文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第6回】花壇や鉢にまいて、そのまま咲かせる直まき
2017/06/27
直まきは手軽ですが、ハードルもたくさんあります
タネまきの方法について、床まき(第4回)とポットまき(第5回)をご案内しましたが、最後の奥の手は直まき(じかまき)。花壇や鉢に直接タネをまく方法です。手軽で一見、簡単そうですが、特に草花の場合は、失敗した経験をお持ちの方が多いかもしれません。昔のことになりますが、私も花一面の花壇を期待してワイルドフラワーのタネをまいたことがありますが、うまくいきませんでした。
花壇では雨も降り、環境も変化しやすく、タネが発芽する条件が整いにくいもの。雨でタネが流されたり、覆土の厚みが変化したり、虫にタネを運ばれることもあります。うまく発芽しても、小さな芽がそこで育つ可能性は低いといっていいかもしれません。
菜園で野菜を育てていれば、直まきは慣れているかもしれません。畑では畝を作って、たくさんのタネをまいて間引いて育てます。タネも地域に合った品種を使い、適期にまくことが前提です。一方、草花の場合は、タネ袋に20~40粒ぐらいの少量のものがほとんど。草花のタネは細かいので、直まきがより難しいともいえます。遮るものがない畑とは違って、家庭の庭では家屋などがあり、日当たりが制限されて苗の生育が進まないこともあります。
直まきよりポットで育てる方が、生育の点でもよいというのも事実です。小さな苗は、その根に見合った土のスペースで適度な水分を与えられると、根は水を求めて伸びていくため、よく生育します。花壇のように好きに根が伸びていける場所では、逆に根の張りはゆっくりになってしまうのです。菜園などで、育てる芽の数よりかなりたくさんのタネをまくのは、過湿を防ぐ意味もあります。
結果的に床まきやポットまきして鉢で育てた苗より、直まきした苗の方が生育はゆっくりになります。また、現在、入手できる栽培用の草花のほとんどは園芸品種で、比較的手をかけて育苗することを前提に開発された品種です。自然に芽が出て、こぼれダネから育つような草花は、さほど多くありません。
コツが分かれば、直まきも活用方法がいろいろあります
それでは直まきは難しいのかというと、上手なやり方はもちろんあります。広い面積があって、そこ一面に花を咲かせたいときなどは、やはり直まきしかありません。植物園やガーデンの一角など、一面に花が咲いているところがありますが、多くは直まきしたものです。
直まきを成功させるには、いくつかのポイントがあります。まず、やや大粒のタネを使う方が失敗しにくいです。タネが大きければ生育も早いので、花壇で根付くチャンスは多くなります。そして、まきどきも肝心です。特に春まきの場合、直まきの適期は一般的なまきどきよりも遅く、すっかり暖かくなって気候が安定してからが原則です。種類にもよりますが、温暖地なら5月中旬〜7月ぐらいが適期です。
タネまきの時期を遅らせることは、デメリットのように思われるかもしれませんが、その逆。直まきした苗の伸びが緩慢だということを利用すれば、伸び過ぎる草丈を適度に抑えて、お行儀よく育てられます。特に春まきの草花は、伸び過ぎる傾向にあるので、遅めに直まきすることで草丈を抑えられるのです。
コスモスの遅まきは、そのよい例。最近は8月、時には9月に入るころに直まきして草丈を低く育てて、その秋に咲かせる方法もポピュラーです。高性種のヒャクニチソウ(ジニア)も、比較的タネは大きめ。遅まきすると、草丈は低くめでよく咲きます。また、ヒマワリやキバナコスモスなどのように、まき床から移植するより、直まきする方が格段によく育つ草花もあります。よって直まきは、比較的春まきの草花に使いやすいまき方といえます。
さらには、まくタネの量。タネの大きさによって咲かせたい株数の5〜10倍ほどのタネをまいて、後で間引きを徹底させます。直まき用に売られているタネもあって、これらは量もたっぷり入っています。また発芽まではしっかり見守り、表土を乾かさないように水やりに注意します。散水ホースの霧状の水が出るノズルを選んで、表土をなるべく動かさないようにします。霧状のノズルは出る水の量が少ないので、時間をかけてたっぷり水やりします。
この他、もっと手軽な直まき法もあります。直まきでも、花壇ではなくコンテナにまくやり方です。これならばポットまきの大型版。コンテナなら雨や直射日光が当たらない場所に移動できますし、よりハードルの低い方法といえます。私も草花の種類によって、コンテナの直まきは毎年活用しています。秋まきのころは、まだ花壇が空いていないことが多く、なかなか直まきする機会がありませんが、コンテナならできます。
