文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第10回】ソラマメ
2016/10/04
莢が天を向いてつくことから、その名がついたとされるソラマメはマメ科の植物。未熟な子実(種子)を未加工のまま副食として利用するので野菜に、さらに食用部分が果実なのでトマトなどと同じ果菜類に分類されます。
採りたての新鮮なソラマメを塩ゆでするのが最高の贅沢。5~6月だけ、しかも家庭菜園でしか味わえません。連作を嫌うので計画的に畑を利用し、少量でも毎年作りたい野菜です。
分類と生態
原産地:中央アジア〜地中海沿岸
科名:マメ科ソラマメ属
連作障害:あり(3〜4年あける)
生育適温:15〜20℃
作型と栽培
寒さには強く暑さに弱いので、秋まき栽培が一般的
ソラマメの原産地は明らかではありませんが、中央アジアから地中海沿岸とする説が有力です。日が長くなると花芽の分化や、その後の花の器官の成長が促進される長日植物で、発芽中から低温に感応して花芽分化が起こるシードバーナリ型植物です。一般的に長日植物は、長日条件になる前の低温期に茎葉を茂らせる必要があるので、寒さには強く暑さに弱い性質で、ソラマメも同様です。
生育適温は15~20℃で、幼苗期はマイナス5℃にも耐えられるほどの耐寒性がありますが、着果した莢は低温に弱く、0℃では発育障害を受けます。したがって、温暖地では、秋にタネをまいて越冬させ、春に収穫する秋まき栽培が適します。春早く収穫するには、温暖地でもトンネル栽培が行われます。高温には弱いので、温暖地では7月以降の収穫は困難です。
元気な苗は充実したタネから育つ
ソラマメは発芽時に子葉を地下に残して出芽する地下子葉植物です。よって初期の栄養を、エダマメのように地上に出た子葉の光合成に頼るわけにはいかず、種子がもつ栄養が幼芽や幼根など幼植物の発育に使われます。そのために、充実したタネをまくことが大切です。
ソラマメの作型例
各作型の特徴と栽培のポイント
[秋まき栽培]
温暖地では、秋に畑に直接タネをまく直まき栽培で大丈夫ですが、畑の利用の都合で適期にタネまきができない時は、苗床やセルトレーなどにタネをまいて苗作りを行い、植えつけることもできます。
[春まき栽培]
越冬が不可能な寒冷地では、春早く保温施設の中でタネをまき、幼苗期に低温にあわせる春まき栽培が行われます。この場合も盛夏前に収穫する必要があるため、タネまきは2~3月初めに保温施設で行い、マルチ栽培をして生育を早める必要があります。家庭菜園では、春まき栽培はおすすめしません。
栽培手順(温暖地・暖地)
1.植え床の準備
マメ科の野菜を3~4年作付けしていない場所を選びます。土壌の酸度が心配な場合はタネまきの1カ月前に有機石灰を1平方メートル当たり15g施し、同様に2週間前に1平方メートル当たり堆肥1Lとボカシ肥料100gを全面に散布し、土とよく混ぜておきます。
〈1条植え〉
植え床幅50cm、通路幅40cmで畝の高さ10cmほどのベッドにし、株間30cmの1条植えとします。
2.タネまき
〈直まきの場合〉
深さ3cmの穴をあけ、1カ所に2粒のタネを1cm程度の間隔をとって横並びにし、株間30cmでまきます。タネはお歯黒と呼ばれる横の黒い筋の部分を斜めに下にして土に押し込み、厚さ2cmくらい土をかぶせ、手でごく軽く押さえます。
〈育苗する場合〉
直径9cmのポリ鉢に1粒まきとし、お歯黒を斜め下に向けて土に押し込みます。タネの頭部がほぼ隠れるくらいまで押し込んだら、水やりをして薄く土をかけます。
3.タネまき後の管理
〈直まきの場合〉
タネまき後、出芽までは不織布の「べたがけ」をします。植え床全体を不織布で覆い、裾を留め具で数カ所固定します。
タネまき後5~7日で出芽します。出芽したら不織布ははずしますが、間引きは必要ありません。
〈育苗する場合〉
タネまき後、ポリ鉢の上に新聞紙をかけて乾燥や鳥害を防ぎます。出芽したら、新聞紙ははずします。
畑への植えつけは、本葉2枚の頃に行います。植えつけが遅れて苗が大きくなると、植え傷みも大きくなるので注意します。
4.防寒
12月に入ったら寒さ除けに敷きワラをするか、笹竹を挿します。笹竹は畝が東西の場合は畝の北側に、南北の場合は西側に30cm間隔で挿します。寒さの厳しい地域では、不織布のトンネルで覆います。
5.追肥と土寄せ
春が近くなったら(2月下旬~3月上旬)に防寒資材をはずし、ボカシ肥料を1平方メートル当たり50g施し、株が倒れないように土寄せをします。
6.整枝・土寄せ・支柱立て
草丈が伸び、開花が始まる頃には分枝も増えて茂ってきます。大きな莢をつけさせるために、太い枝を6本くらい残し、残りの枝はつけ根から切りとります。
この整枝作業のあと、枝が倒れないように株元へたっぷりと土寄せをします。
さらに倒伏を防ぐために、株の横に支柱(長さ120cmくらい)を立て、株を囲むように麻ヒモを回して支柱に誘引します。
このあとも適宜、土寄せをして倒伏を防ぎます。
7.摘葉
草丈がさらに伸びて50〜60cmになったら先端部を切りとり、草丈が30~40cmになるように詰めます。これは倒伏を防ぐと同時に、先端部のやわらかい芽や茎葉に発生したアブラムシを除去することにもなります。
8.収穫
莢が大きく膨らみ、産毛がなくなって光沢を帯びてきたら収穫が近くなったサイン。さらに空を向いていた莢が水平に下がってきたら収穫します。収穫適期は莢の背筋が黒くなってきます。収穫して豆のお歯黒も黒くなりだしていたら正しい収穫適期で、開花から35~40日後が目安です。
有機栽培のコツ
アブラムシ被害は早めの対処が肝心
アブラムシはソラマメの大敵のひとつです。ソラマメにつくアブラムシは、4~5月頃、株が急速に伸長して開花、結実期になると、急激に発生が増加してきます。特に、若い茎、莢、花、新葉に真っ黒に群がって汁液を吸収してしまうので、先端部が萎縮して生育が止まり、莢の生育も不良になります。分枝の先端部にも花がつきますが、この部分の花は収穫には至らないので、アブラムシの好む枝の先端部をあらかじめ切りとると被害を抑えることができます。
また、アブラムシはキラキラ反射する光を避ける性質があるので、畝にシルバーのマルチフィルムを張ったり、畝に沿ってアルミ蒸着フィルムのテープを2~3段設置しておくと効果があります。
次回は「エンドウ」を取り上げる予定です。お楽しみに。