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【第12回】床まきした苗を上手に鉢上げしましょう

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第12回】床まきした苗を上手に鉢上げしましょう

2017/12/26

鉢上げに失敗しないために注意したいこと

床まきして育てた苗の本葉が数枚になり、手でつまめるくらいに育ったら、ポリ鉢に丁寧に1本ずつ植え替えます。これを鉢上げといいます。たくさんの苗が育つ小さなまき床では、土も水分も少ないため、すぐに苗の生育が止まってしまいます。芽を順調に育てるために、タイミングよく鉢上げするのがポイントです。

ただし、まだ根の張りが十分でない小さな苗を移植するとダメージが大きく、活着せず枯れてしまうこともあります。苗の大きさにもよりますが、本葉が2~5枚出て茎もしっかりするころが適期です。反対に生育が止まるほど大きく育ち過ぎると、根もその分広く張るため、鉢上げがしにくくなります。

鉢上げは、1個のポリ鉢に1本ずつ植えるのが基本です。本葉数枚の苗の多くは小さいので、それに合ったサイズのポリ鉢を使うのが、苗を順調に育てるためにとても大切です。小さな苗なら、直径6cmのポリ鉢に植えます。大きめの苗なら、直径7.5cmか直径9cmのものを使い分けます。

イラスト:阿部真由美

鉢上げには、新しい培養土か育苗用土を使いましょう。私のところには古土や生ごみを利用した再生土がたくさんありますが、しっかり根付いた後の鉢替え用。鉢上げするときは必ず新しい用土を使います。根が切れて雑菌が入り、枯れるリスクを減らせます。鉢上げした苗を、できるだけたくさん活着させるのを目標にしましょう。

鉢上げにはポリ鉢と用土のほかに、用土を入れるトレー、用土をすくうための土入れ、水やりのための小さめの水差し、芽の掘り上げに使うピンセット、ポリ鉢を置くトレー、葉水を与えるためのハンドスプレーなどが必要です。いつでもすぐ鉢上げできるように、用具を準備万端、整えておきましょう。

鉢上げに必要な道具たち。用土入れは広めのものを用意して、その中で鉢上げの作業をすると周囲を土で汚しません

鉢上げのとき私は、ベランダに用土を入れるトレーを置き、その前に小さめの風呂椅子くらいの座り台を置いて作業します。鉢上げしたポットや用土を置いたり、広く周りも使えます。用土を入れるトレーは広めのものを使って土を半分くらい入れ、鉢上げの作業はこのトレーの中でします。

上手に鉢上げするコツ

本葉が4〜5枚になり、鉢上げ適期のナデシコの苗。このくらい株間が空いていれば鉢上げしやすいです

まずは鉢上げするまき床をチェックします。活着しないものもあるとして、必要な苗よりやや多めに鉢上げします。苗の周囲を掘るので、苗同士の間隔は葉同士が触れ合わない程度に空いていないとやりにくいです。鉢上げの前に最後の間引きをしておきましょう。

鉢上げするときに、まき床の土が乾いている方がいいか、それとも湿っている方がいいか。やりやすさには好みもあります。用土の種類によっても変わるので、いろいろ試してみましょう。ただし、水やり直後などより、あまり湿り過ぎていないときの方が、ぬれた土が手にべとつかず鉢上げがスムーズにできます。ぬれた手で苗を扱うと、葉にも土がたくさん付いてしまいます。

鉢上げはピンセットを使って、苗の周辺から広く深めに根鉢ごと掘ります。まき床で根が絡んでいないときは、さっとピンセットですくえて簡単です。根が広がっているときは、根を傷めないようにゆっくりすくい上げます。根が切れると音はしないものの、切れたという感覚が伝わるので分かります。幼軸の部分が折れてしまったものは、残念ながらやがて枯れてしまいます。小さな苗の茎葉は柔らかくデリケートです。外科手術をするお医者さんになったような気持ちで、丁寧に扱いましょう。

苗は1個のポリ鉢に1本を植えるのが基本ですが、分枝しにくいタイプの草花や苗に早くよりボリュームを出したいときは、1個のポリ鉢に2〜3本の鉢上げもできます。ポリ鉢の数が足りないときも、まずは数本を一緒に鉢上げしておいて、葉同士が触れ合うくらいになったら根鉢を2つに割って、1本ずつ別々のポリ鉢に植えてもいいでしょう。

鉢上げのときに、根は絶対に切ってはいけないのかどうか。これは草花にもよります。直根性のものは主根が切れてしまうと、その後生育不良になりますが、このタイプはあまり床まきしないので鉢上げ不要です。床まきするものは、移植可能なもの。中でも分枝して育つタイプのものに、根が切れても問題のないものもあります。ただ、根が切れると雑菌が入って枯れるリスクがあります。また切れた根からはしばらく水分を取り込めないので、たくさん切れると苗がしおれることもあります。なるべく切らない方が活着率も上がります。

