文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。
【第10回】農薬のラベルを見よう!①<適用作物編>
2022/09/20
農薬は、製品のラベルや添付された説明書に「適用病害虫と使用方法」が記載されています。その一覧表の「作物名」に記載された作物(=適用作物)にのみ農薬が使用できます。今回はこの適用作物の名称について解説していきます。
※「農薬のラベルを見よう!」は、本文に使用する作物名および分類名を農林水産省の表記に統一しています。
【目次】
1. 適用作物ってなんだろう
2. 適用作物の範囲はより大作物群化される傾向にある
3. 適用作物のグループ化を詳しく見ていこう
①非結球あぶらな科葉菜類などの「小作物群」
②いも類、根菜類などの「中作物群」
【コラム:「とうもろこし」の分類は?】
【コラム:野菜類の中作物群 豆類(種実)と豆類(未成熟)の違いは何?】
③野菜類、きのこ類などの「大作物群」
【コラム:農薬の適用作物名に同じ作物名が2つ書いてあったりするのはなぜ?】
【コラム:鉢植えの樹木の観葉植物は花き類・観葉植物に含まれるの?】
1. 適用作物ってなんだろう
農薬には、使用できる作物の範囲を示す「適用作物」の表記があります。この「適用作物」は、「大作物群」「中作物群」「小作物群」「作物名」に分けられます。まずは図で見てみましょう。具体的な例があると分かりやすいので、ピーマンを例に挙げてみました。
上の図のように、ピーマンに農薬を使用する場合、適用作物に「ピーマン」あるいは「ピーマン及びとうがらし類」「なす科果菜類」「野菜類」のいずれかの表記があれば使用できる、ということになります。近年、上の図の作物名(ピーマン)から、「ピーマン及びとうがらし類」「なす科果菜類」「野菜類」などの小作物群から大作物群に該当する適用作物のグループ化が進んでいます。
2. 適用作物の範囲はより大作物群化される傾向にある
グループ化とは似ている作物をまとめた「作物群」を作ることです。2019(令和元)年からは、農林水産省の農薬の登録制度ではこの複数の作物をまとめた「グループ」化での登録が積極的に導入されるようになりました。
その理由は、従来通りの登録制度では「ピーマン」「トマト」「きゅうり」「なす」といった作物ごとに、栽培面積の広い野菜は、多くの農薬が登録を取得します。一方で、栽培面積の狭い地域特産の珍しい農作物などは使用できる農薬が限られてしまい、病害虫の防除に支障をきたすことがあります。
例えば、「みずな」と「みぶな」のように同じような農作物でも地域によって作物名が異なることがあり、農薬を同じように使用してよいのか判断に迷うことがあります。そこで「みずな」と「みぶな」を「非結球あぶらな科葉菜類」でまとめることで、判断しやすくしています。
このように、主な野菜や果樹類が中心になりますが、まず、葉や茎、果実など食べる部位や大きさ、完熟あるいは未成熟で食べるのかなど、植物学的な分類も考慮します。その上で、加害する病害虫の種類や栽培方法が類似している、農薬の使用方法や残留濃度に影響するような作物などを中作物群・小作物群にグループ化することで、農薬の使用範囲を広げたり判断しやすくしたりできるのがメリットです。中にはグループに分類されない作物もあります。
特に家庭菜園では小面積で多くの野菜を育てている場合が多いです。農薬の登録が、今までのような作物ごとより、作物群による登録が多くなると、一つの農薬で使用できる野菜の種類が多くなり、病害虫を防除しやすくなります。作物のグループの詳細を把握していないと、自分が栽培している野菜に農薬を散布してよいのか迷ってしまいます。適用作物名のグループは必ず下記「農林水産消費安全技術センター(FAMIC)」ホームページで確認するようにしましょう。
3. 適用作物のグループ化を詳しく見ていこう
グループ化は、レタスと非結球レタスのような収穫物の形の違い、えだまめとだいずのように食べる部位や時期の違いなどを調べ、特徴が似ている作物をまとめて「大作物群」「中作物群」「小作物群」「作物名」に区分されています。ここでは食の安全性の観点から野菜と果樹に絞って詳しく説明します。
➀非結球あぶらな科葉菜類などの「小作物群(しょうさくもつぐん)」
小作物群は「こまつな」「チンゲンサイ」など、複数の代表的な作物をまとめて「非結球あぶらな科葉菜類」のようにグループとして登録されたものです。例えば、鱗茎(りんけい)類は、小作物群では根物と葉物に、うり類は未成熟と成熟に分けられます。下の表を見てください。
葉菜類の小作物群(一部例)
・結球あぶらな科葉菜類 キャベツ、はくさい など
・非結球あぶらな科葉菜類 こまつな、チンゲンサイ など
・せり科葉菜類 パセリ、みつば、セルリー など
・レタス類 レタス、非結球レタス など
・レタス類以外のきく科葉菜類 しゅんぎく、すいぜんじな など
・しそ科葉菜類 しそ、セージ、バジル など
・ヒユ科葉菜類 ほうれんそう、おかひじき など
