文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第3回】キュウリ
2016/03/01
キュウリは、苗を植えてから収穫開始までの日数が少なく、さらに短期収穫に適しているので、春の栽培開始を急がなくても露地栽培ができます。イボの痛さで鮮度を感じられるのは家庭菜園だからこそ。
分類と生態
原産地:インド西北部のヒマラヤ南山麓
植物分類:ウリ科キュウリ属
連作障害:あり(3年あける)
生育適温:25〜28℃
多彩な作型と栽培
露地栽培と施設栽培で一年間供給可能
キュウリの生育適温は昼温が25~28℃、夜温が13~16℃なので、自然温度条件での栽培は夏期に限られます。関東以西の平坦地で見れば、露地栽培では6~9月が収穫期に当たり、それ以外の時期の収穫は施設栽培で行われます。露地での栽培よりも早いものは半促成栽培、促成栽培となります。逆に、遅く収穫する作型は抑制栽培となり、トマトと同様に一年を通しての供給が可能となっています。
キュウリは、トマト、ナス、ピーマンなどと違って、定植から短い期間で収穫開始になります。しかし茎葉や根がそれほど強くないために衰えも早く、樹勢が衰えると果実が曲がるなどの症状が出て品質がわるくなります。したがって、収穫期間はあまり長くせずに、短期収穫で切り上げて新しく次の作型に変える方が得策といえます。
キュウリの作型例
各作型についての補足事項は下記の通りです。
●露地での栽培
[露地栽培(普通栽培)]
保温育苗した苗を露地に定植する。温暖地では病害虫の発生や暑さのため、収穫期間は2カ月程度と短めになる。
[トンネル早熟栽培]
保温・加温育苗した苗をトンネル内に定植する。温暖地では収穫期間は2カ月程度。寒冷地では長期収穫が可能。雨よけハウスを使うことも多い。
[露地抑制栽培]
温暖地での作型。寒冷地では、普通栽培のタネまき期が遅くなり、この作型は普通栽培に吸収される形になる。
●施設栽培
[半促成栽培]
(1)ハウス内に定植する。収穫期の加温はいらない。
(2)ハウス内に定植する。収穫期に加温する。
[促成栽培]
加温ハウス内に定植する。定植後のすべての期間で加温の必要があるため、暖地で栽培される作型。
[ハウス抑制栽培]
露地で収穫が無理な時期以降に収穫する作型。温暖地では、11月中旬まで無加温で収穫できるが、それ以降は加温が必要になる。
露地栽培のポイント
キュウリの原産地はインド西北部のヒマラヤ南山麓とされています。乾きすぎるよりも水分が潤沢な方がよく育ちます。寒さには弱く霜で枯死するので、無理をせず、十分に暖かくなってから栽培を始めます。
関東以西の平坦地でいえば、定植は5月中〜下旬で、7~8月の旬の時期を中心に収穫できる作型を選びます。なり疲れを防ぐために早めの収穫を心がけ、収穫は朝夕2回、採れば採るほどよくなります。肥料が多いとうどんこ病が発生しやすくなるので、1回目の追肥は早めに行い、それ以降の追肥の1回の量は少なめにします。
栽培手順
1.苗の選び方
病気のことを考えれば、自根苗よりも接ぎ木苗が強くて育てやすいのですが、果実の皮がかたくておいしくないものもあります。品種特性を見極めて、苗を選びましょう。
苗を購入する場合は、本葉が3、4枚で葉の緑色が濃く、節間が短くて徒長していないがっちりとした苗を選びます。苗が植えられているポリ鉢は、直径10.5~12cmの大きさのものが理想的です。
2.植え床と苗の植えつけ
キュウリの連作はもちろん、ほかのウリ類との連作も避けます。支柱を使った立ち栽培の場合、植え床幅は70cm、通路を50cm(2条植えの場合は120cm)にします。堆肥や元肥は、植えつけの2週間前までには施して畝を10cm程度盛り上げ、透明のマルチフィルムを張って植え床を作ります。堆肥の量は1平方メートル当たり1kg、肥料はボカシ肥料を同じく250gくらいです。
