文・写真
三橋理恵子
みつはし・りえこ
園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。
※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。
【第17回】草姿のいろいろと、株を充実させるピンチ
2018/05/01
草花によって、品種によって、草花の草姿はいろいろです
一年草の草花はキンギョソウなど一部を除いて、双葉の幼軸の上から茎葉を伸ばして成長します。ここから1本上にするすると伸びていくのか、それとも茎を分けて広がっていくのか、それは草姿(そうし)次第。もちろん品種によっても違いがあります。まだ生育の進まない苗の段階では、どんな草姿になっていくのか分かりにくいですが、育つにつれて特徴が出てきます。
もう一つ特徴的な草姿は、双葉が出たあとロゼット型に育っていくタイプです。苗のうちは上へと茎を伸ばさず、地際で放射状に葉を広げます。一年草、多年草共にあって、ペチュニアやジギタリス、デージーなど多くの草花に見られます。種類によっては、葉がだんだん大きくなって、大株に育つものもあります。これは一般的には寒い季節を乗り越えるために、地際近くで寒さを避けながらじわじわと生育していくイメージです。ロゼットが充実するほど、大株になり花もたくさん咲きます。適期になるとロゼットの中心から茎を伸ばして、花を咲かせます。ジギタリスなどのように中心に太い茎を1本伸ばすものもあれば、ペチュニアのように四方に茎を伸ばすタイプもあります。
また、いわゆるつる性のものは、茎を長く伸ばして、他のものに巻き付いていきます。これも基本は双葉から1本の主茎が育ちますが、やがてわき芽が育ち分枝していきます。
多年草は、芽が出たあと双葉の上から茎葉を展開させる点は一年草と同じです。草姿も種類や品種によりさまざま。ただし、株が成熟してから、別の芽が地際から出て育つものもあります。新しい芽は若くこれから成長できるので、株の若返り、つまり更新ができて多年草化します。
タネまきからの苗育てでは、芽が出てその後どう姿が変化していくのか、じっくり観察できます。草姿の違いを知っていれば、花壇やコンテナで草花をどう配置し組み合わせればいいか、手掛かりになります。
草丈が違うと、こんなに草姿はバラエティーに富みます
苗は定植が済んで株がさらに育ち花芽を付けるころになると、さらに草姿がダイナミックに変化していきます。同じ草姿でも草丈が違うと全然違って見えます。葉の大きさや形なども違うのでなおさらです。
草丈の分類では、ごく低いわい性種や切り花用としても活用される高性種、そして膝丈くらいのミディアム丈のニーハイ種などだいたい3つのタイプに分けられます。同じ種類の草花でも、キンギョソウやストック、ナデシコなど品種によってわい性のものから高性種までバラエティーに富むものもあります。
わい性種は、茎を分けて育つタイプがほとんど。いわゆるポット苗でこんもり茂って、株のてっぺんにたくさん花を付けるのがそうです。パンジーやビオラ、インパチェンス、ビンカ(ニチニチソウ)など。どれだけよく分枝が進むかが、よい株に育つかの目安です。茎が上に伸びる立ち性のタイプの他に、比較的茎が横に倒れて長く伸びていくほふく性の品種もあります。この他、デージーのようにロゼット型に葉を広げ、中心からたくさんの花茎を立てるものもあります。
高性種では主茎から茎を分枝させて、その先端にたくさんの花を咲かせるタイプが多くあります。ニゲラ、ダイアンサス、セントーレア(矢車菊)、ジニア、ケイトウ、センニチコウなど。茎がたくさん出る分横に広がるので、株間は広く取る必要があります。1本大型の穂を立てるジギタリスやデルフィニウム、キンギョソウなどは、太い主茎を1本長く伸ばします。節の部分にわき芽がたくさん出ていますが、主茎の成長により、わき芽の生育は抑えられています。
また、大型になる高性種ではロゼット型のものもたくさんあります。デルフィニウム、ジギタリス、ポピー、アスターなど。ロゼット型の中心から1本茎を伸ばすものと、分枝するものと両方があります。ロゼットが大きく育つほど、株は充実してたくさん花が咲きます。
ニーハイ種でもさまざまなタイプがありますが、例を挙げると、ハナビシソウやアイスランドポピーのようにロゼット型を作るもの。真っすぐ1本中心から主茎が育ち、やがて分枝していく、サルビアのようなタイプなどさまざまです。
ピンチをすると、より茎葉を充実させることができます
草花には以上のように草姿にいろいろ違いがあるものの、苗育てでは株をより充実させることが大切です。分枝が進めば株はより大きく育ち、1株で花もたくさん咲きます。分枝を促す方法として、ピンチまたは摘芯と呼ばれる方法があります。草花の葉が出ている付け根の節の部分からすぐ上から茎を切ることで、節間の両側からわき芽の成長を促します。
というのも、苗の成長の過程でわき芽は主茎の節間に出ているものの、成長のエネルギーは主茎に注がれていて、その成長は抑えられています。ところが主茎を切ることでわき芽の成長のスイッチが入り、生育を始めます。ほとんどわき芽は節の両側に二つ出ていることが多いので、ピンチすると、茎の両側から2本芽が伸びて分枝します。ピンチと同じように茎が横に倒れると、わき芽の生育が促される性質があります。長く伸びたバラのシュートを横に倒して誘引するのも、わき芽をたくさん伸ばすためです。
草花によって草姿がいろいろなので、ピンチの仕方もそれぞれですが、株のバランスを見ながら、よい位置で切るのがポイントです。先端に近い部分で切ると頭でっかちになって株の安定が悪くなります。老化が進んでいる茎の下側だと、よい芽が伸びなかったり、芽が全く伸びないこともあります。バランスのよい、しかも勢いよく芽の伸びそうな位置でハサミで切ります。
伸びたところはさらにピンチすると、そこからまた分枝します。こうしてピンチを繰り返すことで株をこんもりと豊かに育てることができます。もちろん草花は草姿によって、自ら分枝していくものもありますが、ピンチによってより分枝を促し、草姿をコントロールすることができます。
ピンチを積極的にしたいのは、わい性で茎が分枝してこんもり広がるタイプの草花です。またサルビアやバジルのように、双葉が出てから1本主茎をするすると伸ばして育っていくタイプも、ピンチすることで茎が分かれて株は充実します。
花が咲いてからも、ピンチのテクニックは使えます。サルビアやストックなど、株のてっぺんに穂状の花を咲かせたり、キャンディタフトなど傘状の花を付けるものは、数節下の節の上で切って次の花を促します。これもピンチの一種です。
反対にピンチしない方がいい草姿のものもあります。主茎のてっぺんに大型の穂状の花を咲かせる草花などがそうです。主茎1本を充実させて育て、そのてっぺんによい花を咲かせます。節からわき芽が1番花が咲く前に育ってくるようなら、摘み取って1本に仕立てます。間違って主茎をピンチしてしまうと、茎が分枝してしまいそれぞれの花穂が小さくなります。ピンチをするのは1番花が終わってから。下部に次の芽が出ていればその位置から切って、2番花を促します。
次回は「苗が育たない悩みと老化について」を更新予定です。お楽しみに。