文・写真
加地一雅
かじ・かずまさ
株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。
執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。
【第17回】宿根草を上手に使いこなそう
2017/05/09
宿根草を上手に使って魅力的に見せるには、それぞれの宿根草の個性を把握して、その個性が十分発揮されるところに植えることがベストです。もちろん、その植物の性質に合った栽培適地であることが一番の条件ですが、小さな風景としてデザイン性が加味されると、個性が際立ったものに見えてきます。
-ポイント1- 強く表現したいときは大型宿根草を使おう
栽培適地に感性の合うシンボルペレニアルを植えよう
宿根草の表現法は多種多様です。また種類自体も小型のものから、高さ60~70cmを超えるような大型のものまであって、存在感や印象はまるで違ったものに見えてきます。とりわけ大型宿根草はインパクトがあり、その場所を強く表現したいときに役立ちます。
例えば上の写真をご覧ください。歩道脇に設けられた、遠くからでもよく視認できる植栽マスです。こういった目立つように植える宿根草はシンボルペレニアルとも呼ばれ、その場所のシンボルを形作ってくれます。ここではラバテラ マリティマ「バイカラー」という大型の宿根草が使われ、開花最盛期は花をいっぱい咲かせ、大変よく目立ちます。
上の写真の斑入りカリガネソウは、はっきりとした白斑が安定して春~秋まで長期間観賞できます。高さ、株張りともに大きく育ち、シンボルペレニアルとしての実力を備えています。落葉種なので冬は潔く地上部は枯れ、地下部の根で越冬します。
大型宿根草は先にご紹介したラバテラのような常緑種と、この斑入りカリガネソウのような冬に葉を落とす落葉種の大きく2タイプに分けられます。冬にも緑が欲しい場所には常緑種を、冬に葉がなくてもよい場所には落葉種を選びます。
また、日当たりのよいところか半日陰か、土がよく乾くところかジメジメしたところかなど、栽培適地かどうかをしっかりチェックします。大型宿根草は大きく育つ前提で、株間は十分に取る必要があります。株間が足りないと、株同士の健全な生育が妨げられますのでご注意を。
上の写真は落葉種のジャーマンアイリスです。ジャーマンアイリスは乾燥地を好む宿根草で、水やりもままならない場所にはうってつけです。花色も豊富で、自分の好みの品種を選ぶ楽しみもあり、さらに群植すると圧巻です。
デザイン面でのシンボルペレニアルの選び方は、パッと見た瞬間、自分の感性に引っ掛かるかどうかが最重要なので、常にいろんな宿根草に情報を張り巡らせておくと、素晴らしい出合いがあると思います。植物は知れば知るほど、表現の幅が広がります。
-ポイント2- 優しい空間づくりには小花で淡色の宿根草を使おう
一株ではインパクトが弱くとも、組み合わせや群植で癒やされる空間に
植物で何かを表現しようとしたとき、ポイント1のように強く表現したい場面もあれば、心癒やされる優しい空間にしたい場面も数多くあると思います。そんなとき、役に立つのが小花で淡色の宿根草です。宿根草の種類からすると多くがこちらに分類され、選択肢は数多くあります。
上の写真は主庭にデザインされたレイズドベッドの花壇ですが、宿根草はいずれも主張し過ぎないものを選び、目に優しく映るように表現しました。ゲラニウム「ビオコボ」は常緑種で地面を覆い、晩春には花で埋まり、ツルバキアの原種同士の交配種は常緑種で丈夫です。ここに植わっているものは、いずれも丈夫で長生きする宿根草で、色彩的にも、近似色の小花でおとなしい空間に仕上がっています。
