文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第20回】タネから育てた苗を定植するために知っておきたいこと
2018/08/07
タネから育てた苗の定植のセオリーをまず心得て
ポリ鉢の苗はある程度育てば、花壇やコンテナに定植できます。自分でタネから育てた苗を植えるとき、買ってきた苗を植えるのとは違う点があります。売られているポット苗の多くは、花や蕾の付いた成熟した苗。花付きの大株を植えます。一方タネから育てたものなら、苗の生育ステージはさまざま。一般的に本葉10枚くらいに育ったものから定植は可能です。もちろんもっと株が充実するまで、ときに花が付くまでポリ鉢で育苗することもできるので、定植する苗のサイズの幅はより広くなります。
購入した花付き苗とタネから育てた苗を植える大きな違いは、株間の取り方です。成熟した花付き苗は、そこから大きく株が広がることをあまり期待しないので、株間は狭くします。寄せ植えなどでは、株間を取らずに植え込むこともあります。
一方成熟前の小苗を植えるときは、定植後も生育することが前提。株間はより広く取る必要があります。実は購入した花苗よりも、タネから育てて適期に植える草花の方が、株はより充実し大株に育ちます。特に秋まきの草花は冬を経て大きく育つので、かなりの大株に育ちます。この点は植えるときに大切なポイントになります。
株間とは、苗の中心から隣の苗の中心までの長さを指します。育って花期を迎えたころに隣り合う苗がちょうど邪魔しない距離です。草花同士が空き過ぎていると土のスペースが目立ちます。狭過ぎても平面的で動きのない植栽になり、やがて伸びて乱れてきます。適切な株間は美しい植栽を育てます。ただ、植物は常に生育し続けるので、花期の長い草花では生育が進むうちに植栽は密度を増していきます。ある程度成熟して美しく花を咲かせた時点で、適正な株間になるのがベスト。順調に育っている苗なら、その品種の株張りの情報を元に株間を取ります。なお、秋まきの草花を冬から翌春に遅まきした場合など、株張りがより小さくなるときは、株間は狭く調節します。
株間のとり方
タネから育てた苗では多くの場合、花も咲いていない小苗を定植します。花苗を植えるように完成形を見ながら植えられないので、どう育つのか予測しながら植えることになります。ここが少し難しい部分です。どのくらい、どんなふうにそれぞれの苗が育つのかだいたい把握している必要があります。それには何度も育てるしかありません。どう植えるかは、どう咲くかを決める大切な部分。ときに咲いてからうれしいサプライズになることもあるので、ここがやはりタネから育てる一番楽しいところです。
ポリ鉢苗、さていつ定植しましょうか?!
タネから育てた苗は定植の幅が広いとはいえ、頼りない小苗を定植するより、ポリ鉢である程度の大きさまで育ててから植える方が枯れるリスクは減ります。ポリ鉢ではより根のスムーズな生育も期待でき、苗の育ちもより早いです。特に根の細いデリケートな草花なら、ポリ鉢でしっかり育苗する方がいいでしょう。育苗場所が定植場所より日当たり、風通しがよければなおさら。いざ天候が悪くなったときも、ポリ鉢なら保護できます。
ただし、多くの春まき草花のように丈夫で根の伸びの早いものなら、小さな苗のうちに定植してもいいでしょう。生育の早いものは、早めに植える方が老化もしにくいです。草花の種類によって、リスクの少ない定植時期を見極めます。
もちろん定植には適期がありますので、この期間内であることは大前提です。秋まきの耐寒性草花ならば、温暖地では本格的な冬の寒さが来る前に、11月いっぱいを目安に植えます。秋のうちに根づいて深く地面に根が伸びれば、霜の害も受けにくくなります。寒冷地や半耐寒性の草花では寒さよけが必要なので、ポリ鉢のまま冬越しさせて、春に霜の心配がなくなってから植えます。一方春まき草花では、育つにつれて気温がどんどん上がるころなので、定植の時期を選びません。
タネまきした苗の定植の適期
もう一つ、毎年タネから草花を育てているなら、定植は植えるスペースとの兼ね合いがあります。せっかく苗が育っても、まだ庭やコンテナが花盛り。植えるスペースが空いていないこともしばしばです。定植の適期を迎えた苗を植える場所がないときは、老化しないようにポリ鉢の鉢替えをして、苗の生育を促しておきます。
いろいろな苗を植えたい花壇では、草花の種類によって育ち方がまちまち。定植の適期を迎える時期も異なります。ある程度生育がそろってからの方が植えやすいですが、順番に適期が来たものから植えることもできます。あらかじめ定植のプランがしっかりまとまっていれば、迷うことなく植えられます。
苗を植え場所に上手に活着させるためのコツ
せっかく植えた苗が枯れることのないように、定植の際配慮したいことがたくさんあります。苗を定植することは、これまで育っていた場所から移すということ。環境を変えることに他なりません。植物は人間や動物のように移動できないので、環境の変化はより大きな負担になります。地上部の茎葉は日当たりや風通し、ときには気温の変化を受けます。根も違う土と接しますし、水分環境も激変します。定植がうまくいくかどうかは、新しい環境になじんで根や茎葉を伸ばせるかどうかにかかっています。
スムーズに新しい環境に慣らすために、まずは植える場所に数日前から苗を移動させます。苗の中には丈夫で、簡単に根付くものも多いですが、特にデリケートなものはよく慣らします。育苗場所と植え場所の環境に違いがあるときはなおさら。後で根付かず枯れてしまったということがないように、念には念を入れましょう。苗を移動させてから、生育が止まったり葉が傷んだりするようなら、定植まで少し長めに置いてしっかり慣らします。
ポリ鉢で根が真っすぐに伸びた若い苗は、植えればそのまま花壇やコンテナの土に根を伸ばしていけます。問題なのはある程度成熟した苗。根がいっぱいになって下向きに伸びる根がない苗をそのまま植えると、植えた場所の土へ根を伸ばせず、そのまま生育が止まってしまうことがあります。一見花が咲いて根付いたように見えることもありますが、花はやがて終わります。掘ってみると根鉢はそのままの状態で、全く根が伸びていないのを発見できます。
ポリ鉢の底に下向きに伸びる根がないときは、ピンセットなどでなるべく根を切らないように丁寧にほぐし、定植先の土へと伸びる根を作ってから植えます。せっかく育てた苗をしっかり活着させることは、その後の育ちにも大きく影響します。
さらにうまく活着させるために、植えるとき苗の表土を定植場所の土の面と合わせることが大切です。深植えせず、浅植えせず、苗の土の高さを植えられる前と同じにします。言うは簡単ですが、実際植えてみるとなかなか難しいもの。土がふわふわしていたり、耕したばかりの土は密度が粗く、やがて土がへこんで、苗が浮いたり沈み込んだりすることがあります。コンテナなら適度に用土が詰められているか、花壇なら土の密度が安定しているかを確認してから丁寧に植え付けます。また雑に植え付けると苗の付け根の幼軸の部分に土がかぶって、深植えになります。幼軸を埋めてしまうと、湿った土で腐って枯れやすくなります。
土の構造と密度の変化
次回は「コンテナや花壇に、育てた苗を定植しましょう」を更新予定です。お楽しみに。