文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第16回】鉢替えして苗をさらに大きく育てましょう
2018/04/03
適期に鉢替えして、さらに苗を大きく育てます
ポリ鉢に鉢上げした苗は、だんだん育ってきます。この段階で定植できますが、一回り大きめのポリ鉢に植え替えもできます。これを鉢替えといいます。苗は茎葉、根の成長に伴って、ポリ鉢のサイズが手狭になってきます。そこでより大きなところに植え替えて、生育を促します。
実際、適期に鉢替えした苗としていない苗では、苗の生育に歴然と差が出ます。根の伸びるスペースがないと根はポットの底にぐるぐると巻き付きます。苗は根を下へ伸ばせるからこそ、成長できます。鉢替えすると、積極的に苗の生育を促せるのです。
ここで注目しているのは根鉢です。普段私たちは茎葉や花など見える地上部だけに注目しがちです。しかしポット育苗では、ポリ鉢に包まれている土の部分、ここを根鉢といいますが、この成長にも気を配ります。根の育ちと地上部の育ちは比例していて、地上部が育っていれば根もよく生育しています。
もちろん、本葉がある程度育てば、鉢替えせずに花壇や鉢に定植することもできます。ただ、比較的デリケートな園芸植物なら、直径9㎝のポリ鉢の大きさの株くらいまでポリ鉢で育てるほうが、苗はしっかりして枯れるリスクが減ります。しかも早めに定植した苗よりも生育はより早く、大きな株に育ちます。根のスペースが株のサイズと合っていることがスムーズな生育の要因です。もちろん自分でタネから育てている苗ですし、ポリ鉢で育苗する楽しみもあります。日々大きく育っていく苗に、満足感もたっぷり味わえます。
鉢替えは小さなポリ鉢から大きなポリ鉢に移すので、その分たくさんの用土が必要です。草花用の培養土が向きますが、私は昔から鉢替えに使う用土に、生ごみと古土で再生させた用土を使っています。堆肥置き場には、裏庭の土のスペースをレンガで仕切っています。生ごみは普段台所で出る野菜くずなど何でも使えます。ただ、貝類はそのまま残るので、シャベルの腹で砕きます。カボチャのタネだけはそのまま残って後で発芽するので、堆肥化しません。
地面に堆肥スペースを作ります。30~40cm四方くらいずつ、いくつかに分けて利用します。最初は掘って土を除去して、そこに生ごみと古土を順に積んでいきます。腐熟が進んだら、よくかき混ぜます。堆肥化した用土は、用土袋などに移します。空いた場所でまた堆肥を作ります。
堆肥スペースと堆肥の積み方
ポイントさえ押さえれば、手軽にいつでも鉢替えできます
鉢替えは、一回り大きなポリ鉢に植え替えるだけ。苗もすでにしっかり育っているので、そんなに難しくありません。土と用具さえあれば、時間もあまりかからずできます。鉢替えする苗のほか、用具は用土を入れるトレー・一回り大きなポリ鉢・緩効性肥料・水差し・ピンセットなどが必要です。鉢替えの作業は、鉢上げのときと同じように土を入れたトレーの中で行います。慣れれば手軽な作業になりますが、初めての方には押さえておきたいポイントがいろいろあります。
まずは鉢替えのタイミング。ちょうど育っているポリ鉢では苗が手狭になったころが目安です。つまり、鉢の表面から苗の茎葉が飛び出すくらい育ったころ、そして、ポリ鉢の底の穴から白い根が飛び出すころです。これを過ぎてそのまま小さなポリ鉢で育てていると、生育のスピードが落ちて、やがて根がポットの底に巻き付いていっぱいになってしまいます。そうならないためにも、適期に鉢替えすることが大切です。
ただし、F1品種でなく固定種の場合は、生育にばらつきが出ます。花色ミックスのものならなおさらです。鉢替えは個々の苗の生育に合わせてするので、いつでも鉢替えできるように準備しておきましょう。このときラベルを一つしか作らなかった草花は、鉢替えのタイミングがずれると、苗を管理する位置が変わって品種名が分からなくなりがちです。鉢替えしなかった苗とした苗を別に管理する場合は、両方にラベルを立てておきましょう。
鉢替えするポリ鉢は、大き過ぎず小さ過ぎず、成長を促せるくらいの一回り大きなサイズへ替えることが大切です。小さ過ぎると根を伸ばすスペースがありませんし、大き過ぎると今度は土の乾きが遅くなり根の生育も緩慢になります。一回りというと、直径6cmのポリ鉢の苗なら直径9cmポリ鉢が一般的ですが、苗の育ちのゆっくりなものは直径7.5cmのポリ鉢へ植え替えます。生育の早いものは直径10.5cmのポリ鉢へと、育ちによってサイズを調整します。