優しい空間づくりの例として、上の写真は家のエントランス脇の花壇です。ウッドフェンスにイングリッシュローズの「ストロベリー ヒル」が誘引され、若干、野性味を帯びた淡いピンクの花がシンボルになりつつ、全体としては小花、淡色の宿根リナリアや宿根ネメシア「コンフェティ」が空間を埋め、優しい空間をつくり出しています。デルフィニュームの青花やセントーレア ギムノカルパの白い葉がアクセントを添えています。
下の写真は半日陰の植栽例です。左サイドでは、低木のケアノサス「ヴェルサイユ」が淡い青花で優しく存在感を主張していますが、ピンクのアスチルベや白に近い薄いピンクのペンステモン 「ハスカーズレッド」が加わることによって、全体としてはシックな落ち着いた空間を演出しています。
小花で淡色の宿根草といっても高性種からわい性種まで、花色もブルー系、ピンク系、黄色系とさまざまあるので、いろんな表現が可能です。また淡色の宿根草と書きましたが、花色が濃い種類でも小花であれば組み合わせによっては問題なく使えるので、どんどん使ってみてもよいと思います。
小花、淡色の宿根草は単品ではインパクトが弱いですが、複数の種類が組み合わさったり、一品種がある程度まとまると、実力を発揮し、特に癒やされる優しい空間づくりには強力な味方になってくれます。
-ポイント3- 小さな景色づくりにも宿根草はうってつけ
ミニマムな空間づくりができれば、いろいろな広さの空間づくりができるようになる
一年草は開花期間が長いものの、花が終われば植え替えなければなりません。一年を通して見ると目まぐるしい変化です。その点、宿根草は数年にわたり生き続け、季節で姿は変えるものの、その変化は緩やかです。そんな性質の宿根草は、ポイント1、2で説明した使い方以外でもたくさんの使い方があります。その一つに小さな景色づくりがあり、狭い日本の庭づくりには、欠かせない方法です。
例えば上の写真は庭の片隅にある水栓柱が主人公の小さな風景です。水栓柱の後ろにアスチルベ「ダイヤモンド」の白花をくゆらせ、水受けのサイドに黄金葉のギボウシ「キウィアシッドイエロー」を配置して、白い器や白花とのコントラストを楽しみ、右サイドではクールなブルーグレーがかったギボウシ「トゥルーブルー」を配して、小さくても味のある空間に仕上げました。
上の写真はコンクリートよう壁の上のウッドフェンスを絡めた植栽で、小さな景色をつくっています。グレーのフェンスに合わせた青花や白花をメインに、ピンクをアクセントに配した、うるさくない色のコーディネートで見せています。シスタス インカヌス タウリクスはピンクの花を次々と咲かせます。コンボルブルス「ブルーカーペット」はとても丈夫な枝垂れるタイプの宿根草です。オステオスペルマム ジュクンドゥムは明るい日差しによく映えていますね。
たとえ庭が狭くとも、よーく観察すると、小さな場面がいくつか組み合わさっていることが分かります。そこが、たとえ30cm四方の極小空間であっても、そこに合った宿根草が一株あるだけで空間は一変し、小さな景色をつくってくれます。
また、逆に広い空間であっても、そこを分解していくと小さな空間の集合体で成り立っているので、小さな景色をつなげていくことで、広い空間にも応用が効きます。ミニマムな空間づくりに精通すれば、いろんな広さの空間づくりに応用が利くということです。
上の写真はエントランスの花壇の導入部分の小さな景色です。写真に写る花だけでも宿根ネメシア「コンフェティ」、ラムズイヤー、セントランサス、ブルーデージーとたくさんの宿根草が植えられています。ちょこっとした空間でも、そこの環境に合う宿根草を探し、花色、葉色をコーディネートするだけで、その小さな空間は一変します。
宿根草はとにかく種類が豊富です。個性も豊かです。季節になれば必ずといってよいほど花が咲いてくれます。これら宿根草を上手に使いこなせれば、表情豊かな素晴らしい空間、景色ができます。魅力にあふれる宿根草を使わない手はありません。ぜひチャレンジを!
次回は「ナチュラルな花壇のすすめ」を更新予定です。お楽しみに。