文・写真
加地一雅
かじ・かずまさ
株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。
執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。
【第12回】椅子やベンチ、オーナメントを使ってみよう
2016/12/13
庭は、たとえ小さくても、椅子やベンチが一脚置かれるだけで、まるで大きく変身します。また、オーナメントがちょこっと置かれるだけでも、庭の表情は一変します。植物だけで構成された庭も良いですが、椅子やベンチ、オーナメントを使って実用性と遊びを取り入れると、もっと庭の魅力が増します。これらを使わない手はありませんよ。
-ポイント1- 庭を引き締める椅子とベンチ
庭にぴったりの椅子を探せば効果は抜群
庭の主役は植物です。木の緑、花の色は最重要な要素です。庭を作るにあたっては、植物だけでもほぼ出来上がります。その他の要素として園路やテラス、フェンスなども必要な庭では、これらをデザインに組み込むと完成度は上がります。庭が出来上がった時点でいま一度庭を眺めて、何か物足りなさを感じたならば、椅子やベンチを考えてみてもよいと思います。
上の写真は、英国コッツウォルズ地方で見かけたメモリアルのベンチです。背もたれの上中ほどに銘板が張られています。故人から寄贈されたベンチで、英国中あちこちで見かけ、パブリックスピリッツが非常に発達しているのに感銘を受けます。
椅子やベンチは実用性とデザインの両方の工夫を凝らしたもので、オブジェとしても機能します。ですから椅子やベンチを庭に置くと、視線がそこに向いて、フォーカルポイントとしての役割を果たしてくれるようになります。ばらばらにある木や花を背景に、椅子やベンチが庭をぎゅっと引き締める効果を発揮してくれるわけです。下の写真をご覧ください。この二脚の椅子がない空間を想像すれば、この空間に締まりがなくなるのが、お分かりいただけると思います。
椅子やベンチとひと口に言っても、素材やデザインの違いで種類がいっぱいあります。例えば下の写真のベンチは、腐りに強いチークという木材でできた二人掛けの肘掛け付きベンチです。チークは環境条件で変わりますが、通常屋外で20~30年は使用に耐えてくれる木材です。DIYで木を加工して好みのサイズやデザインのものを作ってもよし、豊富な既製品から選ぶもよし、創造力全開で自分の庭にぴったりのものを創造してみてください。
-ポイント2- 庭に溶け込むガーデンオーナメント
花がなくても庭の雰囲気を決めてくれるもの
庭は植物を中心に表現するものですが、花があったり、なかったり、自然の影響をダイレクトに受けるものです。時として、観賞に供するものがなくなったりもします。そのときに役立つのがガーデンオーナメントです。上写真のリスの木像は、庭の中に違和感なく溶け込んでいて、花がない季節でもオブジェとして機能し、視線がここに集まります。
ガーデンオーナメントですから、人がアートとして作り出したもので、味わい深く、しかも移動しない限りそこにずっと存在してくれます。木製、石材製、コンクリート製、樹脂製とさまざまな素材でできていて、デザインも多種多様です。下の写真は、コンテナを置くだけではちょっと物足りなかったので、遊び心でカエルの置物を並べています。見ているだけで、ほのぼのとする風景が出来上がりました。また、最後の写真は英国でよく見るセメントで作られたきのこの置物です。これを置くと、英国のコテージガーデンを彷彿とさせる空間が出来上がります。
ガーデンオーナメントは庭主さんの個性がはっきり出るので、普段から目を肥やし、センスをしっかり磨いておくことが大事です。自分が思う理想の庭作りの最後の仕上げで使うものですから、自分が納得する好みのものが見つかるまで探しましょう。理想を目指すなら、自分で手作りという手もありますよ。
-ポイント3- 遊び心で使いたいガーデン向きアンティーク
経年変化していく庭にはアンティークがよく似合う
使い古した道具や物は味わい深さが漂っています。庭も同じく経年変化で味わい深い空間に変わっていきます。試しに、落ち着いた庭の中にピカピカの新品が置かれたら、そこだけが、浮いたように見えてきます。そんな場所には、やはり古いもの、使い古したものがぴったりと合うと思います。
上の写真はアンティーク屋さんの壁面のディスプレーで、庭で使う小道具類を木製の円盤に取り付け、壁面装飾に使っている例です。下の写真は英国コッツウォルズ地方の農家民宿の外観です。地元農家で古い時代に使われた馬の蹄鉄や古道具がバランス良くディスプレーされ、ここに住む人の美意識と生活感の高さを物語っています。
庭は通常、屋外ですから風雨にさらされます。経年変化で朽ちてしまっては、元も子もありません。ですから鉄や石や陶器などでできたものがおすすめです。庭が和風であれば古瓦や古い石を、洋風であれば古道具を、エスニック調であれば好みの国の古い置物を、それぞれ工夫して置けば、そこにしかない空間が出来上がります。次の写真は、かなり古いトラクター用の耕運機材に鮮やかなブルーのペイントを施して、庭のオブジェとして使っている例です。
庭の中でも軒先の内側というロケーションがあれば、木製のものも朽ちずに存在感を発揮してくれます。アンティークは特に出合いが大切ですから、各地の古物商や市を物色してまわるのも楽しいものです。
庭の主役はあくまで植物だと思いますが、脇役の椅子やベンチ、オーナメントもあるとないとでは大違いです。ただ、ぴったりくるものを見定める眼力と審美眼は常日頃から鍛えておかなければいけませんね。
次回は「冬花壇の手入れ法と楽しみ方」を更新予定です。お楽しみに。