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連載

【第1回】小さな庭でも感動のある空間を作ろう

文・写真

加地一雅

かじ・かずまさ

株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。


執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。

【第1回】小さな庭でも感動のある空間を作ろう

2016/01/12

ほんの小さなスペースでも庭はできます。今まで気にも留めなかった空間が、ちょっとしたやる気と工夫で見違えるような感動の空間に生まれ変わるのです。連載初回の今回は、小さな空間の可能性と、空間作りの第一歩についてお話ししましょう。

-ポイント1- 小さな空間ほど可能性は大きい

手前のバラは「ボレロ」、宿根草は手前からセントランサス(白)、デルフィニウム(白)、低い位置のものは宿根ネメシア(ラベンダー色)、奥の薄紫色の花は宿根リナリア

写真のように、どこにでも植栽スペースを作ることは可能です。従来、庭と考えているエリア以外でも工夫すれば、道路からよく見える駐車場でも実現できました。植物は、バラと丈夫な宿根草をメインに少しの一年草を加えています。

現代の住宅は、敷地いっぱいに建物が建てられ、さらに駐車スペースを確保すれば一見、庭を作れるようなスペースはないように見えます。でも、じっくり観察してみると玄関の周りや道路、隣地との間にわずかな隙間とも呼べる空間がきっとあるはずです。この空間が、工夫次第で感動のある空間に変身する可能性を秘めているのです。まずは狭い空間だからといって諦めている気持ちを払拭し、そこに緑や花があるとどんなに気持ちが安らぐかを想像してみることです。

最初の段階では、デザインやどんな植物が育つかは考えません。そして、思い立ったらすぐに近隣を歩いてみることもおすすめします。すでに先輩たちが狭い空間を上手に植物であしらっている場所に出合うことが多いでしょう。それを見て自分がどう感じるか、イメージトレーニングします。これは自分が何に反応し、何を美しく感じたかがわかって、けっこう面白いです。

-ポイント2- 狭い空間は立体壁面に着目しよう

壁伝いに旺盛に茂るクレマチス「ジャックマニー」(紫)と、ロニセラ「セロティナ」(ピンク)。手前に咲く清楚な花はヤマアジサイ

歩道に面した外壁にワイヤーを取り付けて、つる植物で壁面を飾っています。土の面はわずかしかありませんが、植物が立体的に壁面に茂り花が咲くと、感動のある空間を作ってくれます。

狭い空間では、平面での展開はおのずと限界があります。ではどこに着目するかというと、立面です。特に建物がたくさん立っている空間では、人の視覚が最初に感じ取るのは奥行きなどの平面感覚より、建物壁面や立ち木などの立面感覚だと思います。たとえそこが狭い平面空間であっても、樹木や高さのある草花が植わっていたり、つる植物が壁面を飾っていたりすると、視線は真っ先にそこに向かい、インパクトを受けるでしょう。

壁面には左上から、つるアジサイ、バラ「ヴァイオレット」(紫)、「サマー スノー」(白)、「モーティマー サックラー」(ピンク)。根元の宿根草は左から、カラミンサ、アガパンサス、ゲラニウム サンギネウム(赤紫)、アトリプレックス(銀白葉)、リベルティア(緑葉)、ゲラニウム「ビオコボ」(淡ピンク)など

建物前の狭い横長のスペースにつるバラと丈夫な宿根草をアレンジ。場所が狭くても立面に植物が存在すると、見た目の効果は抜群に高まります。

園芸の本場イギリスに行くと、建物の周りの壁面を上手に使った実に美しい光景に出くわします。建物の周りの狭くて長細い空間にうまく木を植えたり、つる植物が絵になるように壁面を這っていたり、日本でもぜひ取り入れたいものです。

-ポイント3- 感覚の刺激が感動を呼ぶ

庭がなくとも、そこにコンテナを置いたりハンギングをつり下げるだけで空間は一変します

写真はイギリス・コッツウォルド地方で見た、ハンギングとたるを使ったコンテナーガーデンで飾った風景。古い建物外壁にコンテナの濃い緑の低木と、空中に浮かぶ青や白のパンジーがとてもマッチしています。

何に感動するかというのは、人それぞれ異なりますし、その時の気分でも変わるかもしれません。こと庭という空間に関しては植物が主役で、構造物は脇役の扱いになるでしょう。この主役の植物ですが、大きさ、フォルム、枝葉の茂り方、花色、葉色、実の色やつき方、香りなど、人が感じ取る要素は多岐にわたります。自分が一番感じる要素は何かを知ることはとても大切です。

この大切にしたい要素と照らし合わせながら、対象とする空間の環境条件にかなう植物選びはしっかり時間をかけながら情報をチェックして、納得するものが見つかるまでやってください。五感を総動員しながらあらためて植物に接してみると、今まで知らなかった植物の世界が、いかに深いものかを感じると思います。

自分を感動へと誘ってくれる植物、ぜひ見つけてください。

イラスト:ハンダタカコ

次回は「どんな庭でも基本は土作りから」の予定です。お楽しみに。

JADMA

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