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連載

【第8回】家の周囲の暗くて細長いスペースを見直そう

文・写真

加地一雅

かじ・かずまさ

株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。


執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。

【第8回】家の周囲の暗くて細長いスペースを見直そう

2016/08/09

家のまわりを見渡した時、狭くて暗い、庭としてはほとんど使われていないスペースが、かならずやあると思います。ちょっと視野を広げて、こんなデッドスペースに少し手を入れてみると、思いもよらなかった夢の空間が広がるかもしれませんよ。

イラスト:ハンダタカコ

-ポイント1- よみがえる家のまわりの狭いスペース

自然を取り込めば、心落ち着ける空間に生まれ変われる

現代の住宅事情は狭い敷地に、建物スペースを優先するため、隣地との間に狭くて、暗くて、細長いスペースしか残されていないところが多いと思います。日がささない、ジメジメしている、などの理由で植栽を諦めている方も多いことでしょう。ところが、こんな場所もちょっとした工夫で、見違えるような空間に変身させることができます。

例えば、下の写真の立地は、隣地が高く物置などが丸見えで、決して心落ち着ける場所ではありませんでした。まずは既存のブロック塀にイタビカズラが覆うように、そしてその上にウッドフェンスを立て、隣地が見えない独自の空間が開けるようにしました。

さらにその前にクロモジやアオダモなどスリムな縦ラインが美しく、通路の邪魔をしない樹種を植えて自然を取り込みました。歩くところは枕木を敷いて、絵になる平面空間を作り出しています。家の窓から見える外の景色が一変した事例です。

クロモジ(手前)、アオダモ(中ほど)などを植えた塀側に対し、反対側にはクーラーの室外機の両サイドにレンガを積んで、その上に板を渡して鉢を並べて、無機質な室外機のイメージを緩和しています

次にご紹介する空間は、玄関につながる狭い通路です。使い古した大小さまざまな耐火レンガを、曲線を描いて敷き並べ、遠近感を出しつつ空間に表情を出しています。塀側には低いレイズドベッドで高さの変化を出して、季節を感じられる植栽を施し、ブロック塀にはツルアジサイとイワガラミを植え、花と緑で覆われるように仕掛けています。

家のまわりの狭い空間をよみがえらせる一番のポイントは、隣地との境界にフェンスを立てたり、木やつる性植物で緑を配して、隣との境を作り、独自の空間を作ることです。そして、通路にレンガや石などを敷き並べ、絵になる小径を作ると、そこは見違えるような空間に大変身します。

レイズドベッドの中ほどには、ピンクの新芽を楽しむアセビを、手前には白い小花をいっぱい咲かせるヒメウツギを植え、季節を感じられるようにしています

-ポイント2- 細長い空間の中にいくつか小さな場面を

数種類の植物を組み合わせてフォーカルポイントを作る

木はスリムな株立ちのアオダモ、その横に斑入りのヤツデ、根元にハランを。ブロック塀にはイタビカズラが覆い、自然を感じられる潤いのある空間に変身しました

家のまわりの細長い空間は、ラインでつながっています。単調で変化がなければ、見た目にすぐに飽きてしまいます。そこで歩くたびに、また見る方向を変えるごとに違った場面展開ができるように、ポイントポイントに小さな風景を作っていきます。

ポイントになる場所は、入り口、コーナー、家の窓からよく見えるところなど数カ所はあると思います。このポイントに、シンボルになる高さのある木を、その脇にその木と相性のよい低木や宿根草を植えて、ひとつのユニットで小さな景色を作ります。

上の写真は、キッチンの窓の前の植栽です。今まで殺風景だった景色が、フェンスと木が入ることによって一変しました。いずれの植物も狭くて暗い空間でも元気に育ち、しっとりとした落ち着いた雰囲気を醸しています。

では狭くて暗い通路のコーナーはどうすればよいのでしょうか。コーナーは目に留まるフォーカルポイントになる重要な場所です。下の写真では、黄色い斑点の星斑のアオキを植えて緑の中に変化を出し、その前に、バケツの器に植えた切れ葉の美しいモミジを、さらにその根元に黄花のイカリソウを植えて、この3種類がそれぞれの違いを出しながら、ほどよいバランスを保っています。暗いといっても昼間の時間帯によっては、真上から日がさして、心地よいシーンが展開します。

小さな場面は連続する必要はありません。むしろ間があくことによって演出効果が高まると思います。まずは、ひとつ目の場面作りに、ぜひチャレンジしてください。感動が待ってますよ。

星斑のアオキ、切れ葉の美しいモミジ、黄花のイカリソウを植えて、3種類の違いを出しながら、ほどよいバランスが保たれた心地よいシーンです

-ポイント3- 壁面と足元の緑化でキマリ

植物を選べば日陰の地でもいきいき育つ

ヘデラは種類や品種が多く、それぞれに違った表情を見せてくれます

家の周囲は、フェンスやブロックなどの何らかの壁に囲まれていると思います。この壁面、何もしないよりは、緑があった方が、潤い感が違います。壁面の素材によって、使える植物は違ってきます。

上の写真はブロック塀に這わせたヘデラ ヘリックスです。ヘデラは地面に植えて、壁面に気根をくっつけると、這い上がる力は抜群に強くなり、縦横に茎を伸ばしながら、緑いっぱいの壁面ができあがります。一度覆った後、壁から飛び出た茎の剪定を繰り返すと、密に詰まったきれいな緑の壁ができます。

このように、ブロックのような壁であれば、ヘデラ ヘリックス(西洋キヅタ)、ヘデラ カナリエンシス(オカメヅタ)、イタビカズラなどが一年中常緑の葉で覆われ、おすすめです。フェンスなどメッシュ状であれば、テイカカズラやナニワイバラがおすすめで、常緑の葉に加えて花も楽しめます。

通路の足元の緑化も重要です。通路脇の邪魔にならないところであれば、シダ類がおすすめです。イワヒトデやリョウメンシダは常緑でシダ独特の雰囲気を出してくれます。草ものではタツナミソウやユキノシタ、ティアレラなどは日陰でも可憐に花を咲かせてくれます。

また、日陰の足元や木の根元にぴったりな植物はエビネとギボウシです。共に日本がふるさとなので、栽培は難しくありません。ただし、植えるところは腐葉土などの腐植質を多めにすき込んで、根がしっかり張るように改良しておいた方がよいでしょう。壁面と足元に、緑があるのとないのとでは大違いです。皆さんも一度植えてみて、実感してみてください。

エビネもギボウシも品種が多いので、自分好みの表現ができるのも楽しみです

今までデッドスペースだと思い込んでいた家の裏やサイドの暗くて細長いスペース、一度見直してみてはいかがでしょうか。

次回は「庭にバラを取り入れよう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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