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連載

【第9回】タマネギ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第9回】タマネギ

2016/09/06

タマネギは明治時代に導入された新しい野菜ですが、国内生産量はジャガイモ、キャベツ、ダイコンに次ぐ第4位の重要野菜(※)です。タネまきから始めることもできますが、植えつけ時期になると園芸店には多くの苗が出まわります。大きすぎず小さすぎない適切な大きさの苗を購入し、中玉でよくしまったタマネギ作りを目指します。

※農林水産省 野菜生産出荷統計 平成26年度産より

貯蔵性もよい中晩生種は、家庭菜園におすすめの健康野菜 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:中央アジア
科名:ユリ科ネギ属(科名はAPG植物分類体系ではなく、従来の分類体系による)
連作障害:少ない(1年あける)
生育適温:15〜20℃

作型と栽培

大苗ほど低温に敏感で、短い期間で花芽ができる

タマネギは中央アジアを起源とする長日植物です。体がある程度大きくなってから低温に感応して花芽が分化するグリーンバーナリ型で、日が長くなると花芽の分化やその後の花の器官の成長が促進されます。タマネギの栽培では果実を必要としないため、花芽の分化や花を咲かせるための花茎の発達は好ましくありません。
低温(9〜12℃)への感応は品種によって異なりますが、同じ品種でも大苗ほど敏感となり、短い低温期間で花芽ができてしまいます。花茎頂が分化すると、養分が蓄積している球の中心部を花茎が貫通して球を壊してしまうので、品質、収量に大きなダメージを与えます。早い時期に低温に感応させないために、栽培地の気候に合わせて品種、植える時期を選ぶことと、植える際には苗の大きさが重要になります。

暖地では秋まき栽培、北海道では春まき栽培が基本

球の肥大には長日と共に温度が必要で、極早生品種ではより低い温度(10~13℃)で肥大が始まり、晩生種では20℃前後とより高い温度が必要になります。したがって収穫は春から初夏にかけて行われます。また、生育適温は15~20℃で、高温を嫌います。
タマネギは収穫後の保存が利く野菜ですから、周年栽培の必要性は低く、無理をせずに最適な時期に作ることが大切です。プロの農家でも暖かい地域では秋まき栽培、北海道では春まき栽培が基本作型になっています。

タマネギの作型例

各作型の特徴と栽培のポイント

[秋まき栽培]
タマネギは、タネまきから収穫までに6カ月以上が必要。本州や四国、九州で初夏までに収穫するには、春まきでは時間不足となる。そこで越冬できる条件下で、秋にタネをまきグリーンバーナリ型野菜の性質を利用して、栄養成長のまま越冬させる秋まき栽培が行われる。
品種は、春先早い時期に収穫を行うには極早生品種、初夏ならば中晩生品種、その中間は中生品種を選ぶが、収穫が早い作型は貯蔵性が劣る。

[春まき栽培(北海道)]
北海道では越冬が難しい半面、夏越しが可能なので、春まき栽培が行われる。
品種は、春先の肥大開始時に苗が十分な大きさになり、長日になってから太り始める品種を選ぶ。

栽培手順(温暖地・暖地)

1.植え床の準備

植えつけの2週間くらい前に、1平方メートル当たり堆肥3L、ボカシ肥料60gを全面に散布し、土とよく混ぜておきます。

〈3条植え〉

畝の高さ15cmほどのベッドにしますが、植え床幅50cmならば3条植え、70cmならば4条植えにします。条間、株間とも15~20cmの並木植えにすると、株間は正方形か長方形になります。
マルチフィルムを張る場合は、株間15cmの穴あきマルチを使います。

2.苗選び

苗の大きさは、株元の太さが5mm程度を標準にし、それよりも太い場合でも鉛筆の太さ(約7mm)を超えないものを選びます。太すぎると抽苔(ちゅうだい=トウ立ち)しやすく、逆に細すぎると寒さに耐えられず生育がわるくなり、小さな球にしかなりません。

3.植えつけ

土に穴をあけ、根が見えなくなる程度に挿し込みます。葉の分岐部(成長点)が埋まらないように、株元の白い部分が1/3ほど地上に見える程度の浅植えにします。深植えにすると春の生育がわるくなります。
植えつけ後の水やりはしませんが、地際を手で強めに押さえるか足で踏みつけます。

4.害虫対策

植えつけ後、ネキリムシ(カブラヤガの幼虫)やヨトウムシに倒される株が出てきます。その場合、被害株の根元を掘ると虫が出てくるので必ず捕殺します。
欠株とならないように、補植用の予備苗を畑の隅にまとめて植えておくとよいでしょう。

5.冬越し、霜害対策

霜によって根が浮き上がるのを防ぐために、株間にもみ殻くんたんをまいて地温の上昇を助けます。
また、霜柱が立つようなら、12月と1月に各1回程度、株間を足で踏み固めて根が浮き上がらないようにします。

6.追肥

12月〜翌年2月にかけて、月に1回ずつ有機液肥をたっぷりと与えます。
最後の追肥は、2月下旬までにボカシ肥料を1平方メートル当たり50g施します。

7.収穫

4月に収穫期を迎える極早生品種は、球が肥大し始めた頃に葉タマネギとして利用できます。
本格的な収穫は、全体の葉の7~8割が倒れて葉がまだ青いうちに行います。作業は晴れた日に行いますが、引き抜いて畝に並べ、夕方まで畑で乾燥させてから収納します。
貯蔵目的での栽培の場合は、茎葉が半分くらい倒れた頃を目安に収穫します。貯蔵は風通しのよい軒先などにつるしておきます。

有機栽培のコツ

腐りにくいタマネギ作りは、多肥を避けること

タマネギの球は、葉の基部が肥大したものです。この肥大は長日条件で誘発されますが、肥大が始まるとその後の葉の伸長は上部へはいかず、球の中にとどまる貯蔵葉(鱗片)になります。

一般にタマネギの首と呼ばれる基部は、古い葉で囲まれて中が中空となり、葉の上部を支えきれなくなって倒れます。雨の多い時期に収穫するタマネギは、この部分が病原菌に侵されたり、侵入口になったりします。この首がしまったタマネギを作ることが、貯蔵中も腐りにくいタマネギ作りのポイントになります。
そのためには、肥料を多く与えすぎないことです。特に球が肥大期に入ったあとも、地上部の成長がいつまでも続くような、肥料が遅くまで効いている状態は避けなければなりません。追肥を2月中に終わらせるのはそのためです。

次回は「ソラマメ」を取り上げる予定です。お楽しみに

JADMA

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