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連載

【第10回】発芽した芽を上手に育てましょう

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第10回】発芽した芽を上手に育てましょう

2017/10/24

小さな芽はよく日の当たる風通しのよい場所で育てます

まいたタネから芽が出て、やっとかわいい双葉が開きました。次は大きく育てていく段階です。床まきでは鉢上げまで、まき床の中で少しずつ本葉を育てます。

せっかく発芽した芽がだんだん消えていくのには、原因があります。枯れないまでも生育が止まったり、そのまま老化したり、思うように育たないこともあります。小さなまき床では特に生育を阻害しないよう、スムーズに育てることが大切。植物を育てる上で大切な、光や風通しなどの環境、水加減、肥料やりなどがポイントです。どうやったら小さな芽が無事に育つか、自分で日々観察しながら学べます。

まずは、芽の管理場所から。タネから育てる草花たちは日光が大好き。日光は光合成を促し、生育の源となります。置き場所が肝心なので、日々観察しやすく、日当たり、風通しのよい場所をもう一度よく探してみましょう。置き場所をいろいろ変えてみると、最適な場所が見つかります。もちろん、季節によってよい場所が変わることもあります。私の場合は、南面の掃き出し窓の前にラックを置いて、まき床を管理しています。室内からもまき床がよく見え、水やりなどもできます。日当たりはもちろんですが、風通しのよいことも大切です。苗が程よい風に揺らされることで、徒長を防げます。

まき床には、まいたタネの粒数にもよりますが、たくさんの芽が出ます。芽同士がくっついて出たところは間引きをします。徒長した芽や奇形の芽、アルビノといって葉緑素のない白っぽい芽も間引きます。育つに連れて、葉同士が触れ合うところは順に間引きます。基本的には鉢上げのときに、周囲をピンセットですくえるくらいの間隔まで間引くのが理想的。とはいえ、貴重なタネは、間引きたくないこともあります。そういうときは、芽をピンセットで根ごとすくい上げて、芽のない位置にそっと植え直すとよいでしょう。

テラスに置いたラックで管理しているまき床。南面の日当たり、風通しのよいところが最適です。奥の方はやや日当たりが悪くなるので、時々、入れ替えをしています。水を与えるとまき床の底から水が流れ出て下のまき床に落ちるので、水やりのときは移動させます

いろいろな花色がミックスされたタネの場合は、間引くときにもう少し配慮が必要です。色によって発芽日数や生育スピードに違いがあるためです。大きく育ったものだけを残して小さなものを間引くと、花色が偏ります。発芽した芽の小さめのもの、葉色の薄いものなども均等に残すのがポイントです。

ポットまきをしたときも、間引きをします。基本的には1ポットに1本の苗を残しますが、わい性の草花では株のボリュームを確保したり、花色ミックスで咲かせたりするため、2〜3本残して育てる方法もあります。直まきの場合も、混み合ったところを順に間引くことが、最終的によい苗を育てるためにとても大切です。

花色がミックスのタネは、花色により発芽や苗の育ちなどに違いがあり、特に生育に差が出ます。大きいものだけよく育ったからと残すと、花色が偏ります

小さな芽の生育に大切な水やり、肥料やり、害虫対策など

水やりも小さな芽がうまく育つかの大切なポイントです。ジョウロなどで雑にやっていると、せっかく出た芽がだんだん消えていくことがあります。水のやり方は、芽が出たばかりのころは、芽が出るまでと同じようにハンドスプレーで霧水をやるか、底面給水させます。この方が芽の倒れる心配がありません。

芽が倒れると、幼軸が水に浸って枯れていきます。もし水やりで芽が倒れてしまったら、そっと起こして表土の部分を軽く指で押さえておきます。これだけの手間で生き残る芽が増えます。ただし、ハンドスプレーでは水の量が少なくなりがち。まき床の底から水が出るまでしっかり水やりをします。

発芽後しばらくすると、まき床の表土は落ち着いて硬くなります。そうなれば普通に水やりができます。小さなまき床への水やりには、できたら細い注ぎ口のある計量カップなどが安心です。まき床の縁の部分から表土に水を少しずつやると、流れるように広がっていき、やがて浸透します。このときも、芽が水圧で動かないようにします。とにかく発芽した芽に優しく、丁寧に水やりをすることが肝心です。

ある程度、芽が育ち、まき床の土が硬くなり締まってくれば、上から水を注いで水やりができます。注ぎ口のある計量カップなどで、まき床の縁からゆっくり、表土に水を流すように与えます

水のやり方だけでなく、水分量も芽の生き残りを左右します。芽が出たら、まき床はやや乾き気味にし、表土が白っぽく乾きかけてから水やりをします。乾湿を交互に繰り返すイメージです。いつも水浸しでは根腐れしやすく、芽も徒長します。反対に小さなまき床では、土の量が少なく乾きやすいので、水切れにも注意が必要。過湿気味になるか乾燥気味になるかは、置き場所の他、その人の水やりのクセにもよります。

まき床にはほとんど肥料分がないので、週に1回ぐらい肥料やりもします。小さな芽に置き肥は肥料あたりして枯れやすいので、液肥を使います。液肥は速効性があり、すぐ生育に成果が出ます。草花用の液肥を1000倍ぐらいに薄めたものを水やり代わりにやります。肥料が足りなくなると、生育が鈍ったり、葉が全体的に黄色っぽくなったりします。ただし、与え過ぎると徒長の原因にもなります。

それからもう一つ、小さな芽の脅威になるのが害虫の被害です。床まきでは、まき床をラックの上など高い位置で管理できるので、わりと被害は少ないのですが、一日で葉が食べられてしまうこともあります。特に木々がそばにある場所、地面に近い場所などでは被害にあいやすいので、コンテナなら場所を移動する方が安全です。キンギョソウなど、地際から芽が回復するようなものならまた育ちますが、普通は一度葉がなくなってしまうと、光合成ができなくなって、その後の育ちは期待できなくなります。薬剤を週1回ぐらいスプレーすると安心で、「花き類」に適用のあるスプレータイプのものが1本あると手軽です。

生育が悪くなったり、止まったりしたときの対処法

しばらく育てていると、枯れないまでも、なんとなく芽の生育が悪くなることがあります。その原因は、これまで書いた日当たりなどの環境要因、水、肥料分などがうまくいっていないため。特に水は足りなくても多過ぎても、芽にとって大きな負担になります。その結果、生理障害を起こして、回復するのに時間がかかったり、回復できないこともあります。

草花は種類によっても、成長のスピードが違います。大粒のタネは芽も大きく、成長するのも早くて変化が大きいので、より見守りが必要です。逆に微細なタネは成長が遅いためデリケートな芽の時期が長く、変化がより目で見えにくいので、不調の兆しを見落とさないことが大切です。種類によっても、うまくいくものといかないものがあります。とはいえ、全て管理次第。うっかりすることもあるので、完璧を目指さず、少し多めにまいたり、まき直しも視野に入れておおらかに対処します。

床まきしたものは、小さなまき床の中でやがて根の伸びるスペースがなくなってきます。生育が進んでいるうちに、1本ずつポットに鉢上げをします。まき床で芽を管理するのは、種類にもよりますが、だいたい本葉が4〜6枚ぐらいまで。そのくらいに育てば、鉢上げ適期になります。よいタイミングを逃さないことが、生育のために大切です。

鉢上げができるくらいまで順調に育った苗。写真のように、隣同士の葉が触れ合わない程度に間隔が開いていると鉢上げがしやすくなります

イラスト:阿部真由美

次回は「徒長、立ち枯れ、カビ、コケをどう乗り切る?!」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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