苗育てに使うポリ鉢は軟らかくできています。この軟らかさでポリ鉢から根鉢を出しやすく、根が傷みにくくなっています。それでも扱い方によっては根を傷めるので、優しくポットから根鉢を出します。まずはポリ鉢の下の方をもむようにしてほぐし、根鉢を緩めてポリ鉢から外します。
鉢替えのときに一番大切なのは、根を傷めないことです。鉢を替えるのを苗に気付かれないように優しく、といったらいいでしょうか。特に株の中心に太い根が伸びていて、あまり根が分枝しない直根性のタイプは、根が切れると生育が極端に悪くなります。根を傷めないためには、適期に植え替えることが大切ですが、遅れたときは、根をなるべく切らないように扱います。
もし鉢替えのタイミングを逃して、根鉢の底に根がぐるぐる巻き付くようなら、ピンセットや竹串などで優しくほぐします。パンジーやハボタンなどのように、回った根ごと切ってもよい種類もありますが、どの草花なら切ってもいいのか分からないこともあります。根は切れると回復に時間がかかりますし、雑菌が入って枯れるリスクもあります。どの草花も、なるべく根を切らずに鉢替えする方がいいでしょう。
実際に手順を追って鉢替えしてみましょう
鉢替えを手順に沿って紹介します。
鉢替えに使う用土は新しい培養土が一般的ですが、古土の再生堆肥を使うときは、よくかき混ぜながら腐熟していない枝など大きなごみを取り除きます。草花の種類によっては、水はけをさらによくする赤玉土小粒など、アルカリ性に傾けるくん炭や草木灰など、有機質分を足す堆肥などを混ぜます。いろいろな用土が混じっている方が、土はよりふんわり空気をよく含みます。
鉢替えでは、用土に緩効性肥料を混ぜます。用土にあらかじめ適量を混ぜ込むか、ポリ鉢の半分まで土を入れた段階で適量を入れてから、ポリ鉢を揺すって用土に均等に混ぜます。使う肥料は、用土に混ぜて使うタイプの、少しずつ溶け出して効きめの長持ちする緩効性肥料です。速効性のタイプはすぐに水に溶けて肥料分がなくなりますし、肥料分が一気に溶け出して濃いので、鉢替えのときに混ぜる肥料には向きません。
ポリ鉢の半分くらいまで、正確には鉢替えする苗の根鉢の高さ分+ウォータースペースの0.5㎝を残した分だけ用土を入れます。緩効性肥料はここで入れてもいいでしょう。
ポリ鉢から根鉢を出します。根鉢を傷めないように優しく扱います。ポリ鉢の底に近い下の部分をつかんで、もむようにして少しほぐします。これで根鉢が緩んで外れやすくなります。それからそっと根を傷めないようにポリ鉢から根鉢を出します。根がポリ鉢の底から飛び出しているときは出しにくいので、丁寧に扱います。
適期の鉢替えではそのまま植えられますが、根が回っているときはピンセットや竹串を使って根鉢の底をほぐします。なるべく根を切らないように、下向きに伸びる根を作ります。根鉢が硬く締まっているようなら、根鉢をつかんで両手でもむようにすると、土が緩みます。
半分ほど用土を入れた一回り大きなポリ鉢に、根鉢を置きます。高過ぎるようなら用土を取りながら高さを合わせます。深植えしないためにも、ここで高さを合わせることが大切です。茎が斜めに育っている苗があれば、ここで苗の主茎を垂直に置きます。この場合、少し根鉢を傾けて植え付けることになります。
根鉢の周りに用土を詰めます。縁の部分は比較的用土が沈みやすいので、手で少し押しながら用土を詰めます。用土が足りないと後で表土が沈み込みます。このあと、土入れの底の部分で表土を優しく平らにして植え付けます。
鉢替えし終わったら、表土から優しく水やりします。この水やりで土が沈んで落ち着きます。土が沈み込むようなら足します。深植え、浅植えしていないかどうか確認して、表土の高さを合わせます。
鉢替えした苗は、根のダメージがほぼなければ、そのまま日当たりで育てます。もし鉢替えが遅れて根が切れてしまったときは、半日陰で管理します。根が吸水できないような状態なら、葉水を与えるなどして根の回復を待ちます。
鉢替えは、ポリ鉢で育つ苗の生育を促す手段として役に立つ方法です。直径9㎝のポリ鉢で育てていて植える予定のないときも、次は直径10.5㎝や直径12㎝ポリ鉢に鉢替えすると、より生育を促せます。植えるタイミングまで苗が育っているのに定植する場所のないときや、寒さよけのためにポリ鉢のまま冬越しさせる場合などです。またごく生育の遅い草花や真冬の寒い時期は、少しずつポットのサイズを大きくすることで、よりうまく成長させられます。そのときどきに応じて鉢替えをうまく使えば、苗をより大きく育てられます。
次回は「草姿のいろいろと、株を充実させるピンチ」を更新予定です。お楽しみに。