文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。
【第8回】発芽した苗や茎がなくなったり、食べられたりして折れる、変色して倒れる
2021/07/20
最近は多くの草花類の苗が販売されるようになりましたが、草花の種類全体から見ると少ないです。好きな草花を種子から育てるのも園芸の楽しみの一つです。しかし、せっかく発芽した苗や、成長中の茎が虫に食べられてしまったり、立ち枯れたりしてしまうことも……。そうした被害を引き起こす虫や病気、防除の方法を解説します。
【目次】
被害1. 発芽した苗が食べられてしまった
●犯人その1:ダンゴムシ
ダンゴムシの生態
ダンゴムシの防除方法
●犯人その2:ナメクジ
ナメクジの生態
ナメクジの防除方法
[ちょっと雑学]ナメクジとカタツムリ
被害2. 苗の茎が切られて倒れた
●犯人:ネキリムシ
ネキリムシの生態
ネキリムシの防除方法
被害3. 苗の茎の一部が変色して倒れた
●犯人:苗立枯病、立枯病
苗立枯病、立枯病の特徴
苗立枯病、立枯病の防除方法
[ちょっと雑学]苗立枯病以外で苗が枯れてしまう原因
被害1. 発芽した苗が食べられてしまった
●犯人その1:ダンゴムシ
発芽した芽や若葉などが食べられてしまった、なくなってしまった、という場合、被害植物の近くに、手で触れると球のように丸くなるダンゴムシはいませんか? いれば、ダンゴムシによる被害と推測されます。
ダンゴムシの生態
ダンゴムシに似た虫に、ワラジムシがいます。違いは、成長中の若葉を食べるのがダンゴムシで、落ち葉などの腐った有機物を食べるのがワラジムシです。ダンゴムシも同じように腐った有機物も食べますが、生きている若葉などを食べるため、ダンゴムシの方が害虫となります。見分け方としては、おわん型の体形をしており、手で触れると丸まって球状になるのがダンゴムシ。扁平な体形で、触れても丸まらずにそのまま逃げていくのがワラジムシです。同じ仲間と認識しあって一緒にいる場合が多いです。ダンゴムシもワラジムシも、昼間でも見かけますが、本来は夜行性です。成虫で越冬し、寿命は3~4年といわれています。
ダンゴムシの防除方法
ダンゴムシは、枯れ葉の下や鉢下などの湿っているところに群生していることが多いです。そのため、とった雑草を畑に放置せずに処分する、余計な鉢やブロックは置かないなど、生息場所をつくらないようにしましょう。畑ではない場所なら、不快害虫用の粉剤などを散布して退治します。一方、小さい苗が育っている場所では「サンケイデナポン5%ベイト」などの誘引殺虫剤を苗の周辺に散布して退治します。
●犯人その2:ナメクジ
ほとんどの草花の若葉や花が食べられて被害を受けますが、特にペチュニアはよく食べられます。また、年に1回しか咲かない洋ランの花や、つる植物の高い場所に咲いているクレマチスの花も食べられます。
ナメクジの生態
夕方から朝にかけて活動します。這って移動している活動中は細長く見え、隙間や枯れ葉の下、鉢下などで休んでいるときは太く短い体に見えます。成虫で越冬し、寿命は1~5年程度です。雌雄同体のため、2匹いれば2匹とも産卵します。梅雨期にふ化した小さなナメクジをよく見かけますね。這って移動する際は上下移動も苦にしないので、草丈の高い花でも被害を受けます。
ナメクジの防除方法
ナメクジに触れると、ねばねばとした粘液が手に付きますね。ナメクジが這った跡にはこの粘液が残り、白く光って見えます。そのため、他の害虫の被害と区別するのは簡単です。ナメクジが活動するのは主に夜ですが、懐中電灯をつけて探すのは大変なので、昼間に鉢下などを見て捕殺します。抜き取った雑草や落ち葉などは放置せず、生息場所をなくすことも効果的です。薬剤では「ナメナイト(R)」など、ペレット状の誘引殺虫剤を土の表面に散布します。他には、ビールを好むため、浅い容器にビールと誘引殺虫剤を入れた、毒入りビールを飲ませて退治する方法もあります。
ナメクジが這った跡が付いたセントポーリアの葉(写真提供:住友化学園芸株式会社)
[ちょっと雑学]ナメクジとカタツムリ