鉢上げの手順

1)ポリ鉢の6~7分目くらいまで培養土を入れます。小さな苗の根が肥料分に当たって枯れるリスクがあるため、肥料は混ぜません。軽い用土は手で押さえると沈み込むので、しっかり土を詰めます。用土の詰めが足りないと水やりの後に、用土が沈み込んでしまいます。また土の密度がしっかりある方が、根張りもよくなります。

2)まき床の苗の周囲からピンセットを差し込み、深く根ごとすくうようにして1本ずつ掘り上げます。芽同士がくっついている場合は、大きな固まりにして掘って、手で根鉢を分けるようにします。なるべく根を傷めないよう、そっと扱います。

3)ポリ鉢に根を下向きにして広げるように置きます。1本ずつ植えますが、春の遅まきなどで株のボリュームをつくるのが難しいときは、1鉢に数本植えるとボリュームを出せます。

4)ウオータースペースとして、ポリ鉢の縁から5〜10mm残して用土を入れます。根が長く伸びているときは、やや土の量を少なくしておいて、そこに根を下向きに垂らすようにして、用土を詰めながら高さを合わせるとやりやすいです。また決して幼軸の部分を地中に埋めないように高さを合わせます。深植えすると枯れるリスクが高くなります。

5)指先で苗の根元を押さえて、幼軸が垂直になるよう落ち着かせます。大切なのは、苗をしっかり土に垂直に固定すること。培養土の多くは軟らかくふわふわしているので、手で軽く押しながらポリ鉢にしっかり土を詰めます。最後にたっぷり水を与えます(水やりのコツは次ページを参照)。

鉢上げの後の水やりと、上手に根付かせるコツ

鉢上げが終わったら、すぐに水やりをします。小さめの水差しで、苗を倒さないように表土の部分から静かに水を注ぎます。全体に上から水をかけると、苗が倒れてしまいます。小さな苗や少し徒長気味の苗なら、水を張ったトレーの中にポリ鉢を置いて、底面給水させると安全です。5分ぐらいおくと、表土まで湿ってきます。

水差しで鉢上げした苗が倒れないように静かに水やりをします。難しい場合は、200ccぐらいの小さな計量カップを使いましょう。注ぎ口があって、水圧を加減しながら水やりできるのでおすすめです

水やりをして培養土に水が染み込むと土がへこんで、垂直に立てた苗が少し横に倒れることがあります。もう一度、手や平らな面のある棒などで表土を平らにして苗を垂直にします。苗が倒れて茎が水分を含んだ土に当たってしまうと、そこから腐って枯れてしまうことがあります。活着させるための大切なポイントです。

土が水分を含むと少し苗の安定が悪くなるので、水やりの後に再び表土を押さえて苗を垂直に固定します。使っているのは、木を切って作った棒。平らな面で鎮圧します

鉢上げした後、葉や茎に湿った土が付いてしまうことがあります。土の水分は苗を傷める要因になるので、葉や茎にハンドスプレーで水をかけて土を落とします。葉から水分が蒸散するのを防いで、根付くのを助ける意味もあります。植物は葉からも水分を取り込めるので、切れた根から水分を取り込めず苗がしおれ気味のときも、葉水が効きます。

鉢上げの作業中に葉や茎に土が付いてしまったときは、ハンドスプレーできれいに落としましょう。ぬれた土は苗を傷め、枯れる原因になります

活着して生育を再開させるまで、3~4日は風の当たらない半日陰の場所に置きます。日当たりでは蒸散の量も増えて、根付くのが遅れたり根付けずに枯れてしまいます。根付くまでは成長が止まっているので、徒長もしません。もちろん、どんなに丁寧に管理しても、中には根付けず枯れてしまうものもあります。

小さな苗はそれほど水を吸わないので、最初は土が乾きにくいです。根付くまでは乾き過ぎないように、また根腐れを防ぐために湿り過ぎないようにします。ポリ鉢の大きさと株や根のサイズにより、吸水量も変わります。根付くまで数日は手厚く見守ると、断然、活着率はよくなります。

新芽が動きだせば、根付いた証拠です。今度は日当たりと風通しのよい場所に移して、苗を育てます。ただし、いきなり日当たりに出さずに、苗の様子を見てだんだん日差しに慣らします。ポリ鉢に肥料分を入れていないので、水で薄めた草花用の液肥を週1回ぐらい水やり代わりに与えます。苗の育ち具合によって、土の乾きは大きく変わります。表土が乾きかけてからたっぷり与える、この乾湿のリズムが、苗育てでも大切です。

鉢上げ直後の苗の写真。苗が真っすぐ上に向かって立ち、しおれがなく、生き生きしていればOK。3〜4日で活着し、生育を再開します

次回は「草花の名前をきちんと特定するためのラベリング」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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