タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

【第14回】オーガニックで植物を育ててみよう

文・写真

加地一雅

かじ・かずまさ

株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。


執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。

【第14回】オーガニックで植物を育ててみよう

2017/02/14

オーガニックで育てるというと、一般的には農薬や化学肥料を使わず、堆肥や有機質の肥料を使って植物を育てることを意味して、使われていると思います。植物が本来持っている力を100パーセント発揮させて、病害虫の被害を最小限にとどめる栽培方法でもあり、家庭園芸でも十分実践できる育て方だと思います。

イラスト:ハンダタカコ

-ポイント1- 自然の生態系をお手本に育てる

多種多様な植物を植えて豊かな生物相を作り上げよう

農薬、化学肥料を一切使っていないガーデンでは、多種類の植物を混植することで、虫害のリスクを低く抑えられるように植栽しています

野山の植物は、自然の恵みの雨水だけですくすくと元気に育っています。それは自然のサイクルの中で、その環境に適応した植物が、微生物の力で分解された栄養分をゆっくり吸収して、周りのいろいろな生物たちと共生しているということにほかなりません。庭や畑は人工環境であるため、放置してしまうと野山のように問題なく、すくすくと育ってくれるわけではありません。しかし自然の中の植物の育ち方をお手本にすることで、農薬や化学肥料に頼らない栽培が可能になります。

ポイントはいくつかありますが、栽培する植物が環境に適応していることが最重要です。次に、極力植える植物が単一になるのを避けて複数を組み合わせること。そして、土壌微生物が活発に活動できる豊かな土を作って栽培すること。加えて、日当たり、風通しのよい環境をつくることなどです。どれも自然を教科書に学んだことばかりです。自然の生態系はたくさんの要素が絡んでとても複雑です。全てをまねることは無理ですが、そのエッセンスをくみ取って栽培に生かすと、よりオーガニックな栽培に近づくと思います。

オーガニックな栽培をするには極力、自然の力に委ね、過度に人が介入しないことがポイントかもしれません

上の写真は農薬、化学肥料を一切使っていないガーデンです。ボーダー花壇を中心に、バックに雑木林が、手前に芝生が広がっています。多種多様な植物が植わっていると、そこで生きる生物相は非常に豊かです。地中、地上の微生物やミミズや昆虫類などの小動物、そして空を飛ぶ鳥たちも含め、活発な食物連鎖が行われ、お互いがコントロールされてバランスを保ちます。よく見るといろいろな虫たちがいますが、小さな生態系ができているのか、観賞上大きな問題にはなっていません。

下の写真も農薬、化学肥料を一切使っていない植栽例で、3株のつるバラと複数の宿根草による多様な植栽になっています。強健なバラは毎年よく咲いてくれ、根元にはアケボノフウロやアガパンサスなどが季節を彩ってくれます。

無農薬、無化学肥料で栽培している、つるバラと丈夫な宿根草で構成している植栽です。白いバラは「サマー スノー」、紫バラは「ヴァイオレット」、ピンクバラは「モーティマー サックラー」

-ポイント2- 丈夫な種類を選んで、強い体に育てることが大事

植物が本来持っている再生力で病害虫を跳ね返そう

バラの中でも最強健の部類に入る、八重咲き黄花のモッコウバラです。病虫害はまずありません

草花、野菜、果樹、いずれも品種は数え切れないほどあります。丈夫さにおいても品種間の格差はかなり存在することも事実です。オーガニックで育てるには、その植物本来の力を最大限発揮させることが重要ですから、その土地、環境に合った丈夫な品種を選ばなければなりません。品種情報を事前にチェックして、念のため鉢植えでテスト栽培をしてもよいかもしれません。それほど品種選びは大事だと思います。

例えば上の写真のモッコウバラはバラの中でも最強健の部類に入るといえましょう。再生力も抜群です。写真の株はほぼ無肥料で農薬も一切散布していません。毎年かなり剪定しますが、ご覧の通りの花のボリュームで毎年よく咲いてくれます。また、下の写真はつるバラ「ロココ」で、こちらもとても丈夫です。つるバラは強健種が多く、他のタイプよりもオーガニックでの栽培に向いていると思います。