株間を60cm、条間を50cm(2条植えの場合)とり、合掌式に長さ240㎝の支柱を立てます。
植えつけた苗がグラグラしないように仮支柱を斜めに立てて固定します。
〈コンパニオンプランツとの混植〉
キュウリのコンパニオンプランツ※には、ネギ類がおすすめです。ネギ類の根に生息する微生物が土壌病原菌の発生を抑え、つる割病などの連作障害を予防します。
コンパニオンプランツとして長ネギを植える場合は、キュウリの定植と同時に行います。長さ30cmほどの苗2本を用意し、キュウリの根鉢の両側に1本ずつ添わせるように植えつけます。
※コンパニオンプランツとは、混植することにより、お互いによい影響を与えあう植物のことです。
3.誘引とわき芽かき
キュウリの巻きひげを絡みやすくするため、支柱と支柱の間に麻ヒモを横に張ります。伸びた主枝(親づる)は、適宜、支柱や麻ヒモ、ネットなどに誘引します。
通常5~10節目までに当たる地上50cmほどの高さまでは、風通しをよくするために、わき芽も雌花もすべて取り除きます。
それよりも上の節から収穫を行いますが、子づるは雌花がついていることを確認し、本葉2枚を残して摘芯します。
4.追肥と水やり
1回目の追肥は、まだ根が張ってこないうちに施します。1株当たり30gのボカシ肥料を、マルチフィルムの穴から手を入れて畝の肩あたりにまきます。
2回目以降は、2~3週間に1回のペースで、1回目と同量を通路にまいて土と軽く混ぜ合わせます。乾燥していたら通路にたっぷりと水やりをします。
5.敷きワラ
梅雨明けの頃、根に高温障害が起こらないように、稲ワラを敷いて地温の上昇を防ぎます。稲ワラの厚さは、マルチフィルムが見えなくなる程度にします。
6.親づるの摘芯
親づるが支柱やネットの最上部まで伸びたら、つるの先端を手でつまんで摘芯します。
7.収穫
キュウリは成長と共につるが伸び、次々と実をつけます。実に養分を取られすぎると、つるの伸びがわるくなるので、1番果は小さいうちに収穫し、2番果以降も採り遅れないように、長さ20cm(品種により異なる)を目安に収穫します。
収穫はイボを落とさないように、果柄部分を持って必ずハサミで切ります。
最盛期には、朝と夕方の1日2回収穫しないと大きくなりすぎるので、できるだけ採り残しをしないように注意します。適正な大きさで収穫することが、おいしいキュウリをたくさん採ることにつながります。
有機栽培のコツ
病害虫防除は、病害虫がすみにくい環境作りがポイント
キュウリの栽培で手をやく病害虫は、ウリハムシとうどんこ病です。
ウリハムシは、羽が黄色や茶色で体長約6~7mmの小さなの甲虫です。キュウリ、カボチャ、スイカなどウリ科の野菜の葉を円弧状に食害し、葉に穴をあけます。多発すれば成長が著しくわるくなり、枯死することもあります。
うどんこ病は生きた植物に寄生し、相手を殺さずに生きていくタイプの病原菌で、相手と共に生き長らえる「共生菌」なので面倒です。
これらを増殖させる要因はチッ素過多です。特にうどんこ病は追肥により増えるので、追肥をしない、または少なくします。さらに、ストチュウ(米酢などの醸造酢と焼酎をそれぞれが300倍になるように希釈したもの)を5~7日に1回、定期的に散布します。これは、定期的に強い酸性環境を与えることで、害虫や病原菌をすみにくくさせる効果があります。このように、作物栽培には影響が出ない程度に病害虫がすみにくい環境にすることが、病害虫防除のポイントです。
次回は「オクラ」を取り上げる予定です。お楽しみに。