらかというと徐々に減っていくので、地域によっては最後の農薬散布はやめることも可能です。

防除については、使用する品種を「新藍」にすることやべリマークSCの灌注処理は耕種的、防虫ネットを使えば物理的、BT剤は生物的な方法ということになります。皆さんも自分の栽培に工夫を加えてどんなエシカルな効果が得られるかシミュレーションしてみてください。

さて、「畑がなくてもここまでデキるコンテナ菜園のコツ」から続いた連載も今回が最終回です。分かりにくい表現も多かったかもしれませんが、これまでの内容が皆さんの栽培の一助になり、その栽培にキラリ☆差がつけば幸いです。またどこかの誌面で皆さんと再会できることを楽しみにしています。ありがとうございました。

注釈

薬品の適用病害虫名・作物名・使用方法は、メーカーのホームページや商品のラベルをご確認ください。

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