文・写真
加地一雅
かじ・かずまさ
株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。
執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。
【第18回】ナチュラルな花壇のすすめ
2017/06/13
世界的にナチュラルなスタイルの植栽がはやっています。中でも花壇では数種類の草花をランダムに植えて、野山に生えている雰囲気で楽しむ人が増えています。今回は自然なムードを醸すナチュラルな花壇について、どのような種類をどのように植え付けるのか、お話ししたいと思います。
-ポイント1-春らしいナチュラルな演出は球根植物で決まり!
早春は手間をかけずに小球根植物を使いこなしてみよう
冬の寒さが徐々に遠のき、気持ちの上で春を感じ始めたくなったとき、球根植物の花はまさにそのハートを捉えてくれます。それも今まで何も咲いていなかった空間に、短時日に一斉に咲き誇ってくれたら、それは感動ものです。
上の写真は庭で鶏が走り回る、とてもナチュラルな空間です。宿根草が定位置で花を咲かせ、そこへ球根植物が植えられています。球根植物は、空いたところに自由に植えられるところがメリットで、それがまた奔放に見えて、ナチュラル感を増長してくれます。
もう一つナチュラルな雰囲気の庭として上の写真をご覧ください。落葉樹の雑木をランダムに配した雑木林の庭の春の風景です。スイセンはナチュラルな演出にはうってつけで、黄色や白の花色が春の明るさや暖かさを優しく表現してくれます。
また、いずれも小輪系スイセンで、群植で魅力を発揮します。これらのスイセンはフッキソウやキチジョウソウなどの常緑性の下草の間に植えているので、花がないときも緑で覆われて、庭が寂しくなることはありません。
ナチュラルな花壇に使える球根植物は、春以外にももちろんあり、いろいろ楽しめます。特に演出効果の高い春は小輪系スイセン、ムスカリ、原種系チューリップを咲かせ、夏にはゼフィランサスやツルバキアを、秋にはリコリスを咲かせるとスリーシーズン演出できるでしょう。いずれも群植でまとめ植えが効果的です。
例えば上の写真はクルシアナ「シンシア」という原種系チューリップです。原種系チューリップの一番の特徴は、深植えにしておくと毎年咲いてくれることです。しかも増えてくれます。日当たりのよいところに優しい小輪花で、パッと明るくしたいときには特におすすめしたい球根植物です。
ナチュラルな雰囲気を出し、さらにローメンテナンスを狙うなら前述の常緑性の下草との組み合わせは非常によいと思います。球根植物は手がかからず、一斉に咲いたときの感動を毎年感じられます。原種や野性味を帯びた園芸種もたくさんあるので、今後ナチュラルな花壇にもっともっと使ってほしいと思います。
上の写真の紫花はビンカ ミノール 「アトロプルプレア」です。この花はとても丈夫なグラウンドカバープランツで、この根元にはいろんな球根植物を仕込むことが可能です。ここでは通年緑で覆われる通路際にムスカリを植え、ナチュラル感を演出しながら変化も出しています。共に、毎年世話いらずでよく咲いてくれます。
-ポイント2-晩春から初夏にかけては草丈の高い一年草、宿根草を使おう
初夏の風にそよぐ草姿はナチュラル感たっぷり
ナチュラル感が抜群に高い植物は、草丈の高い一年草と宿根草にたくさんあります。おおむね改良されていない原種か、改良の程度が低い園芸種がメインになります。人の手があまり加わっていない分、一本一本は目立たない植物が多いですが、複数組み合わさると味わい深い自然な雰囲気を辺り一面に放ってくれます。
上の写真は初夏のナチュラルボーダー花壇です。宿根草と一年草が植えられていますが、いずれも草丈はよく伸びて、風にそよぐ姿は爽やかでとてもナチュラルです。クナウティアとセントーレアは宿根草、ラグラスとオルレアは一年草です。
上の写真は濃い色で引き締めつつ、白い小花をたくさん咲かせて、色のコントラストを楽しめるナチュラルボーダー花壇の例です。ダイアンサスとタナケトゥムは本来宿根草ですが、夏の高温多湿に弱いため、一年草扱いです。ペンステモンは丈夫です。
このようにナチュラルな花壇づくりでは、とりわけ素材選びが重要です。一年草であれ宿根草であれ、また他の素材であれ、花は派手過ぎず、小輪系がメインで、植物全体の姿が風に揺れるスレンダーなものが入るとぴったりきます。
植え方も規則性を排し、ランダムに並べ、こぼれダネで勝手に生えたように見えれば最高です。肥料も控え気味に、より自然に近い姿に育てられたらナチュラル感が増します。
上の写真をご覧ください。カカリアは極小輪ですがオレンジ色で結構目立ち、なよなよとした細い花茎がなんとも自然な雰囲気を漂わせています。アキレギア「メローイエロー」は白花で、花がなくてもライトイエローの葉がとてもきれいな西洋オダマキです。このようにナチュラル感の演出には葉も重要な役割を果たしますね。
-ポイント3-秋のナチュラルな花壇はグラスとサルビアが最高の主役
世界が注目するススキなどグラス類を使ってみよう
日本ではどこでも普通にススキが自生し、秋ともなるとごく普通に季節を演出しています。この日本の自生種ススキは、実は世界のガーデナーから注目を浴びていて、有力なガーデンプランツの一つになっています。世界的には、この日本の代表種ススキを含めイネ科の他の仲間やカヤツリグサ科などを総称して、オーナメンタルグラスと呼んで、観賞用に庭に植えています。
サルビアは赤花一年草のスプレンデンス種が有名ですが、北米南部から中南米にかけてたくさんのきれいな原種が自生しています。サルビアは短日開花の性質が強く、おのずと秋に開花します。このサルビアと先のグラスを組み合わせると、秋を感じさせる最高のナチュラルな花壇が出来上がります。上の写真の季節は10月。秋の日差しを浴びながらナチュラル感満載の花壇例です。
上の写真のようにグラスとサルビアは、いずれも大きく育ち、最盛期は迫力を感じます。グラスの穂とサルビアの花とは、とても相性がよく、秋ならでは雰囲気をふんだんに漂わせます。この組み合わせのうち、サルビア「イエローマジェスティ」のみ耐寒性がありませんので、霜が降りる前に掘り上げ、鉢上げしてから、屋内で越冬させます。
下写真はグラスを使ったもう一つの花壇例です。スティパは非常に繊細な極細の葉が見もので、ススキ「パープルフォール」はこれもイトススキのように優しい細い葉で、秋になると紫がかった紅葉を見せる観賞価値の高いススキです。グラスはグラスだけでも十分観賞に耐えうると思いますので、場所があれば一度お試しください。
ナチュラルな花壇、いかがでしたか? 花壇といったら整然と絵模様を描くものだ、と思われていた方は結構いらっしゃると思います。もちろん、絵模様を描いても構わないのですが、もっと自由にフリースタイルで気持ちを開放して、植物たちも開放して伸び伸びと育ててみるのもよいと思います。季節感あふれるナチュラルな植物の姿を見たら、理屈抜きに、肩の力が抜けてリラックスできると思いますよ。
次回は「夏の花壇の手入れ法と楽しみ方」を更新予定です。お楽しみに。