文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第2回】トマト
2016/02/02
なんといってもトマトの旬は夏です。太陽の光をいっぱい浴びた有機栽培のトマトは、おいしいだけでなく健康の手助けをしてくれる「自然からの贈り物」です。夏にたっぷり食べると、冬には食べたくなくなります。試してみてください。
分類と生態
原産地:中南米の高地
植物分類:ナス科ナス属
連作障害:あり(自根苗の場合は4〜5年、接ぎ木苗の場合は1〜2年あける)
生育適温:20〜30℃
多様な作型と栽培
年間をくまなくカバーする多様な作型
一年中需要が大きいトマトでは多くの作型が開発されていて、現在では季節を問わず食べることができます。関東以西の平坦地で見れば、露地のトマトは7、8月が収穫期になり普通栽培と呼ばれ、トマトの作型の基本になっています。これよりも少し早く、6月から収穫する作型は早熟栽培、さらに早いものは半促成栽培、促成栽培となります。逆に遅く収穫する作型は雨よけ栽培、抑制栽培となり、一年を通しての供給が可能となっています。
当然、普通栽培、早熟栽培以外はハウスでの栽培となり、施設園芸技術の発達と共に開発が進んだ作型です。そして、究極的な作型として、同じ株で11月から翌年6月まで連続的に収穫する促成長期栽培も一部で行われています(トマトは条件さえ整えば成長し続け、連続的に花が咲いて実をつけます)。
さすがに、「トマトは市場で一番」※にふさわしく、その作型は年間をくまなくカバーしています。しかしトマトの旬は夏であり、有機栽培では露地で栽培して夏に収穫する(普通栽培)トマトが適します。
※全国のトマトの卸売市場価額は野菜全体で第1位です。
トマトの作型例
各作型についての補足事項は下記の通りです。
[露地栽培(普通栽培)]
霜の降りる心配がなくなった頃、保温育苗した苗を露地に定植する。夏を越すのは困難なので、収穫は8月中旬まで。
[トンネル早熟栽培]
保温・加温育苗した苗をトンネル内に定植する。トンネルは開閉による温度管理が必要。最近は、ハウス内に定植する雨よけ栽培に移行している。
[半促成栽培]
加温ハウス内に定植する。収穫期の加温は不要。果実肥大期が温暖期と重なるため作りやすい。
[促成栽培]
加温ハウス内に定植する。収穫期前半まで要加温。9月にタネまきすれば2月から収穫が可能。トマト施設栽培の代表的な作型。
[雨よけ栽培]
雨よけ用のハウスに定植する。育苗時はウイルス病対策として、防虫ネットが必要。夏が冷涼な高冷地で夏越し栽培が可能。
[抑制栽培]
高温期から低温期に向かう頃の栽培で育苗が難しい。タネまきは冷涼地では早めに、温暖地では遅くする。
[促成長期栽培]
栽培期間の大部分を加温栽培する。養液水耕栽培で行われることが多い。
露地栽培のポイント
トマトは元来、高温性で多雨を嫌う野菜です。原生地はほとんど一滴も雨が降らないほどの無降雨地帯ですが、空気中の湿度は比較的高めです。よって、単純に乾燥していればよいというわけではありません。
露地栽培のポイントは、苗は4~5月の霜の心配がなくなった時期に植えつけること、降雨の影響を少なくすることの2点です。露地栽培では後者は難しいのですが、高畝にしてマルチフィルムを使うとよいでしょう。さらにトマトの畝に直接雨が入らない、トマトに直接雨が当たらないように、畝の上方に雨よけを設置するとより完璧ですが、家庭菜園では大変です。対策が不完全であると土壌病害や成長不良を引き起こしやすくなるため、病害に強い接ぎ木苗を使うことをおすすめします。
栽培手順
1.苗の選び方
