文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。
【第3回】葉が変色して斑点ができる、枯れる
2021/02/16
草花が順調に育っていたのに、葉に斑点ができたり、変色したりする症状についてご紹介します。そのまま放置してしまうと、枯れてしまうこともあります。
【目次】
被害. 葉に褐色や黒褐色の斑点ができる、葉先から枯れてしまう
●犯人その1:糸状菌(かび)
糸状菌(かび)の特徴
糸状菌(かび)による病気の防除方法
●犯人その2:細菌
細菌病の特徴
細菌病の防除方法
●犯人その3:病原菌以外の要因(害虫・気象的要因・化学的要因)
害虫による被害と防除方法
気象的要因による被害と対策方法
化学的要因による被害と対策方法
[ちょっと雑学]予防殺菌剤と治療殺菌剤
被害. 葉に褐色や黒褐色の斑点ができる、葉先から枯れてしまう
●犯人その1:糸状菌(かび)
糸状菌(かび)は、葉に褐色や黒褐色の斑点ができたり、葉先から枯れたりする病気を引き起こします。葉に病斑ができて見栄えが悪くなるだけで済む場合もありますが、被害が拡大していくと葉が落ちて枯れてしまうこともあります。糸状菌が引き起こす病名は、できた斑点の形などによって付けられた斑点病、輪紋病、角斑病などのほか、現れた色にちなんで付けられた黒星病、褐斑病、赤斑病などがあります。被害にあう代表的な草花と病名は、バラ…黒星病、キク…褐斑病、ツバキ…炭そ病、アスター…斑点病、ユリ…葉枯れ病 など。よくある被害例は、以下のようなものです。
・数ミリ程度の丸い形や形の悪い病斑ができて、その数が次第に増えていく
・複数の病斑が合体して大きくなり、葉の色が変わる
・病斑の周りが黄色く変色する
・葉の縁や葉先から変色していく
黒星病(バラ)(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
炭そ病(クレマチス)(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
糸状菌(かび)による病気の特徴
比較的低温で湿度の高いときに繁殖する種類が多く、梅雨の時期など葉が湿っている状態が続くと感染しやすくなります。糸状菌は、感染した被害植物や植物が枯れた残りかすに付着するほか、周辺の雑草や土壌の中で越冬します。窒素肥料を施し過ぎて植物が軟弱に育ったり、密接して植え過ぎることで通気性が悪くなったりすると、病原菌が植物に侵入しやすくなり、病気に感染しやすくなります。
褐斑病(キク)(写真提供:住友化学園芸株式会社)
葉枯病(ユリ)(写真提供:住友化学園芸株式会社)
糸状菌(かび)の防除方法
殺菌剤を使用します。ただ、糸状菌による病気は、感染してもすぐに症状が現れず、病原菌によって植物の細胞が死滅してから病斑ができます。そのため、殺菌剤の使用は感染前に予防散布するのが基本です。次項(犯人その2)で細菌による病気を紹介しますが、発病初期の症状から糸状菌によるものか細菌によるものかを判断することは難しいものです。ただ、糸状菌が原因となる病気の方が圧倒的に多いため、最初は糸状菌に効果のある薬剤を使って様子を見ます。しかし残念ながら、農薬の多くは草花類の登録が少ないのが現状です。そのため、草花類全般に使える「花き類・観葉植物」の登録のある薬剤、「ダコニール1000」、「ベンレート(R)水和剤」などの薬剤を使用して防除します。
●犯人その2:細菌
細菌はヒマワリやポインセチア、ベゴニアなどの葉に斑点状の病斑ができる病気を引き起こします。
斑点細菌病(キュウリ)(写真提供:住友化学園芸株式会社)
細菌病の特徴
細菌は高温を好みます。そのため、春先に始まり夏から秋にかけて被害が現れる傾向があります。雨が降ったときに雨水が地面に跳ね返り、土の中で生息していた病原菌が茎や葉に付着して感染することが多いです。糸状菌の斑点性病害と区別する意味で、細菌によって引き起こされる病名は“斑点細菌病”のように病気の名前に“細菌”が入ります。
細菌病の防除方法
「犯人その1」で挙げた糸状菌の防除方法を参考にしてください。糸状菌と同じく、草花類の登録のある薬剤が非常に少ないのですが、予防薬として銅水和剤「ボルドー剤」が有効です。
●犯人その3:病原菌以外(害虫・気象的要因・化学的要因)
葉に斑点などが生じる原因は、病原菌以外にも害虫によるもの、気象的要因によるもの、化学的要因によるものがあります。
害虫による被害と防除方法
キク、アスター、ダリアなど、キク科植物の下の方にある葉から黒く葉が枯れてくるのは、ハガレセンチュウによる被害です。「スミチオン(R)乳剤」などの殺虫剤を散布します。
気象的要因による被害と対策方法
台風の後などに急に葉が褐変することがあります。その多くは塩害による被害です。また、室内で育てている植物を急に直射日光に当てたり、伸び過ぎた茎や枝を短く切り詰めたりすると、今まで日陰にあった下の葉に直射日光が当たるため、日焼けを起こして変色することがあります。鉢を置く場所や剪定のときはよく注意してください。
化学的要因による被害と対策方法
最も多いのが殺虫剤などの希釈ミスです。決められた濃度より濃く希釈すると、葉の組織が破壊され、その部分が変色します。また、除草剤を散布したジョウロなどで散水すると、残っていた除草剤の影響を受けて変色します。薬剤は決められた使用方法を守ることが大事です。
[ちょっと雑学]予防殺菌剤と治療殺菌剤
予防殺菌剤は名前の通り、事前に薬剤を散布することで病原菌の侵入を防ぐ作用のある薬剤で、「ダコニール1000」、「オーソサイド(R)水和剤」などがあります。糸状菌の予防に広範囲かつ長期間有効で、何回使用しても抵抗性はつきにくいのが特徴です。もう一つの治療殺菌剤は、というと、殺菌成分が葉の中に移行し、葉の中に入り込んでいる病原菌まで退治する薬剤のことです。名前から判断すると、変色した部分を元通りに回復させる薬剤のように思われます。しかし、変色した部分の細胞は死滅しているため、元のような緑色には戻りません。治療殺菌剤には「ベンレート(R)水和剤」、「トップジン(R)M水和剤」などがありますが、同じ薬剤を続けて使うと抵抗性がつきやすいので注意して使用してください。
次回は「花弁が変色する、花の色が変わる」についてです。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
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