文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第8回】来春に花を楽しむ一年草を秋まきしましょう
2017/08/22
秋まき草花には魅力的な種類がたくさんあります
夏の暑さが和らいでほっとするころ、いよいよ秋のタネまきの季節がやってきます。特に温暖地ではこの時期にタネをまくと、耐寒性のある一年草類がよく育ちます。冬から花を咲かせる草花もありますが、春咲きの草花がメインです。
春になると園芸店には開花苗も出回りますが、自分でタネから育てて秋に定植した草花は、来春まで育つ期間が長くなります。その結果、大株になり、たくさん花を咲かせるのが魅力です。また、園芸店で取り扱いのある苗は、わい性の草花が中心ですが、タネなら花壇で見栄えがする草丈の伸びる種類が豊富。これまで育てたことのない草花にも出合えます。苗がたくさん育てば、見栄えのする花壇作りも自在です。
春に咲く草花はブルー系、ピンク系を中心に、比較的パステルカラーの優しい色合いが特徴的です。他にも差し色になる濃い赤色や紫色の花。明るくてどんな色にも合わせやすい黄色。さらに光を集めて華やかに咲く白花も魅力的です。
特に日本の温暖地の気候は、秋まきの一年草草花の生育に最適です。苗は温暖な冬の間大きく育って、春にボリューム豊かに咲きます。一年草なので、花後は枯れますが、春まきの一年草をまけば、年2回の花壇ローテーションができます。毎年違う花壇作りができるのが、一年草ならではの楽しみです。
秋まきは9月の1カ月が勝負です
秋のタネまきは、通常はヒガンバナの咲く彼岸のころといいますが、夏まきから続けて9月早々からタネまきができます。まき方は草花それぞれで床まき、ポットまき、直(じか)まきを使い分けます。庭にまだ秋の草花が咲いていれば直まきはできませんが、コンテナなら空いたものを探してまけます。9月がまきどきの秋まきの草花は、発芽適温が20度ぐらいです。比較的、発芽適温の幅が広く、この時期にまけば多少、日中が暑くても1週間ぐらいで発芽します。
秋まきの一番の特徴は、まきどきが短いこと。発芽適温が低い一部の草花を除いて、9月中がまきどきです。発芽後、苗は秋の温暖な気候の中で育ちますが、タネまきが遅れると、その分、生育の期間が短くなり、冬を迎えてしまいます。9月中にまいておけば、間違いなく秋のうちに定植できるほどの大きさに育ちます。
とはいえ、9月半ばまではまだ暑い日も多いもの。風通しのよい場所でまき床を管理します。また気温が高いと芽が出るのも生育も早いので、徒長も心配です。特に9月は気候の安定しない月です。毎年、同じ9月であったためしはなく、秋が早く来たり遅かったり。毎日、日差しがたっぷりと注ぐときもあれば、曇りがちのときもあり。台風がたくさんやってくる年もあります。気候もその年によっていろいろなので、苗の育ちも変わります。
いろいろなタネをまくなら、まく順番が大切。粒が小さいタネからまきます。小さな粒のタネは、生育がゆったりな上に、徒長しにくいためです。ストックやディモルフォセカなど大きめのタネは、早くまくと早く開花しますが、徒長しやすいので注意が必要。もし発芽したころに晴れの日が続かず、芽が徒長気味になったときは、まき直しをした方がよいでしょう。またネモフィラ インシグニスブルーやリムナンテス、シレネなど、わい性の草花の中には、特に生育の早いものがあります。これらは9月の終わりごろにまきましょう。
発芽適温が低いデルフィニウムとラークスパーのタネまき
秋まきの中でも例外的なのが、デルフィニウムとラークスパーです。ラークスパーの発芽適温は17度ぐらい。デルフィニウムは15〜20度です。20度以上では温度が高過ぎで、温暖地では10月に入り気温が下がってこないと発芽適温になりません。年によって気温の下がり方に差があるので、気温がなかなか下がらない年は発芽が遅れます。その後もすぐに気温が下がって苗の生育する期間が短くなってしまうなど、苗育てのハードルも少し高めです。
とはいえ、長い花穂を立てて花を咲かせる姿は華麗。透明感のある花色といい、美しさの面でも存在感は抜群です。タネまきがうまくいけば、たくさんの苗が育ちます。秋に植えっ放しにできませんが、タネから育てる楽しみの大きい草花です。
デルフィニウムとラークスパーの発芽を安定させる方法があります。9月の初めごろ、タネを冷蔵庫に入れて低温状態におくと、発芽を促せます。シャーレに湿らせたコットンを敷いてタネをのせます。ふたをしてそれを冷蔵庫に入れます。シャーレがない場合は、ふた付きの容器などを利用します。やがてタネから白い根が出てきます。根が出たものから順にまき床にまくと、やがて発芽してきます。
もっと簡単な方法としては、小さなまき床にタネをまいて、そのままビニールなどで包んで冷蔵庫に入れることもできます。3週間ぐらい水切れさせないようにして、その後、9月の終わりごろから屋外に出すと発芽を促せます。
それでも他の草花と比べると、苗の生育は遅れがち。秋に定植できるほど大きく育たなければ、そのままポリ鉢で日差しの降り注ぐ暖かな場所で育てます。温暖地なら、冬の間も少しずつ苗は育ちます。ポリ鉢の底から根が出たころに、直径9cm、直径10.5 cm、直径12 cmと、順にポリ鉢のサイズを大きくして鉢替えをしていきます。真冬はトロ箱などに入れて上からベタ掛けシートをかぶせておくと、寒さも和らぎ苗の生育はより進みます。こうして冬の間少しずつ生育させていけば、苗は大株に育ちます。
ポイントは、生育を促そうと屋内に入れないこと。特にデルフィニウムは気温が上がると、早々に花芽を付けるため、貧弱なまま咲いてしまいます。冬の寒さにある程度当てながら、しっかりした株張りの苗に育てることが大切です。
冬の低温が苗を大株に育ててくれます
まき床で育てた苗は、本葉が3〜4枚で直径6cmのポリ鉢に鉢上げをします。さらに2〜4週間で直径9mのポリ鉢への鉢替えが目安です。このころ花壇の土づくりをして、11月後半〜12月前半ぐらいに定植の時期を迎えます。秋〜初冬のうちに定植すれば、後は冬の寒さがじっくり苗を育ててくれます。
秋まきは大株に育つので、株間をしっかり空けることが大切。タネ袋に株間の記載があるものは、それに合わせます。植えたときは間隔が空き過ぎているように見えるくらいでちょうどよくなります。
冬の間、苗は上へ伸びずに株を横に広げるように大株に育ちます。春まきの苗がすくすくと上へと伸びていくのとは対照的です。
冬は唯一、霜の害が心配です。温暖地でも、内陸部などで霜が降りやすいところは、特に注意が必要です。霜が降りると霜柱で苗が持ち上がり、根が露出して枯れたりします。表土に腐葉土を敷き詰めたり、ベタ掛けシートで覆ったりすると多少防げますが、地域によっては定植を春まで遅らせて、苗のまま越冬させる方がよい場合もあります。
やがて、わい性の草花から先に成長して、温暖な冬であれば晩冬〜早春に花を咲かせるものもあります。冬の寒さも年により違うので、咲き始める時期もさまざまです。4月には草丈が中ぐらいの草花が咲き、草丈の伸びる大型の草花は5月を迎えてから開花します。このころは、ちょうどバラの咲く季節と重なり、春の庭はピークを迎えます。
次回は「上手に発芽させるにはコツがあります」を取り上げる予定です。お楽しみに。