ナメクジは嫌われ者ですが、カタツムリを嫌う人は少ないようです。カタツムリの殻がなくなったのがナメクジです。ナメクジの中には、コウラナメクジのように殻の跡が残っている種類もいます。ナメクジは殻をなくしたため、ちょっとした隙間に入って休むことができるようになりました。ちなみに、カタツムリの殻を取ってもナメクジにはならず、そのまま死んでしまいます。
被害2. 苗の茎が切られて倒れた
●犯人:ネキリムシ
ほとんどの草花類の苗が被害を受けます。発芽した苗や植えた苗の地面に近い部分の茎が切り離されており、切り口が刃物で切ったようではなく、食いちぎられているのが特徴です。
ネキリムシの生態
ネキリムシは1種類の虫ではなく、茎を食いちぎって根と茎を切り離すチョウ目の幼虫の総称です。数種類いますがカブラヤガの幼虫の被害が多いです。カブラヤガは、東北や北海道などの寒地では年2回、関東以西では年3~4回発生し、老齢幼虫やさなぎの状態で越冬します。植物(雑草)の地面に近い方の葉裏に1個ずつ間隔を空けて産卵するので、周辺に雑草が生えていると産卵場所になりやすく、注意が必要です。夜行性の虫なので、昼間は被害植物の周辺の浅い土の中に隠れていて、夜になると活動して次々と被害を与えます。
ネキリムシの防除方法
被害植物の茎の周辺の土を浅く取り除いてください。灰褐色の丸まったイモムシを見つけたら、茎をかじるので捕殺します。周辺の雑草にも産卵し発生場所になるので、除草を心掛けてください。また、苗を植えるときには「ダイアジノン(R)粒剤3」などを、植える場所の土にまいて土と混ぜて退治します。定植後は、えさと勘違いして食べさせることでネキリムシを駆除する「ネキリベイト(R)」などの誘引殺虫剤を苗の周辺にまきます。
被害3. 苗の茎の一部が変色して倒れた
●犯人:苗立枯病、立枯病
ほとんどの草花に発生する病気です。発芽した幼苗期(双葉が出てから本葉2~3枚程度出るまでの期間)や順調に生育していた苗が急にしおれて枯れてしまいます。枯れた苗をよく観察すると地面に接した部分の茎がくびれて褐色に変色しています。
立枯病を発病したケイトウの苗(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
苗立枯病、立枯病の特徴
糸状菌(かび)によって引き起こされる病気です。単独の病原菌ではなく、リゾクトニア菌、ピシウム菌、フザリウム菌などによって起きる、同じような症状の総称です。立枯病を起こす病原菌は、被害植物とともに土の中で生存して土壌伝染します。未熟で葉や枝などの使用材料がそのまま残っている、動物のふんなどの異臭がする堆肥を使用したり、多湿で苗が軟弱になっていたりすると立枯病の被害を受けやすくなります。
立枯病によって褐変腐敗したアスターの茎(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
立枯病発病末期のアスター(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)
苗立枯病、立枯病の防除方法
種をまいて自分で育てるときは、種まき用の培養土や「ピートバン」など清潔な用土を使用します。また、「ジフィーセブン」はそのまま定植できるので、根を傷めることがありません。また、清潔な用土を使用していても、容器が汚染されていると育苗期に立枯病が発生してしまうことがあるので、清潔な容器を使うようにしましょう。一度、立枯病が発生して被害を受けた花壇などでは、土中の病原菌が生存している可能性があるので、定植後に苗だけでなく周辺の土にも「オーソサイド(R)水和剤」を散布して発病を防いでください。
[ちょっと雑学]苗立枯病以外で苗が枯れてしまう原因
病原菌が原因であること以外にも、幼苗期や定植した苗が枯れることがあります。保温して育てた苗を急に低温にさらしてしまったことや、水やりのし過ぎで土中が過湿状態になり、根が腐ってしまったことも枯れる原因となります。最も多いのが過剰施肥です。早く大きくしたいという気持ちから肥料を与え過ぎて、濃度障害となり枯れてしまいます。肥料は適正な量を与えてください。
次回は「虫が付いて葉が食べられている①」です。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
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