文・写真
加地一雅
かじ・かずまさ
株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。
執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。
【第24回・最終回】経年変化を見守ろう
2017/12/12
花壇や庭は季節によって変化するとともに、毎年、年を重ねるに従って植物も成長や繁茂、枯死などが起こり、変化していきます。今回は花壇や庭がどのように経年変化するか、また、私たちがその変化とどう付き合っていったらよいのかについてお話ししたいと思います。
-ポイント1-毎年変化していく植栽の妙
宿根草が繁茂し、樹木が存在感を増す風景を想像しよう
花壇や庭では植物を定植する際、将来を見越して植え付けるのですが、樹木、宿根草、一年草それぞれ成長速度も株の大きさも異なり、植え付け間隔をどれぐらいにするのか、結構悩んだりします。成長はゆっくりでも毎年ジワーッと大きくなる樹木は、移植をしない前提で心して場所を決めて定植し、宿根草は3~4年先を見越して広めの間隔で定植し、一年草はおよそ20cm間隔で定植するのが目安になると思います。
上と下の写真をご覧ください。下の写真は上の写真の2年後、見事につるバラやクレマチスが咲き誇るようになった風景です。上写真でもつるバラやクレマチスは植わっているのですが、まだ開花には至っていませんでした。こういう景色づくりは数カ月単位では無理で、年数を重ねて始めて出来上がるものです。ゆっくり、じっくり育てることはとても大切です。
将来を予測して定植すると、樹木や宿根草は定位置で毎年株を太らせ、緑のボリュームが年々増えていき、また一年草は季節ごとに植え替えるので、毎シーズン目の前に広がる景色は変化していきます。植栽を楽しむということは、この変化を楽しむことに他なりません。目の前の景色は、そのとき、その瞬間に現れているものなので、二度と今後現れることはありません。その変化の途中の植栽の妙を楽しむのが、ガーデニングの醍醐味(だいごみ)です。
次の3枚の写真は同じ花壇の経年変化を写しています。1枚目の写真は植栽して4年経過したころの風景で、シンボルツリーのベニバスモモ「ハリウッド」が結構大きくなって剪定し、バイカウツギなど中低木も落ち着いてきたところです。2枚目の写真はさらに6年経過した風景で、ベニバスモモはシンボルツリーらしく立派に成長し、中低木も定位置で存在感を発揮しています。3枚目の写真は2枚目と同年の風景で、宿根草が繁茂するほか、周りの一年草は年に2度植え替えて、季節を楽しんでいます。
下の2枚の写真をご覧ください。1枚目の写真は花壇をつくった初年度の風景です。左サイドにカシワバアジサイが仕込まれ、右サイドにアメリカアジサイ「アナベル」が植わっているのですが、まだ姿を現していません。他に宿根草や一年草が植え付けられ、春咲きのものが開花を始めています。
2枚目の写真は2年後の花壇風景です。カシワバアジサイやアメリカアジサイがかなり大きく育ち、周りの宿根草も大きく育って花を咲かせています。ここでは一年草はなくなり、既存の宿根草と相性がよい宿根草に植え替えています。
写真を見比べると分かるように低木や宿根草は年々株が大きく育つので、植え付け間隔を広めに取ることがとても大事であるのがお分かりいただけたかと思います。と同時に、これぐらいのボリュームに育つと、手入れとして剪定を施し、株全体のボリュームを落とし、風通しと日当たりをよくすることも大切になってきます。
-ポイント2-経年変化を見越した樹木選びと手入れの仕方
樹木選びとまめな手入れがジャングルにさせないコツ
経年変化で一番に問題になるのは植物の成長です。緑が豊かになるのはよいことなのですが、手入れの範囲を超えてしまうと大変です。植物が大きくなったとき、移植をして株間を調整する作業が発生します。草花だと比較的簡単ですが、樹木だとそう簡単にはできません。樹木選びは慎重によく考えて行わなければなりません。
上の写真をご覧ください。樹木を植えたてのときは、日当たりが確保されて真ん中の芝生が元気に育っていたのですが、経年変化で樹木が茂ってきて、樹木サイドの芝生が育ちにくくなってきました。そこへ湿性ワスレナグサを植え付けてグラウンドカバーにしました。経年変化はその変化にどう付き合うかも大切です。一方で、下の写真のように緑を中心とした空間は安定して長期にわたり観賞できます。加えて手入れも楽です。
樹木には成長の速いものから遅いもの、大木になるものから小型のもの、株張りのあるものからスリムなものなどいろいろあります。現代のそう広くない空間には、成長が遅めで、比較的スリムで、将来も大きくなり過ぎない樹種を選ぶことをおすすめします。加えて数年おきに剪定を行って、株の大きさをコントロールすることも大事になってきます。
例えば下の2枚の写真をご覧ください。20年以上経過した緑豊かな落ち着いた空間です。ウッドデッキを造ったり、植栽ラインを曲線に変えたりなどを除いては、ご夫妻で維持されてきた庭空間です。年季の入った庭に少しずつ手を加えて、完成度を高めるのはガーデナーに与えられた特権です。
庭や花壇は放っておくとまるでジャングルのようになってしまうので、自分で管理できる面積や植物の本数のおおよその予想を立てることは大切な作業です。植栽する前に専門家や熱心な一般ガーデナーの話を聞いて、参考にするのもよいと思います。
下の写真のようにオアシスのような空間が住宅地の庭でも生まれています。庭を維持しようと思う気持ちと、実際の手入れが伴うと実現可能になります。やっぱり手入れは大事ですね。
-ポイント3-少しずつ手を加えて経年変化を楽しもう!