上記以外に、アイスプラント、つるむらさきなど小作物群に含まれない葉菜もあります。
②いも類、根菜類などの「中作物群(ちゅうさくもつぐん)」
中作物群は植物学的に近しいこと、使用する部分が同じであること、作物の形や重さなどが似ていること、生育の時期や状態・栽培方法が似ていること、以上をもとにまとめています。それぞれの代表的な野菜、果樹名を記しました。
例えば下の表のようになります。
もう少し例を挙げてみましょう。下記は代表的なものです。
<野菜類>
・いも類:かんしょ、さといも、ばれいしょ、やまのいも など
・根菜類:だいこん、にんじん、ごぼう、しょうが、かぶ など
・鱗茎(りんけい)類:たまねぎ、ねぎ、にんにく、にら、らっきょう など
・豆類(種実):だいず、あずき、らっかせい、ささげ など
・豆類(未成熟):えだまめ、さやえんどう、さやいんげん、未成熟そらまめ など
・うり類:きゅうり、かぼちゃ、すいか、メロン など
・なす科果菜類:トマト、ミニトマト、なす、ピーマンなど
・あぶらな科野菜(花蕾及び茎):カリフラワー、ブロッコリー など
・葉菜類:こまつな、パセリ、キャベツ、レタス、ほうれんそう、しそなど
・茎野菜類:ふき、アスパラガス、わらび、さといも(葉柄) など
・食用花:食用ぎく、花オクラ、食用ミニバラ など
・グループ化されない野菜:いちご、オクラ、れんこん、たけのこ、みょうが など
<果樹類>
・かんきつ:みかん、きんかん、ゆず、レモン など
・仁果(じんか)類:なし、びわ、りんご など
・核果(かくか)類:もも、うめ、あんず、すもも など
・ベリー類等の小粒果実類 ぶどう、ブルーベリー、やまもも など
・グループ化されない果樹 いちじく、キウイフルーツ、くり、オリーブ など
③野菜類、きのこ類などの「大作物群(だいさくもつぐん)」
大作物群は、中作物群のグループをもとに情報を蓄積し「野菜類」のようにまとめたものです。
・野菜類
・きのこ類
・穀類
・飼料作物
・果樹類
・花き類・観葉植物
・薬用作物
・樹木類
・芝
・グループ化に含まれない作物(イグサ、ケナフ、たばこなど)※下記のリンク先にある適用作物分類表を見るとわかりやすいです。
【コラム:「とうもろこし」の分類は?】
とうもろこしは野菜類と思われがちですが、いねやむぎなどと同じ穀類になります。完熟した種子でポップコーンや製粉用などに使用されるとうもろこしは、「とうもろこし(子実)」と呼ばれます。一方、スイートコーンなど、ゆでるなどして食べるものは「未成熟とうもろこし」になります。とうもろこしを小さいときに収穫する「ヤングコーン」は穀類ではなく野菜類に属し、どの中作物群にも属しません。
【コラム:野菜類の中作物群 豆類(種実)と豆類(未成熟)の違いは何?】
どの豆類にも、種実と未成熟の両方があります。簡単に言うと「種」を食べるのが「種実」で、生育途中の莢(さや)や中の実を食べるのが「未成熟」です。
例えば、「えだまめ」は生育途中で収穫するため未成熟です。成長して種実になると「だいず」になります。大多数は豆の前に「未成熟」か「さや」を付けて区別しますが、青果店では省略して販売されることが多いです。
【コラム:農薬の適用作物名に同じ作物名が2つ書いてあったりするのはなぜ?】
グループ登録の場合、作物名で希釈倍数などが異なると別途記載になります。その場合、(△△△、〇〇〇は除く)と表示されます。
「STゼンターリ(R)顆粒水和剤」のラベルを例に見てみましょう。
下の写真を見ると、作物名の欄は「はくさい」と「野菜類(はくさいを除く)」に分かれています。適用害虫名の「アオムシ、コナガ、ヨトウムシ」では希釈倍数がそれぞれ「はくさい」は2000倍で「野菜類(はくさいを除く)」は1000~2000倍となります。
(写真提供:住友化学園芸株式会社)
このように、適用病害虫名や希釈倍数などの使用条件が異なる作物の場合は、グループ化されている作物名と別途記載になるのでご注意ください。
【コラム:鉢植えの樹木の観葉植物は花き類・観葉植物に含まれるの?】
現在のグループ化にはいくつかの例外があります。
茎に年輪ができず木化しない食べられる草花のことを「野菜」と呼びます。幹が木化し肥大成長する樹木のうち、葉を食べるものも「野菜」に含まれます。また、果実を食べる樹木は「果樹」になります。
そのため、すいか、メロン、いちごは野菜に入ります。パイナップルとバナナは草本植物の果実なのに、農薬の登録上では果樹に分類されています。同様に、ばらとぼたんは樹木ですが、花き類・観葉植物に含まれます。
また、農薬登録上の「観葉植物」とはポトスなどの草本の観葉植物を意味します。樹木の観葉植物は農薬の登録上では「樹木類」に含まれます。盆栽も同様の考え方になるため「樹木類」になります。
植物分類に詳しい人は、なぜこのような分類になったのか疑問に思う方もいるかもしれません。病害虫残留問題、農薬の使用方法などを中心に考えて分けられているので、一般的な植物分類とは異なる点をご理解ください。
次回は農薬のラベルを見よう!②<使用時期、回数、使用方法> について解説します。