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【第12回】農薬を使用しない病害虫の防除方法

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第12回】農薬を使用しない病害虫の防除方法

2022/11/15

1年間にわたって連載してきた「農薬のいろは」も、今回が最終回です。これまで、農薬についてさまざまな角度から解説してきましたが、農薬を使わずに病害虫を防除できるなら、それに越したことはありません。

そのためには栽培管理や栽培方法に留意して、マルチングをする、天敵の利用、害虫の侵入を防ぐなどを行うことが大切です。農薬に頼らない病害虫の防除方法をいくつかのカテゴリーに分けて解説していきます。

【目次】
1. 病害虫が発生しにくい環境をつくる「耕種的防除法」
 ①抵抗性品種を利用する
 ➁健全な苗を購入する
 ③密植を避け、風通しをよくする
 ④栽培肥料の施し方に気を付ける
 ⑤水はけをよくする
 ⑥天地返しをする
 ⑦病気になった植物を放置しない

2. 天敵や微生物などを利用して病害虫を抑制する「生物的防除法」
 ①天敵を活用する
 ②緑肥を活用する

3. 熱や光など物理的な方法で病害虫を抑制する「物理的防除法」
 ①マルチングをする
 ②シルバーマルチやシルバーテープを利用する
 ③寒冷紗(かんれいしゃ)や防虫ネットを利用する
 ④粘着紙を利用する
 ⑤防草シートを利用する
【コラム:マルチ(マルチング)の種類】

1. 病害虫が発生しにくい環境をつくる「耕種的防除法」

普段、何気なく行っている農作業で病害虫の発生を抑制する、あるいは軽減させる防除法です。代表的な例を挙げてみます。

①抵抗性品種を利用する

昔から「種半作苗七分作」「苗半作」という言葉があります。これは、種や苗のよしあしによって作柄(花や果実などの出来栄え)の半分が決まるという意味です。

そのため、苗を購入する際は茎が太く、間延びせずにがっちりと丈夫に育っている苗を選びます。

特に野菜類では病害虫に対して抵抗性のある品種があります。例えば、ミニトマトの「アイコ」には萎凋(いちょう)病、モザイク病、葉かび病、斑点病に対して抵抗性があり、ホウレンソウの「アトランタ」はべと病抵抗性があります。キュウリの「よしなり」ではべと病、褐斑病やうどんこ病に耐病性があります。

このように抵抗性や耐病性のある品種を選ぶことも大切です。

②健全な苗を購入する

最近は種をまいて育てるより、手軽な苗を購入して育てる傾向があります。

茎が太い、葉色がよい、株がぐらつかない、さらに病害や虫害にあっていないなどの健全な苗を選べば、その後も順調に生育することが多いため、病害虫による被害の軽減が期待できます。

トマト、キュウリ、ナスなどの果菜類では、病害虫に抵抗性のある台木に接いだ接ぎ木苗が販売されています。これらは主に土壌の病害虫の被害を防ぎます。

③密植を避け、風通しをよくする

花壇や菜園に苗を植えるとき、開花時期や収穫時期、大きく育った状態を考えて苗を植えます。植え付けの間隔である株間が狭いと生育中に株と株が混み合い、風通しが悪くなり、病害虫が発生しやすくなります。

④栽培肥料の施し方に気を付ける

植物には多くの種類の栄養分が必要です。その中でも重要なのが「肥料の三要素」とされる窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)です。窒素は「葉肥え(はごえ)」と呼ばれ、茎葉や根の生育を促します。リン酸は「花肥え(はなごえ)」や「実肥え(みごえ)」と呼ばれ、茎葉や根の生育を助けるとともに、開花や結実を促します。カリは「根肥え(ねごえ)」と呼ばれ、特に根の生育を促します。

生育を促すために窒素が主成分の肥料を過剰に施すと、早く大きくはなりますが、軟弱に育ち、病害虫の被害を受けやすくなります。

また、リン酸、カリを施し過ぎると以下の生育不良を引き起こします。リン酸過剰は草丈が伸びず生育不良になるだけでなく、カリ欠乏症(縁枯れ症状など)を引き起こす原因になります。カリ過剰は葉先にチップバーン(葉やがく片の縁や先端が茶色く焼けたように枯れる生理障害)が起きるなどの症状が出ます。窒素だけではなく、三要素(窒素・リン酸・カリ)のバランスが取れた肥料を施すことで植物が健全に育ちます。

⑤水はけをよくする

花壇では、人が歩く通路よりレンガ1個分でも高くした場所に苗を植えてください。水はけがよいと土壌病害の被害を受けにくくなります。菜園も同様で、畝を作って育てた方が病害虫の被害を受けにくくなります。

