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【第7回】キャベツ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第7回】キャベツ

2016/07/05

アオムシ、コナガ、アブラムシ、そしてネキリムシと、とにかく虫がつきやすいキャベツですが、虫食いだらけを覚悟しつつも、最善を尽くし自分で作りたい野菜のひとつ。歯ごたえ、甘み、味が違います。温暖地では夏にタネまきをして、秋から冬に栽培する「夏まき栽培」(苗を購入する)がおすすめです。

しっかりと結球した収穫適期のキャベツ「金系201号」 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:地中海周辺
科名:アブラナ科アブラナ属
連作障害:あり(2〜3年あける)
生育適温:15〜20℃

作型と栽培

苗を植える時期と苗の大きさ、品種の選択が重要

キャベツは、地中海周辺地域を原産地とする長日植物です。長日植物の多くは、低温にあうと花芽が分化し、それ以降の長日下で花の器官の成長が促進されます(※1)。また、キャベツはある程度大きくなってから低温に感応して花芽分化するグリーンバーナリ型植物(※2)でもあるので、苗を植える時期(季節と温度)、苗の大きさが重要になります。さらに、花芽の分化と発達に必要な低温や長日の要求性が品種により大きく異なるので、品種の選択も作型の重要な要素です。

※1 果実を収穫しない葉・根菜類では、花芽が分化、発達することによって葉や根の成長が止まるので、栽培上は花芽分化を避けます。
※2 同じアブラナ科のハクサイやダイコンも花芽分化には低温が必要ですが、発芽当初から低温に感応するので「シードバーナリ型植物」と呼ばれます。

キャベツは寒さに強く、暑さには弱い

生育適温は15~20℃ですが、耐寒性が強いので栽培適温は5~25℃です。しかし、結球後は耐寒性、耐暑性は弱くなり、特に耐暑性が弱まります。栽培期間は、栽培時期(温度)や品種によって違いはありますが、適温下でも3~4カ月とハクサイなどよりも長くかかり、作型によっては6カ月以上もかかります。
作型には秋まき栽培、春まき栽培、夏まき栽培などがあります。

キャベツの作型例(温暖地・暖地)

各作型の特徴と栽培のポイント

[秋まき栽培]
冬は成長が緩慢なので、秋まき栽培は栽培期間が長くなるが、日本の気候とキャベツのグリーンバーナリ型植物としての特徴を利用した作型で、花芽が成長して抽苔(ちゅうだい=トウ立ち)する前の春に収穫する。病害虫の発生が少なく作りやすい作型だが、秋に大きく育ってしまうと低温に感応してしまうので、タネまきの時期と品種の選択を適切に行うことが必要。

タネまき時期をやや遅らせた「晩秋まき栽培」では、栽培期間が長くなり、トンネルでの育苗が必要となる。

[春まき栽培]
結球期が高温になるため、温暖地では栽培が難しい。夏が涼しい長野県や群馬県などの寒冷地域で作りやすい作型で、タネまき時期を遅くすればするほど寒冷地・高冷地向きとなる。また、キャベツが一番成長する時期と、病害虫が最も多く発生する時期と重なるので、家庭菜園にはすすめられない作型。

[夏まき栽培]
夏が涼しい寒冷地では作りやすい作型だが、温暖地では、暑さと寒さに挟まれた限定された期間に栽培することになるとともに、苗を高温下で育てなければならないため難しさがある。しかし家庭菜園では、苗は購入することにして早生品種を選べば、栽培の後半が涼しくなる作型なので作りやすい。

タネまき時期をやや早めた「初夏まき栽培」では、病害虫の被害を受けやすくリスクが大きくなる。

やや遅まきの「晩夏まき栽培」では、結球期が厳寒期になるので、温暖地では有利な作型。晩抽性(ばんちゅうせい=トウ立ちが遅い性質)の品種を選ぶとよい。

栽培手順

1.植え床の準備

チッ素肥料を多く入れると害虫の発生が多くなり、悲惨な姿になります。夏まきの場合は、前作に夏野菜を栽培している場所ではその残存肥料で十分なので、元肥は施さなくて大丈夫です。

