



文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第11回】徒長、立ち枯れ、カビ、コケをどう乗り切る?!
2017/11/28
タネから苗を育てるとき、水切れや過湿、肥料の過不足、光や風通しなどの環境が原因の生理障害以外にも、さまざまなトラブルに出合います。これを上手に乗り越えなくては苗はうまく育ちません。具体的には、徒長、立ち枯れ、カビ、コケなどです。それぞれ症状は別なので、順番にご案内します。
苗育てで絶対に避けたい、双葉の幼軸が長く伸びる徒長
まずは徒長。茎が伸び過ぎてしまうことで、苗育てで絶対に避けたいトラブルです。一番、問題になるのは、芽が出た後に双葉の下の幼軸がひょろ長く伸びてしまうこと。幼軸の部分は、芽が地際から広がらない一年草草花では、苗の土台になる部分。全ての茎がこの双葉の下の幼軸から成長していきます。ここが長く伸びてしまうと、株元がぐらぐらして株全体を支えきれません。株が横に倒れてしまうなど、苗が健全に育たなくなります。徒長させたくないのはそのため。徒長した苗は茎が伸びているだけではなく、全体的に緑色が薄く、葉も軟らかくなっています。
徒長すると幼軸が長く伸びて、時に曲がってしまいます。日照不足の他、苗の密度が高いことも原因の一つです
徒長の原因の第一は、日照不足。光が足りないと、芽たちは光を求めて幼軸を伸ばします。そのため、光の方向を向くようにして徒長します。よって、苗はよく日の当たるところで育てるのが大原則です。しかし、条件が整ったところで管理していても、特に秋などは日照不足の日が続くと徒長してしまうことがあります。
また徒長しないまでも、まき床の日の当たる向きが一方向の場合、芽は光の方向に伸びるため、上でなく横を向いて育っていきます。芽が傾いて伸びるようなら、まき床を180度回転させるなどして、日差しが入る向きを変えます。そうすると今度は反対方向を向いて伸びようとするため、正常に上向きになります。まき床を同じ条件の場所に置くなら、また芽は傾くので、これを繰り返す必要があります。
日当たりだけでなく、風通しが悪いときも徒長しやすくなります。というのも、芽を程よく揺らす風は、伸びを抑制する効果があるため。手で芽に軽く触れるのも、徒長防止効果があります。まきどき以外、例えば夏まきや冬まきのとき、適温を保つためにまき床を屋内で管理することがあります。屋内では風の対流がほぼないため、徒長しやすくなります。こんなときは、日中の暖かなときだけ窓を開けたり、屋外に出すなどすると徒長を防げます。
また、水分は成長を促すため、過湿の環境も徒長の原因になります。いつも土が湿っているような状態は避けます。光のない夜間に土が湿り過ぎているのも、徒長を促します。朝、水やりをして、夕方以降は乾き気味にするのもそのためです。
同じように、肥料分も成長を促すため、徒長の原因になります。特に茎葉の成長を促す窒素肥料が多いと徒長します。早く大きく育てようと、肥料を与え過ぎると失敗します。水も肥料も程よく与えられることで、草花は健全に育ちます。適量というのは難しいことですが、よく苗を観察してよい状態を見極めるようにします。
もう一つ、まき床で徒長を促す最大の要因が、芽の過密です。たくさんまき過ぎて芽が密集していると、芽は競って伸びようとします。そのため、幼軸が長く伸びてカイワレダイコンのように徒長します。出過ぎた芽は、間引いて成長に応じて葉同士が触れ合わないくらいの間隔に何度か間引きます。間引くのはかわいそうだからとそのままにしておくと、全部が駄目になってしまいます。
特に徒長しやすいのは、タネが大きく成長の早い草花です。ストック、カレンジュラ、ディモルフォセカ、ハボタンなど。反対に微細なタネは初期の成長が遅いので、徒長しにくいです。とはいえ、まき床に多量の芽が混んだ状態では徒長するので、油断は禁物です。
ハボタンの苗です。左は幼軸がまっすぐ伸びていて正常ですが、右は曲がっています。これではまっすぐ上に伸びられずに、やがて倒れてしまいます
徒長を防止するのに効果がある植物成長調整剤もあります。「ビーナイン 顆粒水溶剤」という薬剤です。適用のある草花は限られますが、節間の伸長を抑える効果があるため、幼軸の伸びも抑えられます。葉から吸収するので、水で溶いてハンドスプレーに入れて、芽が伸びる前に天芽(頂芽)の部分に散布します。草花によって希釈倍率は違います。濃すぎると生育不良になるので注意します。少量を計量するのは難しいので、1袋分(1g)の薬剤で希釈液を作る方が正確な倍率になります。
ちなみに一度、徒長してしまうと、元には戻せません。同じ徒長でも、大きく育った草花の茎が伸びてしまい節間が空いた状態なら、切り戻して対応できます。しかし、双葉の幼軸の徒長は致命的。幼軸が長く伸びてしまったときは、まき直しをおすすめします。そうならないためにも、予防が肝心です。徒長しないよう、日当たり、風通しのよい環境で、清潔で水はけのよい用土を使い、水を適量与える。そして日々、芽の成長を見守り、変化に対応することが徒長を防止する上で大切です。