文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。
【第5回】葉や枝などが白くなったり、黒くなったりする
2021/04/20
今回は、大切に育てている花木・草花の葉や枝などが白くなったり、逆に黒くなったりする被害をもたらす病害虫について解説します。
【目次】
被害1. 葉や枝が白くなったり、白いものが付着している
●犯人その1:うどんこ病
うどんこ病の特徴
うどんこ病の防除方法
[ちょっと雑学]うどんこ病原菌の種類は1つではない
●犯人その2:カイガラムシ
カイガラムシの生態
カイガラムシの防除方法
[ちょっと雑学]カイガラムシはどこから来るの?
●犯人その3:アオバハゴロモ
アオバハゴロモの生態
アオバハゴロモの防除方法
被害2. 葉や枝に黒いかびのようなものが発生する
●犯人:すす病
すす病の特徴
すす病の防除方法
被害1. 葉や枝が白くなったり、白いものが付着している
●犯人その1:うどんこ病
糸状菌(かび)によって起こる病気です。ヒマワリ、ベゴニア、コスモス、スイートピー、ダリア、ホウセンカなど多くの草花類やバラ、サルスベリなどの花木類にも発生します。白い斑点状のかびが発生して次第に拡大したり、うっすらと白いかびが生え、次第に葉全体に広がるなどの症状が現れます。白いうどん粉をまいたように見えるため、うどんこ病と呼ばれています。
うどんこ病の特徴
うどんこ病を起こす糸状菌は、他の糸状菌と異なり、感染するとすぐに葉が白くなる症状が現れるので分かりやすい病気です。症状は新葉や花梗、蕾に発生し枝や幹などには発生しません。また、過湿状態を嫌います。繁殖に湿度は必要ですが、梅雨期のように雨が続くと胞子ができにくくなります。
被害としては葉の表面が白いかびで覆われるため、美観が損なわれるだけでなく、新葉が奇形になる、花梗が曲がって蕾が開花しないなどの症状が現れます。また、光合成が妨げられ、葉の養分が吸収されるため、特に草花類では生育が悪くなり枯死することもあります。花木の枝などが白くなったことで、うどんこ病と勘違いする人もいますが、枝や幹の場合はカイガラムシが原因です。
うどんこ病に感染したダリア(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
うどんこ病に感染したバラ(写真提供:住友化学園芸株式会社)
うどんこ病の防除方法
早期に薬剤を散布して防除すれば、他の病気のように病斑はできずに元通りの状態に戻りますが、養分を吸われた場所は灰色っぽくなることがあります。他の病原菌に比べ抵抗性が付きやすいので、同じ薬剤を続けて使用するよりは2~3種類の薬剤を交互にまくようにします。手軽に使用できる薬では「ベニカXファイン(R)スプレー」など、「ダコニール1000」、「兼商モレスタン(R)水和剤」などは草花類全般に使用できます。
[ちょっと雑学]うどんこ病原菌の種類は1つではない
うどんこ病を引き起こす病原菌は1種類ではなく、なんと約200種類もあります。病原菌の種類によって寄生する植物は異なります。また、庭木・花木に発生するうどんこ病は同じ仲間の植物にしか寄生しない病原菌が多く、草花・野菜に発生するうどんこ病はある程度広範囲の植物に寄生する病原菌が多いです。バラの愛好家の中にはサルスベリ、ハナミズキやモミジなどのうどんこ病がバラにうつるからといって庭に植えない人もいますが、それらのうどんこ病はバラには感染しません。
●犯人その2:カイガラムシ
その名の通り貝殻のような殻をかぶり動かない虫ですが、中には殻をつくらず白い綿状物に覆われた種類もいます。バラ、ツバキ、サツキなどの花木への被害が目立ちますが、ラン類、サボテン、観葉植物にも寄生します。カメムシ目のアブラムシやコナジラミなども汁液を吸って加害しますが、カイガラムシは吸汁量が多いため枝枯れを起こしたり、すす病の発生源となったりして、植物の美観が著しく損なわれます。
カイガラムシの生態
ふ化したカイガラムシの幼虫には脚があるので動き回りますが、脱皮して親になると枝や幹、葉に固着する種類は脚が退化してその場所で一生を過ごします(中には退化せずに親になっても動き回るものもいます)。種類によっては、雄が見つかっておらず、雌だけで繁殖を繰り返しているものもいます。産卵した親は死ぬため、寿命は長い種類でも1年です。日本では、カイガラムシは約400種類程度知られており、一般的にはおわん形をした7~8㎜程度の大きなツノロウムシが有名です。他には、殻の大きさが2~4㎜程度の扁平な形で、枝や幹など同じような色をした、細長いマツの葉に寄生するマツカキカイガラムシや、白い貝殻を持ち集団で寄生すると枝や幹が白くなり、うどんこ病と間違われるウメシロカイガラムシもいます。また、ハイビスカス、ポインセチア、ドラセナなどの花木・観葉植物やラン、サボテンなどには白い綿状物に覆われ、葉に寄生すると白いものが付着したように見えるコナカイガラムシなどもいます。
カイガラムシの防除方法
カイガラムシは防除の難しい害虫の一つです。体表面がろう物質で覆われているため薬剤を散布しても、油の上に水をまいているように虫の体表面に付着しないのです。どのカイガラムシも、幼虫がふ化する5~7月ごろの幼虫防除と12~1月ごろの越冬している成虫を退治する冬季防除が基本です。幼虫期は体表が完全にろう物質で覆われていないので、薬剤が付着するため、幼虫防除期には「スミチオン(R)乳剤」や「オルチオン(R)乳剤」などの薬剤を月1~2回丁寧に散布して退治します。冬季防除はさまざまな商品名で販売されているマシン油乳剤を散布してカイガラムシを油で覆って窒息死させます。新芽が出始めてから使用すると新芽が枯れたりするので注意してください。目安としては落葉樹の葉が落ちてから翌春新芽が膨らむ前までに使用します。
[ちょっと雑学]カイガラムシはどこから来るの?