つるバラ「ロココ」です。とても丈夫なつるバラで、オーガニックで栽培できます

品種選びに加えて、しっかりとした強い植物体に育てることも重要です。環境との不適応や肥料のやり過ぎなどで植物が軟弱に育つと、病害虫の被害を受けやすくなります。植物を健康に元気に育てていると、病虫害の頻度はかなり低くなりますし、また被害を受けても植物が本来持っている再生力でよみがえります。

植物の再生力には目を見張るものがあり、少々の病害や虫害程度では、害を免れた部分から再生し、たいがいの場合元の姿に戻ります。ただし環境に適応しつつ、豊かな土にしっかり根付き、元気に育っていることが再生の条件です。植物を強い体に育てる基本として、肥料や水をやり過ぎないことも大切です。下の写真はオーガニックで栽培している庭の様子ですが、剪定で日当たりや風通しをよくして、適期適量の施肥で屈強に育てると、無農薬での栽培が可能になります。

オーガニックで栽培しているバラと草花の庭です。バラをオーガニックで栽培するには、黒星病やうどんこ病に強い品種を選ぶことが重要です

-ポイント3- オーガニックで家庭菜園にチャレンジ

たっぷり愛情をかけた野菜から元気と安心をいただこう

トウガラシ「ジャンボ甘長」。20cm内外ある大実で、しかも肉厚の食べ応えのある甘トウガラシです

オーガニックで栽培したいという要望は、一番野菜に多いでしょう。食べ物で体に入るものだから要望が高いのもうなずけます。オーガニックは世界的なムーブメントで、アメリカではオーガニックの大型スーパーがあるほど盛んです。野菜のオーガニックでの栽培方法も、今まで述べてきた栽培方法と基本は同じです。土をよくすること、環境に配慮すること、品種を選ぶこと、健康で元気に育てること、この4つを守れば可能です。

上の写真はトウガラシ「ジャンボ甘長」です。辛みの心配はほとんどいらない甘トウガラシです。トウガラシは比較的病害虫の少ない野菜ですが、さらに、普段お目にかからない品種を作ることは、家庭菜園の醍醐味(だいごみ)です。下の写真は家庭菜園を想定した見本ガーデンです。いろいろな品種の野菜が植えられていますが、どれも育てやすい品種で、無農薬、無化学肥料で元気に育っています。

左・ミニトマト「とってもアイコ(R)」、右・ミニトマト「スイートドロップ(R)」、手前は金時草、奥はトウガラシ「ジャンボ甘長」、周りはネギニラ「なかみどり」。オーガニックで育てています

ことに野菜は成長が早いので軟弱に育てないように気を付けることが大切です。また密植にならないように植え付け間隔を広めに、さらに間引きやわき芽取りをして、風通しや日当たりをよくすることは病害虫を防ぐ上で大切です。

家庭菜園は、家庭の庭先で作るのでそんなに面積は広くはないと思います。ネットを掛けて葉を食害する虫から守ったり、よく観察して食害する虫を捕殺したりと、ひと手間かけることによって、野菜は病害虫からかなり守られると思います。自分で育てた愛情いっぱいの野菜は、元気をいただけること請け合いです。

しずく形の愛らしいミニトマト「スイートドロップ(R)」。とても育てやすく、家庭菜園でも上手に育てられます

手前のネギ状の野菜はとても珍しいネギとニラの雑種のネギニラ「なかみどり」です。育てやすく、オーガニックで育てるにはぴったり

人工で作られた庭やベランダでも、自然の力がしっかり働いています。自然に寄り添いながら、ストレスを自然に極力与えないオーガニックでの花や野菜の栽培は、地球にエコで、何より植物が元気になって一番喜んでいると思いますよ。

次回は「花色の組み合わせを考えてみよう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.