⑥天地返しをする

菜園や花壇の深さ約20cm程度の表面の土とその下にある土を入れ替える作業を天地返しといいます。土壌病原菌の多くは数年間、土壌の地表面近くで生存するので、病原菌の密度が高い土と病原菌の密度が低い土を入れ替えることによって病気に感染しにくくなります。

⑦病気になった植物を放置しない

株元が腐って枯れる症状は、土壌病原菌によって起こる場合がほとんどです。枯れた株を放置せず、株元周辺の土と一緒に処分します。その他、地上部も葉がモザイク状になるなどのウイルス病に感染した株は適切に処理してください。

2. 天敵や微生物などを利用して病害虫を抑制する「生物的防除法」

病害虫の天敵となる昆虫や植物を利用して病害虫を退治あるいは抑制する方法です。

①天敵を活用する

害虫の天敵類は生物農薬として販売されているものもありますが、花壇や菜園でよく見かける天敵にはナナホシテントウ、カマキリ、ヒメハナカメムシなどがいます。害虫を100%退治できるわけではありませんが、できるだけ保護してくだい。

また、ナメクジを捕食する天敵にコウガイビルがいます。1~2mm程度の太さで、真っすぐ伸ばすと20~30cm程度の長さになり、夜中にクネクネと這い、ナメクジを捕食する天敵です。一見、ナメクジより不快な感じを与える肉食動物です。

②緑肥を活用する

花壇では難しいかもしれませんが2~3カ月間、何も育てる予定のない菜園では緑肥の活用がおすすめです。マリーゴールド、エンバク、ライムギなどを植え、大きくなったら刈り取って土に混ぜ込みます。

緑肥に使用する植物の種類によって異なりますが、センチュウ類の抑制、土を軟らかくし水はけなどをよくする、有益な菌や微生物を増やし病原菌の活動を抑制するなどの作用があります。

3. 熱や光など物理的な方法で病害虫を抑制する「物理的防除法」

文字通り、資材や道具などを利用して物理的に病害虫の被害を抑制します。

①マルチングをする

マルチングとは植物の株元の地表面をシートやわらなどで覆うことです。マルチングをして苗を植えると、降雨などの土の跳ね返りで土壌病原菌が植物に付着するのを防げます。また、黒や緑色のマルチは雑草の発生を抑制します。

マルチングと防草シート(写真提供:住友化学園芸株式会社)

②シルバーマルチやシルバーテープを利用する

アブラムシなどの昆虫はギラギラ光るものを嫌います。シルバーマルチを敷いて苗を植えるとアブラムシなどの飛来を防げます。同様にシルバーテープを植物の周辺に張り巡らすと飛来する害虫から植物を守ることができます。

③寒冷紗(かんれいしゃ)や防虫ネットを利用する

トンネル栽培では、寒冷紗などの中で作物を育てることで、害虫が作物に付着することを防げます。寒冷紗を洗濯ばさみなどで留める人もいますが、裾から害虫が侵入して思わぬ被害を受けることがあるので注意してください。必ず裾に土をかけて重しをして害虫の侵入を防ぎます。

害虫防除のコツとしては、種をまいた場合は「種まき直後」または「芽が出る前」に植えた場所に直接散布すること。苗または植物が育ってから処理する場合は「トンネル掛けをした直後に殺虫剤をトンネルの上からまんべんなく」散布すると効果的です。

④粘着紙を利用する

黄色の粘着紙はアブラムシやコナジラミが好み、飛来した害虫を付着させて被害を防ぎます。ブルーの粘着紙はアザミウマが好みます。

⑤防草シートを利用する

通路や畝間などに防草シートを張ると、雑草の発生を抑制できます。隙間なくシートを敷いて、留め具でしっかりシートを固定するのがコツです。隙間があるとそこから光が入り、雑草が生えてきてしまいます。

【コラム:マルチ(マルチング)の種類】

主に黒いマルチが使用されますが、冬季などでは地温を上げるために透明マルチを使用することもあります。シルバーマルチは光を反射するため、生育初期のアブラムシなどの害虫の寄生を防ぎます。

マルチには以下の利点があります。
・土の保温や保湿に優れ、降雨などにより土が硬くなるのを防ぐ
・病害虫を防ぐ
・降雨などの土の跳ね返りでの土の中に生存する病原菌から作物への感染を防ぐ
・透明のマルチ以外は光を通さないため雑草の発生を防げる

病害虫防除の基本は今回解説した栽培環境、栽培方法などに気を付けることです。しかし、害虫は翅(はね)があり、飛んでくる種類が多く、病原菌も風によって運ばれてきますので、気を付けていても病害虫が発生することがあります。

今まで解説した農薬なども上手に使用して、病害虫から植物を守り、花壇や菜園などの園芸を楽しんでください。1年間ありがとうございました。

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