特に発芽してから、直まきでうまく育つかどうかは、環境が大きく左右します。日当たり、風通し、土など、いろいろな要因が絡みます。発芽したら、葉と葉が触れ合うところを間引きながら苗を大きく育てていきます。時々、芽が出なかったスペースがぽっかりと空くこともありますが、そんなときは移植のテクニックの出番。混み合ったところから根を傷めないように根鉢ごと掘って、芽のないところに植え直します。直まきは定植するのと違って、自然風なのが魅力。それを生かすように、おおらかな植栽を目指します。
花壇へ直まきする場合は、前もって準備が必要です
直まきするときは、前もって土の準備をします。耕す、堆肥を入れる、酸度調整をする、肥料を入れるなど段階がありますので、2〜3週間かけてじっくり丁寧にやりましょう。
〈花壇の場合〉
①掘り起こして耕す
まずは土を深く丁寧に掘ってから耕し、空気をたくさん含ませます。塊になった土もシャベルで壊します。
②ごみを取り除く
根やごみ、石などがあれば取り除きます。耕すと土のかさが増します。有機物を入れるとその分も増えるので、あらかじめ増える分の用土を取り除いておきます。
③堆肥や腐葉土をすき込む
耕したら、堆肥や腐葉土などの有機物をすき込みます。量は花壇の土に含まれる有機物の量により調節しますが、ぱさぱさして茶色が薄いようならたっぷり入れます。
④石灰を入れる
③に併せて酸度調整用の石灰資材も入れます。土の酸度はきちんと測るのは難しいもの。草木灰、くん炭、かき殻など有機質系のものは、緩やかに効くので害が少なくおすすめです。また苦土石灰はマグネシウムを供給できます。
⑤肥料を施す
肥料は酸度調整が終わってから、7〜10日ほど間を空けて施します。それは石灰分と肥料のチッ素分が反応して、アンモニアガスが発生するのを防ぐためです。与えた肥料分も無駄になります。長くゆっくり効く緩効性タイプの肥料が向きます。
⑥水やりをする
何度か水やりをして、すっと水が土に染み込むか、水はけを確認します。この状態でしばらくおいて土をなじませます。日々かき混ぜて表土の土を入れ替えると、日光消毒にもなります。また雑草の芽も出にくくなります。
⑦表面を平らにならす
準備を終えたら、土を美しく平らにならします。
〈コンテナの場合〉
鉢を用意します。こちらは花壇より手軽なので、花壇にまくときに一緒にやってもよいでしょう。鉢底の穴に鉢底ネットを敷き、培養土を半分の高さまで入れます。ここに緩効性肥料を入れてよくかき混ぜます。さらに、鉢の縁から1~2cm下まで培養土を足します。沈み込みがないように少し土を押してしっかり土が整ったら、タネをまきます。
芽が出た後は、しっかり間引きながら育てます
タネのまき方は、床まきやポットまきと同じです。花壇では面積が広いので、丁寧に土を平らにならして水を与えておきます。美しく表土をならしておくことが、直まき成功の鍵です。
後から間引きすることを想定して、タネは床まきするときより多めに、厚くまきます。たくさん芽が出ることで、水分も適当に分け合いうまく育ちます。共育ちといって、他と競争して育つ芽の性質も生かせます。
直まきでも大切なのは、発芽できる状態を保つこと。覆土は厚過ぎず薄過ぎないように丁寧に行います。特に直まきでは直射日光で乾きやすいもの。覆土が足りないとタネが露出して乾いてしまいます。また、覆土にはタネと土を密着させる目的もあります。タネが発芽するときに、土の摩擦で殻が脱げやすくなります。広い面積の場合は、園芸用のふるいを使うときれいに覆土できます。
タネをまいたら水を与えますが、このときもタネが流されないよう気を付けます。柔らかな水圧のジョロで丁寧に水やりするか、散水ホースの霧状の水が出るノズルを使います。発芽前はタネを乾燥させないようにするのがコツです。
タネをまいた後は、表土が乾きかけたら定期的に水分を与えて、発芽を促します。芽が出て活着するまでは霧水が最適。水圧が弱い分、水量も少ないので、時間をかけて水を与えます。芽が出てきたら、葉が触れ合ったところから順に間引きます。最終的に適正な株間になる分を残して間引きます。これを怠ると、どれもひょろひょろした頼りない苗に育って花もまばらになります。1種類で花色ミックスのタネをまいたときは、間引きに注意が必要です。色によって生育に違いが出るため、大きく育ったもの、葉色の濃いものだけを残さず、均等にいろいろな苗を残します。
次回は「夏まきで楽しむパンジーとビオラ」を取り上げる予定です。お楽しみに。