トマト栽培の難しさは、病害虫の多さだけではなく、花が咲き実がなる生殖成長と、葉や茎が育つ栄養成長のバランスが重要であるところにあります。蕾や花がついていない小さな苗を植えると、茎葉ばかりが茂って着果がわるくなることがあるので、苗選びと植えつけ時期の選択は大切です。
植えつけ適期の苗は、第一花房の第1花の開花が始まった頃の苗です。地際の茎の太さが7~8mm程度、節間が伸びすぎていないずんぐりとした苗を選びます。
2.植え床と苗の植えつけ
堆肥や元肥は、植えつけの2週間前までには施して畝を10cm程度盛り上げ、透明のマルチフィルムを張って植え床を作ります。堆肥の量は1平方メートル当たり1kg、肥料はぼかし肥料を同じく250gくらいです。この量は通常の栽培と比べると少なめですが、元肥は少なくして追肥で調整します。
2条植えの場合、条間を50cm、株間を50cmとり、合掌式に長さ210〜240cmの支柱を立てます。
第一花房を通路側に向けて苗を植えつけます。植える深さは、イラストのように根鉢の地表面が畝の地表面と同じになるようにします。なお、子葉が埋まる程度まで寝かせて植えると根量が増えて生育がよくなりますが、土壌病害のリスクは上がります。接ぎ木苗の場合は、接いだ部分が土に触れるような深植えは禁物です。
3.わき芽かきと誘引
通常、主枝だけを伸ばす1本仕立てにするので、葉のつけ根から出てくるわき芽はこまめに取ります。わき芽が10cmくらいになったら、片方の手で葉のつけ根を押さえ、わき芽の先の方を持ってつけ根から、ちぎるようにかき取ります。
主枝は上方に伸びてきたら、そのつど、あまり垂れないうちに麻ヒモなどで支柱に誘引します。
4.追肥
1回目の追肥は、第一花房の1番果が500円玉大になったら、1株当たり約30gのボカシ肥料をマルチフィルムの穴からマルチの下にまきます。
それ以降の追肥は、1回目の追肥から2~3週間おきに、畝の片側にごく浅い溝をつけ、1平方メートル当たり50gのボカシ肥料を施して土をかぶせます。
5.摘芯と摘果
摘芯は、5、6段目の花房の上に、葉を2枚残して成長点を摘みます。手で摘み取れる程度の大きさの時に行うのがよく、芽が大きくなってからの摘芯は果実への障がいの原因になります。なお、摘芯後は、わき芽は取らずに残しておきます。ミニトマトでは、8、9段目の上で同様に行います。
摘果は、大玉トマトの場合、ピンポン玉くらいの時に1花房4、5個を残して行います。ミニトマトでは、1花房30花を超える場合には、花のつけ根に近い方にバランスよく30花程度が残るように、先端部の花を手で摘み取ります。
6.敷きワラ
梅雨明けの頃に、地温の上昇を防いで根に高温障がいが起こらないように稲ワラを敷きます。稲ワラの厚さは、マルチフィルムが見えなくなる程度にします。
7.収穫
果実の肩の部分まで赤く色づいたら収穫します。果実を軽く握り、手で傾けるようにすると簡単にもぎ取れます。収穫が遅れると、表皮にひびが入ってくるので遅れないように注意します。
ひとつの果房のすべてを収穫したら、その果房から下の葉は取り除き、風通しをよくしておくと、病害虫の二次感染を防ぎやすくなります。
有機栽培のコツ
肥料は少なめからスタート
トマトは生育初期にチッ素肥料がたくさんあると、茎葉ばかりが茂って花つきがわるくなり、よい実ができません。元肥は少なくして、ようすを見ながら追肥を行います。肥料が足りないと感じても、水分不足や根の障がいが原因だったりすることもよくあります。
チッ素肥料過多のサイン
葉が濃い緑色で小葉が下に巻いてきたり、複葉の先が「気をつけ」をしたように下向きになってしまったら、チッ素肥料過多の兆候です。さらにひどくなると、平たく太くなった茎に縦のへこみや亀裂ができます。
一度与えた肥料は、取り除くことはできません。少なめに少なめに、ようすを見ながら与えるのがコツです。
次回は「キュウリ」を取り上げる予定です。お楽しみに。