文・写真
加地一雅
かじ・かずまさ
株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。
執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。
【第19回】夏の花壇の手入れ法と楽しみ方
2017/07/11
日本の夏は暑いです。特に近年は熱帯夜が年々増え続け、人も植物も本来休息できる夜も眠れないで夏バテ状態です。しかし、そんな暑い夏でも暑さに負けず咲き続ける草花があります。また、夏はもちろん、秋まで咲かせ続ける手入れ法があります。今月はこれらの方法をご紹介しましょう。
-ポイント1-夏の花壇は素材選びが最重要
盛夏でもぐんぐん成長し、花を咲かせる元気な植物を見つけよう
耐暑性という言葉があります。暑さに耐える性質のことです。昨今この耐暑性が注目され、耐暑性の強い植物がどんどん出回るようになりました。暑さに負けず、成長しながら花を咲かせ続ける、これはすごいことです。これからの日本の夏の花壇は、耐暑性の強い素材を選ぶことが最も重要になってきました。
上の写真は以下の植物を7月に定植し、2カ月たった夏の花壇です。暑さをものともせず、もりもりと大きく育ちました。カンナとペニセタムを中ほどにシンボリックに配置し、周りに斑入りのペンタスなどを植えて、コントラストが楽しめるように植栽しました。
耐暑性の強い植物の例として、上の写真はペンタスです。暑さは問題なく平気で、緑葉には白やピンク、ローズ、ラベンダー色などの花が咲く品種があり、花色のコーディネートも可能です。
下の写真はペニセタム セタケウム ルブラムです。暑さはめっぽう強く、暑いほどぐんぐん成長します。赤黒い葉に赤みがかった長い穂をつけた姿は壮観です。夏花壇のシンボルとして使えます。続いての写真はカンナです。花色は赤、オレンジ、黄色とまさにトロピカルな雰囲気を演出してくれます。カンナは大型で大きく育つ品種が多く、花壇のシンボルとして使います。
もう一つ夏の花壇をご紹介します。ここではサンパチェンスやハイビスカスなど赤花を配置して、花壇の導入部分を飾っています。花壇は高低差をつけると、ボリューム感が格段に違います。
上の花壇を構成しているのは「サンパチェンス レッド」です。「サンパチェンス」は何色かあるのですが、どの品種も耐暑性抜群で炎天下でもよく咲いてくれます。こんもりと茂り、株一面に満遍なく大きな花を咲かせるので、花壇のどの位置に植えてもよく目立ち、花壇の役割をしっかり果たしてくれます。
最後にご紹介する植物は小葉性の黄花のランタナです。ランタナも暑さは全く平気です。花は小輪ですが、株一面にいっぱい咲かせます。横張り性で、周囲にどんどん枝を伸ばして広がっていきます。夏の間、何度か剪定するとこんもりと密に茂らせることも可能です。
夏の暑さに負けない素材は、まだまだいっぱいあります。一年草、宿根草、球根植物、花木それぞれに逸材がそろっています。花色、葉色それぞれのコンビネーションを考えると、想像しただけでワクワクします。真夏の炎天下でも、暑さに負けずに咲く花を見ると、いっぱい元気がもらえますよ。
-ポイント2-夏の花壇は夏バージョンの土作りと広めの植え付け間隔でスタート
成長をゆっくりにさせて、株間を広めに取って、しっかり育てよう
冬の土作りをしっかり行い、春の間中、頑張り続けてくれた花壇も梅雨ごろになると、もうほぼ終わりかけの時期に入ると思います。ちょうどこのころが夏の花壇への植え替えの適期になります。上の写真をご覧ください。梅雨ごろに定植すると、8~9月にかけてもりもりと成長した元気な花壇が出来上がります。左手前と後方にあるモミジ葉状の赤い葉はヒビスカス アケトセラ「ブラックキング」です。かなり大株に成長します。
夏の花壇の土作りは、冬にしっかり行われていれば、前の肥料の肥効も残っているので、有機質系の肥料を少し施す程度でスタートします。夏は温度も高く、肥料の効きめも高いため、一度にたくさん与えると、一気に効いてだらしのない大株になってしまうからです。夏は少しずつ控えめに、株の成長を見守りながら何度かに分けて追肥していくことがポイントです。