植物の淘汰は気にせず、ゆっくり庭の完成度を高める
花壇や庭をデザインする場合、樹木など一度植えれば植え替えを必要としないエリア、数年間は植えたままで数年ごとに株分けなどを施して植え替えた方がよいエリア、一年草など数カ月ごとに植え替えが必要なエリア、これら3つのエリアを状況に応じてバランスよく配分することを考えます。
例えば、上の写真の2014年に新たな植栽ゾーンとして誕生したガーデンの変化を見てみましょう。当初は丹波石を積んでレイズドベッドをつくり、シンボルツリーとしてコルヌス コントラバーサ バリエガータを植えました。その隣には黒い切れ葉のサンブクスの小株が植わり、周りには花を楽しむ宿根草を植栽しています。植栽としては産声を上げたばかりです。
上下の3枚の写真は、最初の写真のガーデンが1年経過した2015年の風景と、2年経過した2016年の風景、3年経過した2017年の風景です。上の写真1枚目は2015年のガーデンで、シンボルツリーの周囲の宿根草はほぼ全面植え替えし、ユーフォルビアやエキナセアなどに植え替え、低木として新たにアメリカアジサイが加わりました。サンブクスは1年で結構育って、ピンクの花も咲かせています。
上の写真2枚目は2016年の風景です。2016年のガーデンになると、シンボルツリーのコルヌスも存在感を発揮し始め、アメリカアジサイもしっかりと景観をつくってくれるようになりました。エキナセアの花も色を添えてくれています。自分の望む風景をつくるには、結構時間がかかり、修正も含め年単位で考えないといけないというところです。
下の写真は2017年のガーデンの、今まで写した植栽の裏側の様子です。裏側で大きく育っているのはゲラニウム「ビオコボ」です。このゲラニウムは常緑で耐寒性も耐暑性もある大変丈夫な宿根草で、初夏に咲く淡いピンクの花もとても可憐です。この年のコルヌスとアメリカアジサイは1年前とそんなにボリュームは変わっていません。
植え替えないエリアでも樹木はどんどん大きく育っていきます。数年ごとの植え替えが発生するエリアでも宿根草は毎年株を太らせ、子株を増やしたりします。一年草を植えたエリアは数カ月ごとに景色を変えます。これらを全体として見たとき、経年変化で毎年景色が変わっていきます。景色の一部はゆっくりと、別のエリアは比較的早くと、一枚の景色の中でも変化のスピードが異なります。これがまた楽しみの一つになります。
花壇や庭では、最初から完全な予測を立てて植栽を実施するということは、かなり難しいと思います。入手する植物の出来不出来、毎年の気候変動など不特定要素も大きく影響します。ガーデニングは本来、夢を持って楽しんでやるものですから、ゆったりとした気持ちで、多少枯れても気にせず、毎年少しずつ手を加えながら完成度を高めていったらよい、という心構えがちょうどよいと思います。すぐに結果を求めず、経年変化を見守りながら、ゆっくり、ゆったりと「育てるガーデニング」を、ぜひとも多くの方たちに実体験してもらいたいと思います。
今回で2年間の連載を終了します。ガーデニングは極めて自由に自分を表現できる芸術であり、自然との付き合い方を教えてくれる学びの場でもあります。また、頭で考え、各感覚野で感じ、手足を使って作業するので、健康にも極めてよいものです。皆さんもぜひガーデニングを通じて一つでも多くの感動を体感してください。全国のあちこちに素晴らしい花壇や庭ができることを期待しています。長きにわたるご愛読ありがとうございました。