文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第6回】ニンジン
2016/06/07
ニンジンは、ビタミンAの源であるカロテンの豊富な緑黄色野菜で、家庭の常備野菜の代表格。数少ないセリ科の根菜で、輪作体系にぜひ加えたい野菜のひとつです。家庭菜園では夏にタネをまき、秋から冬にかけて栽培する「夏まき」がおすすめです。
分類と生態
原産地:中央アジアのアフガニスタン
科名:セリ科ニンジン属
連作障害:あり(2〜3年あける)
生育適温:18〜21℃
作型と栽培
抽苔の心配が少ない「夏まき」がおすすめ
ニンジンは中央アジアのアフガニスタンを原産地とする長日植物です。低温にあうと花芽ができる準備が始まり、一日の日の長さが長く(長日)なってくると、「花芽形成→抽苔(ちゅうだい=トウ立ち)→開花」といった生殖成長のプロセスが速まります。生殖成長が始まると、収穫物の質の低下が起こるので避けなければいけません。
ニンジンの生育適温は20℃内外です。特性としては、(1)本葉が3、4枚の時期に10℃以下の低温にあうと花芽ができてしまう、(2)直根を食用にするので移植栽培は適さない、(3)小型のわりに生育期間が120日程度と、ダイコンの60日程度と比べても長い、などがあげられます。そのため、寒くなるまでに十分な生育期間が確保できて、抽苔の心配が少ない「夏まき」が作りやすい作型といえます。
主流は生育期間が短い短根種
ニンジンの品種は、大きく長根種と短根種に分けられます。短根種は生育期間が短く作りやすいために、現在では短根種の五寸ニンジン、三寸ニンジンが主流です。「金時ニンジン」などの長根種は抽苔しやすいこともあって、関西で若干栽培される程度になっています。なお、近年はサラダ向きの品種や黄色、濃い赤色のニンジン、さらにプランター栽培でも作りやすいミニニンジンなども出てきています。
ニンジンの作型例(温暖地・暖地)
各作型の特徴と栽培のポイント
[夏まき栽培]
タネまきの時期は、温暖地・暖地では7月下旬〜8月中旬が適期です。真夏の暑い時期なので、発芽、幼苗期の暑さ対策、水分管理に工夫が必要ですが、生育期間が比較的長い五寸ニンジンや抽苔しやすい「金時ニンジン」はこの時期が適しています。「金時ニンジン」などの長根種は生育期間が特に長いので、タネまきを6~7月中旬に早めます。
[春まき栽培]
寒い時期のタネまきなので、マルチとトンネル被覆が必要です。主として6〜8月の高温期が収穫期になるため、寒冷地や寒地での栽培が有利です。品種は、生育期間が短い三寸ニンジンや早生種、中生種を選び、抽苔を避けるためにトンネル内で育てます。しかし、天気のよい日中には、トンネルの裾を開けて換気をする必要があります。平均気温が15℃になったらトンネルは取り除きます。
[秋・冬まき栽培]
夏まき栽培と春まき栽培の端境期である4~5月の収穫をねらう作型です。適温外での栽培なので、大型トンネルやハウスなどでの保温栽培が行われます。抽苔のリスクが高く、保温のための被覆期間も長くなるため家庭菜園向きではありません。
栽培手順
1.植え床の準備
ニンジンなどの根菜類は、深く何度も耕すほど生育がよくなります。
植え床幅は70cmとし、畝の高さは10cm以下と低くてよいのですが、「金時ニンジン」などの長根種の場合は20cmくらいの高畝にします。前作が野菜ならば肥料は入れません。
2.タネまき
ニンジン栽培の成否は、いかに発芽がそろうかにかかっています。「発芽すれば半分は成功」といわれるほど、発芽をそろえることが大切です。
畝に条間40cmで2条にタネまきをします。植え床の表面を平らにならし、幅2~3cm、深さ1cmのまき溝を作ります。まき溝は園芸用イボ竹(外径20mm)か角材(30mm角)などを押し当てると、鎮圧された真っすぐなまき溝を作ることができます。
まき溝に2~3mm間隔でタネをスジまきにします。なるべく薄く、タネが重ならないようにまきます。なお、コーティング種子を使う場合は1cm間隔にタネを置きます。
タネに5mmくらいの厚さで土をかぶせ、その上を足の先で踏むかクワの背で強く鎮圧し、タネと土をしっかり密着させます。その上に、乾燥防止のためにもみ殻かくん炭を薄くかけて覆います。不織布などのベタがけ資材で被覆する方法も、発芽をそろえるのに効果があります。
ハス口をつけたジョロでたっぷり水やりをします。コーティング種子を使った場合は、コーティングを溶かす分の水を追加する気持ちで多めに行います。
3.間引き、追肥、中耕、土寄せ
葉が触れ合うくらいの間隔になるように何回か間引きを行い、最終的に株間を三寸ニンジンは7cm、五寸ニンジンは12cm、「金時ニンジン」は15cmにします。
〈1回目〉
本葉3、4枚の頃に2~4cm間隔に間引きます。土が乾いている場合は、事前に水やりを行うと間引きがしやすくなります。
間引き後、株元にボカシ肥料を1平方メートル当たり50gまき、三角ホーなどで肥料と土がよく混ざるように中耕しながら株元に土を寄せます。
〈2回目〉
本葉5、6枚の頃に、最終株間(三寸ニンジンは7cm、五寸ニンジンは12cm、「金時ニンジン」は15cm)に合わせて間引きます。間引き後、1回目と同様に追肥を施し、条間を中耕してニンジンの肩が露出しないように根元に土を寄せます。
4.病害虫対策
セリ科の植物を好むキアゲハの幼虫はニンジンの大敵です。よく観察し、葉の一部がなくなっていたり茎だけになっているなど、食害のあとを見つけたら、必ず幼虫がいると思って探して捕殺します。
また、適宜、ニーム油粕を1平方メートル当たり2つまみくらい、株の上からパラパラとまくと忌避効果が期待できます。
5.収穫
五寸ニンジンの場合、根の長さが15cmくらい(地上部の根の太さが3~4cm)になったものから、株元をもって引き抜き収穫します。収穫後の穴は埋め戻しておきます。
特に、間引きながら収穫する場合は、引き抜いたあとの穴を埋め戻しておかないと、過湿や過乾燥によって両隣のニンジンが割れることがあります。
有機栽培のコツ
発芽から間引きまでの管理が大切
〈コツ1〉発芽をそろえる
ニンジンは、発芽まで土を乾かさないようにして確実に発芽させることが大切です。その秘訣はタネまき前後の鎮圧です。
まずはまき溝を作る時、園芸用イボ竹や角材を使って鎮圧をします。そしてタネまきののち覆土をしたら、かかと跡をつけないように足の先で踏んで鎮圧をします。強く鎮圧することによってタネと土壌粒子が密着し、水分吸収がしやすくなるとともに土からの蒸散を抑えるなど、少ない土壌水分を有効に利用できます。この2回の鎮圧が発芽をそろえてくれます。
〈コツ2〉こまめな除草
夏季は暑さのため、生育初期の成長が緩やかです。雑草の勢いに負けないように、こまめに除草を行いましょう。
〈コツ3〉特に1回目の間引きは急がない
適期の間引きを心がけますが、あまり早いうちから間引きを始めるのは逆効果です。常に隣の苗と葉が触れ合っている状態になるように、成長にあわせて間引きます。
次回は「キャベツ」を取り上げる予定です。お楽しみに。