〈2条植え〉

植え床幅70cm(畝幅120cm)、株間40cmで、高さ15〜20cmの高畝を立てておきます。

〈1条植え〉

植え床幅30~40cmで株間を40cmとり、60~70cm間隔で小畝を作ります。畝の高さは15~20cmの高畝にします。

2.タネまき(夏まき栽培)

キャベツは移植に強いので、苗床で育苗するのが一般的ですが、株数が少ない場合はセルトレーかポリ鉢で育苗します。

1カ所に2、3粒のタネをまき、厚さ5mmを目安に覆土。タネが流れないように丁寧に水やりをし、乾燥防止のために表面を濡れた新聞紙で覆います。新聞紙は、発芽したらすぐに取りはずします。

3.間引き

本葉が2枚の頃までに間引きをして1本にします。セルトレーでは本葉3、4枚、ポリ鉢では本葉5、6枚になるまで育苗します。

間引く時は、残す苗を傷めないように、ハサミを使って地際から切るとよいでしょう。
水やりはこまめに行い、日中の強い日ざしは不織布などの日よけで防ぎますが、日当たりのよい場所でしっかりとした苗に育てます。
9月上旬になると苗が手に入りやすくなるので、初心者にはセル苗やポット苗を買うことをおすすめします。

4.植えつけ

移植ゴテで掘った植え穴に、根鉢に十分に水分を含ませた苗を入れて土を寄せ、株元を押さえて根を土になじませます。
この時、苗の芯(成長点)に土がかぶるような深植えにならないように注意します。

植えつけ後の水やりは、葉に水がかからないように根鉢の周囲に円を描くように行います。追肥として、ニーム油粕ひとつまみ(約3g)を苗の周囲にまき、最後に不織布でトンネルを作り、防風、防虫対策を行います。

5.追肥と土寄せ

〈1回目〉

植えつけから2週間後、不織布のトンネルをいったんはずし、1条につき1m当たりボカシ肥料30gを畝の片側にまいて土寄せを行います。
その後、トンネルは元に戻しておきます。

〈2回目〉

1回目の追肥から2週間後、1回目と反対側に同量の肥料を施し、株元までしっかりと土寄せを行います。
追肥や土寄せと同時に葉の裏面をよく観察し、アオムシやコナガなどの幼虫やその卵を発見したらその場で取り除きます。

6.病害虫対策

こまめな観察により、卵や若齢幼虫の時に発見して取り除くことが基本です。
発生初期には、週に1回程度、水で300倍に希釈した食酢やニーム由来の植物抽出液を、葉の裏面にまんべんなく散布することも効果が期待できます。

7.収穫

内側の葉が巻き、結球がある程度大きくなってきたら収穫の時期です。結球部分を手で押してみて、かたく感じられたら収穫します。

外葉を数枚つけて結球を傾けるようにし、結球のつけ根に包丁を挿し込んで切り採ります。地際から切ろうとするとかたくて切りにくいので、包丁は地際から数cm上の外葉と外葉の間に入れるようにします。
収穫後の切り株に外葉が数枚ついていますが、その外葉は茎から切り離して畑の外に回収します。その後の成長を止め、病害虫の除去にも役立ちます。

有機栽培のコツ

収穫後の根は土作りに有益

キャベツは細い根が広範囲に比較的深く張るため、収穫後はすぐに抜かず、次の作付けのための準備時期まで、そのまま放置しておくとよいでしょう。
残った根が、冬の間に地中で微生物によって分解され、土壌中に空洞ができます。その空洞が空気や水の通り道となり、新たな微生物のすみかにもなります。そのことによって土壌中の微生物の多様性が促進され、土作りに大いに役立ちます。

次回は「ダイコン」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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