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連載

【第1回】ジャガイモ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第1回】ジャガイモ

2016/01/07

ジャガイモは、副食として利用される場合にのみ野菜として扱われますが、加工やデンプン原料にも利用され、穀物と野菜の両方の働きをもつ優れもの。多彩な料理に使え、加熱・保存に強いビタミンCやB1、カリウム・食物繊維が豊富で、家庭での常備野菜の代表選手にふさわしい野菜です。ぜひ「有機栽培」で作ってみてください。

甘みと風味のよさに定評がある、赤皮ジャガイモの「レッドムーン」 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:中南米の高地
科名:ナス科ナス属
連作障害:あり(3年あける)
生育適温:10〜20℃

冷涼な気候を好む生態と栽培

北海道が国内最大産地のわけ

ジャガイモの生育期間は、早生品種では90~100日と、イモ類の中では最も短く、作りやすい野菜です。原産地は中南米の高地で冷涼な気候を好み、栽培は乾燥したあまり暑くない所が適しています。生育適温は10~20℃で、関東以西の中間地や暖地では年に2回、春と秋に栽培できます(下図を参照)。しかし、春作の収穫期は梅雨と重なり疫病などの病気に悩まされ、秋作は8月の暑い時期に植えつけるため、タネイモが腐りやすく、収穫期は降霜の心配があるなど、不安定要素が多くあります。一方、北海道などの寒冷地での栽培は夏の1回だけですが、生育適温の期間が長く続くので良質なジャガイモの生産ができ、国内最大の産地となっています。
ジャガイモは気温が上昇し、日長が長くなる時期に地上部の生育が旺盛になります。イモの形成、肥大は昼温20℃、夜温10~14℃で促進されるといわれ、低温性といってもよい野菜です。

『農業技術体系・作物編』(農文協)P168第2図「ジャガイモ栽培期間と日長、平均気温との関係(理科年表から)」を改編
※図中の数字は月を表す

石灰質肥料は控えて栽培

栽培に適した土壌酸度はpH6.0~6.5で、pH7.1より高くなるとそうか病が発生しやすくなるので、石灰質肥料は使わない方が無難です。

ジャガイモの作型例

気温が上がっていく時期に栽培する春作は2~3月に植えつけ、6~7月に収穫します。南関東よりさらに暖かい暖地では、植えつけを11〜2月に早め、3〜5月に収穫することができます。
夏の高温期に分断されない夏作は、生育期間が長くとれ、収量も品質も高いのが特長です。植えつけは4~5月で、8~9月に収穫します。植えつけ時期が低温の場合は、植えつけ前にタネイモに昼間の日光を当て、芽を充実させてから植えつけます。これを催芽といいます。
秋作は気温が下がっていく時期の栽培で、8~9月に植えつけ、収穫は南関東では11~12月になります。さらに気候が温暖な九州などでは収穫を12~2月に延ばすことができます。

春作のポイント

梅雨入り前に収穫を

春作は秋作よりも茎葉がよく育つので栽培しやすく、イモも多く採れますが、梅雨期は病気が発生しやすく、イモも太りません。収穫が梅雨期にかかるとイモの保存性がわるくなるので、梅雨入り前に収穫するようにします。

タネイモの良しあしが栽培を決める

ジャガイモは「苗半作」といわれるくらい、タネイモの品質が大切です。収穫直後のジャガイモには、萌芽しにくい休眠期間があります。収穫後の日数が少ないと萌芽が遅く芽の数も少なくなり、逆に日数がたちすぎると芽が伸びすぎてタネイモには適さなくなります。収穫して3~6カ月経過したイモが、タネイモに最適です。関東の春作では、夏作で栽培した北海道産のタネイモが適しています。また、ジャガイモはウイルス病にかかりやすいので、検疫されたタネイモを使うと安心です。信頼のおける通信販売などを利用するとよいでしょう。

栽培手順

1.タネイモの準備

タネイモはできるだけ大きいものを選び、分割して使います。各々に芽が2、3個ずつつくように、ふく枝がついていたくぼみを基部、その反対側を頂部として、包丁で50g前後にタテに切り分けます。タネイモは植えつける直前に切るとよいでしょう。

2.植え床と植えつけ

元肥は植えつけと同時に施して初期の生育を促します。しかし、施しすぎは病害虫の発生や木ぼけの原因になるので注意が必要です。
畝間70cmの植え床の中央に深さ10~15cm、幅15~20cmの溝を掘り、元肥として堆肥(1L/平方メートル)とボカシ肥(150g/平方メートル)をまきます。

タネイモと肥料が触れないように、堆肥とボカシ肥の上に土を5~6cm埋め戻し、タネイモの切り口を下にして30cm間隔で植えつけます。イモの上に土を厚さ5~6cmかぶせて植え床の表面を平らに戻します。
注:水はけのわるい畑では高さ20cmほどの畝を立てて行うとよいでしょう。

3.芽かき

タネイモから芽が5、6本出て10cmほどに伸びたら、1株に2本の芽を残して、ほかはつけ根から引き抜きます。芽を引き抜く時は、残す芽の株元を押さえて浮き上がらないようにします。

4.追肥と土寄せ

芽かきをしたら株の両側にボカシ肥を1株当たり10gまき、1回目の土寄せを行います。2週間後に、1回目と同様に2回目の追肥と土寄せを行います。イモはタネイモよりも上につくので、2回目の土寄せで植え床をできるだけ高くし、イモができる場所を確保します。土寄せが不足するとイモが露出し、緑化してしまいます。

5.収穫

6月に入ったら、畝に手を入れて大きいイモを探り掘りします。その後、茎葉が黄色くなった頃、本格的な収穫を行いますが、スコップなどで周囲の土を掘ってやわらかくしてから、株元をもって引き抜きます。地中に残ったイモは手で掘り出します。収穫は晴天の日の午前中に行い、2~3時間乾かしてから保存します。

有機栽培のコツ

他のナス科野菜に注意!

ジャガイモは、堆肥が十分に入り、土作りができた畑で、かつ3年間はナス科野菜を栽培していない場所での栽培が理想的です。また、気温や湿度が上がる6月中旬になると、病気や害虫の被害が目立つようになって地上部が枯れはじめ、ほかのナス科野菜に影響を及ぼします。できるだけナス科野菜の近くでは栽培しないようにすることもポイントです。近くにナス科野菜の畑がある場合は、6月上旬までにジャガイモの収穫を終えるようにしましょう。

次回は「トマト」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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