上の写真は夏花壇への植え替えのため、前に植わっていた株や雑草を抜き取っているところです。この後、深さ30cm程度シャベルで荒起こしをして、地中の根を取り除きつつ、土を軟らかくします。終われば、苦土石灰、油かす、骨粉などを冬よりは控えめに施し、よく混ぜて整地をすれば下準備は終了です。
下準備が終わったところで、下の写真は植物をレイアウトしているところです。あらかじめ色彩計画に基づく植栽計画を立てて、植物の準備をしておきます。主役、脇役、全体のバランス、今後の成長に見合った植え付け間隔など、理論的なことと感覚的なことを頭の中でスイッチを切り替えながら考えてやる作業ですが、心うきうきしながらできるとても楽しい作業でもあります。
植え付け間隔も、夏の花壇は春花壇とは異なり、少し広めに、種類によってはかなり広めに植え付け間隔を取って定植します。理由は、夏から秋にかけて咲く草花は、縦にも横にも大きく育つものが多く、しかも夏の高温多湿が植物にダメージを与えるため、風通しと日当たりを確保しなければいけないからです。
夏の花壇は、植物の成長速度を少し遅らせ気味に、株間も広めに取ってやることによって、しっかりとした株に育ち、強い日射、熱帯夜、台風にも負けない元気な花壇になってくれます。下の写真のように定植後3日目でどの株もシャキッとしています。これは気温が高いため、地中では定植後すぐから白く元気な根を出し始めています。成長速度の違いは、冬から春にかけての花壇との決定的な違いです。
-ポイント3-夏の花壇の手入れは切り戻しと追肥で、秋まで長く楽しもう
思い切って剪定すると秋にはバランスの取れた草姿になる
夏の花壇は梅雨の時期に定植したならば、最初のピークは7月下旬ごろきれいになります。その後も成長するので、8月中旬、お盆のころはかなり伸びてだらしなくなっています。気温もピークに達し、多くの植物は夏バテ気味になっていると思います。このタイミングで思い切って株の切り戻しを行います。
植物は枝葉が茂っているほど暑さの影響を受けます。ですから一番暑い時期に株を小さくして、暑さをしのぐわけです。切り戻し方は植物の種類によって変わりますが、おおむね半分~3分の2程度残す剪定をします。切り戻した直後から再成長を始め、9月下旬~10月にかけて見事に再生し、花もいっぱい付けてくれます。
上の写真はブルーキャットミントの切り戻しの様子です。夏の切り戻しは、伸び過ぎた一年草も宿根草も花木も全て行います。ブルーキャットミントは初夏に咲く宿根草ですが、花が咲ききった7月以降は花が終わったままの見苦しい状態になります。夏に株元から10cmくらいのところで切り戻すと、やがて株元から新芽を吹き、きれいに再生します。
下の写真は宿根草のグラスのパニカムを刈り込んでいるところです。本来、背が伸びる植物は、新陳代謝の激しい夏はぐんぐん伸びて、バランスを崩すほど伸び過ぎてしまいます。盛夏時に伸び過ぎた株を半分~3分の2ぐらい残して刈り込むと、すっきりとした状態になり、秋にはバランスの取れたよい状態になります。
切り戻した際、同時に追肥を施すことも再成長を促す上で、すごく重要です。夏は肥料はやり過ぎてはいけないと先述しましたが、追肥として適量与えることは、夏バテ気味の植物にパワーを持ってもらうために必要だと思います。
夏の花壇の植え方や手入れ法をお話ししましたが、いかがでしたか。夏は暑くてダメだと思われている方は結構いらっしゃると思います。ちょっとした工夫と努力で、春花壇よりはるかに長く楽しめる夏から秋の花壇はチャレンジしがいのあるものです。ぜひチャレンジしてみてください。
最後に趣の異なる夏の花壇を紹介しましょう。上の写真は夏でもシックな色の花壇です。茶色のペチュニアは「キナココア」という品種で、暗くなり過ぎないように明るめの斑入り葉のランタナ「カンカンホワイト」でバランスを取りました。他にブルー系の小花のアンゲロニアやスカエボラなども入っています。夏は暑さを楽しむ花壇でも、涼しさを演出する花壇でも、どちらも気分に合わせて上手に使い分けたいですね。
次回は「暑い夏もへっちゃらな植栽を考えよう」を更新予定です。お楽しみに。