今までカイガラムシと縁がなかったのに、庭の花木に突然カイガラムシが寄生した……。他の害虫のようにはねがあって飛んでくるのなら理解できますが、カイガラムシの雌にははねがありません。ではどこから? 理由はいろいろで、“購入した植物に付着していた”、“風によって飛ばされてきた”、“鳥や服などに付着してきた”などいろいろいわれていますが定説はありません。おそらくどれも正解なのでしょう。
●犯人その3:アオバハゴロモ
アジサイ、ボケ、ツバキなど、ほとんどの花木類に寄生します。アオバハゴロモの幼虫は体内から分泌物を出して、体表や生育している枝に付着させる習性があります。分泌物が付着した部分は白くなってきます。枝に付着した白い綿状物は幼虫がいなくなっても長い間残っているため、美観が著しく損なわれます。
- アオバハゴロモの幼虫の写真はこちら。クリックすると表示されます(写真提供:住友化学園芸株式会社)
- ベニカナメに寄生したアオバハゴロモの幼虫の写真はこちら。クリックすると表示されます(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
アオバハゴロモの生態
5月ごろにふ化した幼虫は、5~7月ごろに風通しや日当たりの悪い枝などに移動して寄生します。寄生した枝などには白いモヤモヤした綿状物が付着します。非常に敏しょうな虫で、枝を揺すったりすると白い幼虫が飛び跳ねて逃げていきます。幼虫、成虫とも汁を吸って加害することは同じですが、8月ごろに成虫になった後は一列に並んで吸汁する傾向があります。9月ごろに枯れた枝などに産卵し、卵の状態で越冬します。
幼虫が寄生して白い粘着物が付いている場所の周辺を観察すると、1cm程度の三角形をした翡翠のようなきれいな色をした虫を見つけることがあるでしょう。アオバハゴロモの成虫です。学名に「Geisha」という言葉が使われており、「芸者」のように美しい虫ということで学名に使用されたようです。
アオバハゴロモの防除方法
薬剤には弱いのですが、敏しょうなため、虫の体にかかるように素早く丁寧に薬剤を散布します。「スミチオン(R)乳剤」などを散布すれば簡単に退治できます。
被害2. 葉や枝に黒いかびのようなものが発生する
●犯人:すす病
葉の表面にすす状のかびが点々と発生し、次第に広がって葉全体がすすをかぶったように黒くなり、すすの厚みも増してきます。カイガラムシが寄生している植物の葉や枝に発生します。さらにその植物の下に生育している植物にも発生することがあります。
すす病が発生したツバキ(写真提供:住友化学園芸株式会社)
すす病の特徴
すす病は単一の病原菌によって起きるのではなく、同じような症状になる複数の病原菌の被害の総称です。そのため、病原菌の種類によって微妙に色が異なります。実は直接に植物を加害せず、吸汁性害虫の排泄物の上に繁殖する病気です。しかし、これにより光合成が阻害されるため、植物の生育に悪影響を及ぼすとともに美観が著しく損なわれます。同じようなことはアブラムシ、コナジラミなどによっても起きますが、吸汁量と排泄量が多いカイガラムシが原因になる場合がほとんどです。原因となる吸汁性害虫の排泄物は甘く、付着した葉はテカテカ光ったり、ベトベトになったりします。すす病原菌の伝染には、胞子が風によって広がっていく空気伝染と、カイガラムシなどの吸汁性害虫と共存関係にあるアリやハエなどによって広がっていく虫媒伝染があります。
すす病の防除方法
軽くすすが付いたような程度であれば「ベンレート(R)水和剤」や「トップジン(R)M水和剤」が効果的といわれていますが、定かではありません。そのため、吸汁性害虫、特にカイガラムシを退治することが基本となります。前項のカイガラムシの防除方法を参考にしてください。また、不要になった歯ブラシなどで枝や幹をこすって寄生しているカイガラムシを取り除く方法も非常に有効です。固着しているカイガラムシは脚が退化しているので、はがしてしまえば死んでしまいます。
次回は「葉が膨らむ、葉にコブができるなど変形する」です。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
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