文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第13回】ミニトマト
2017/01/10
こぼれダネから育った株でも結構収穫でき、大玉トマトより作り方がやさしいのがミニトマト。皮が厚く、実が割れやすいなどの欠点はありますが、品種によって果形は丸形、洋ナシ形、レモン形など多様。果色も赤や黄とカラフルで、食卓を楽しくしてくれる、まさに家庭菜園向きの野菜です。
春の植え付け時期になると園芸店などに苗が出回りますが、苗の植え付けから始めるだけでなく、好みの品種を選んでタネまきから始めるのもおすすめです。
分類と生態
原産地:中南米の高地
科名:ナス科ナス属
連作障害:あり(自根苗の場合は4〜5年、接木苗の場合は1〜2年空ける)
生育適温:20〜30℃
作型と栽培
家庭菜園では春からの露地栽培が一般的
ミニトマトは大玉トマトと同様に、一年を通して販売されている野菜で、周年生産されています。温度条件さえ整えば季節を問わず作付けが可能で、農家ではハウスを利用した栽培が一般的です。
ミニトマト専門の農家では、ほぼ年間を通して栽培が行われており、7~8月のタネまきで10月末〜翌年の6月まで収穫されます。これは、年1作の促成長期栽培と呼ばれます。
作りにくい夏季を外した時期に栽培する作型では、3~6月に収穫する半促成栽培と9~12月に収穫する抑制栽培があり、両方を組み合わせて栽培することも多くあります。
平坦地で生産がしにくい夏季の出荷を狙った栽培が、高冷地の気候を利用した夏秋栽培です。この場合は、簡易ハウスを利用した雨よけ栽培が一般的です。
基本作型は春から夏にかけて行われる露地栽培で、家庭菜園ではこの作型が適しています。この時期に園芸店などで販売されている苗は露地栽培用の品種であることが一般的ですが、タネを購入する場合はハウス専用の品種もあるので注意が必要です。
ミニトマト栽培はいろいろな方法でスタートが可能
ミニトマトは大玉トマトと異なり、いろいろな方法で栽培を始めることができます。
畑に直接タネをまくこと(直まき栽培)も、わき芽かきをしたわき芽を植えて育てること(挿し木)もできます。この場合は4月下旬〜5月中旬にかけてタネをまき、本葉2枚まではホットキャップなどをかぶせて保温をします。また、挿し木の時期は5月中旬以降です。
収穫時期や品質をそろえたい場合は、購入した苗から始める移植栽培が安定して効率的です。
畑の利用状況によって栽培方法を選ぶとよいでしょう。
ミニトマトの作型例
各作型についての補足事項は下記の通りです。
[露地栽培]
家庭菜園向きの作型。苗の定植は遅霜の心配がなくなったころが適期。
[夏秋栽培(雨よけ)]
夏が冷涼な高冷地の気候を利用した作型。雨よけ用のハウスに定植する。
[半促成栽培]
関東地方などの温暖地および北関東、東北南部での作型。
[抑制栽培]
関東地方などの温暖地での作型。
[促成長期栽培]
愛知、千葉、熊本、宮崎などの暖地が主産地。
栽培手順(温暖地・暖地)
1.タネまきと苗作り
3月に入り暖かくなったらタネをまきます。発芽がそろった段階で3本に間引き、本葉が2枚の時期に1本にします。1番花が咲くまで育苗するので、草丈は高くなり下の葉は黄色くなりますが、それで大丈夫です。
直径約10.5cmのポリ鉢に4〜5粒のタネをまきます。厚さ5mmを目安に覆土し、手のひらで鎮圧します。
ポリ鉢はビニールトンネルの中に並べて、保温をしながら育苗します。
2.植え床の準備
堆肥や元肥は、植え付けの2週間前までには施し、畝を10cm程度盛り上げて透明のマルチフィルムを張って植え床を作ります。堆肥の量は1平方メートル当たり1kg、肥料はぼかし肥料を同じく250g程度とします。
植え付けは、列間50cm、株間50cmで、2条の千鳥植えにします。
3.植え付け
植える深さは、接木苗の場合は接ぎ木部分が土に触れないように注意します。接木苗でない自根苗の場合は、子葉が埋まる程度まで寝かせて植えると根量が増え、生育がよくなります。植え付け後はたっぷりと水やりをします。
4.支柱立てと誘引
植え付け後、長さ210〜240cmの支柱を合掌式に立て、第1花房を通路側に向けて誘引します。
主枝(茎)の支柱への固定は、麻ひもなどを8の字に回して緩めに結わえます。茎は成長とともに太くなるので、十分な余裕がないと麻ひもなどが茎に食い込んでしまいます。
5.わき芽かき
わき芽かきは手で行える太さのうちにかき取るようにします。はさみが必要なほど太くなってしまうと、傷口も大きくなり病気の原因にもなります。さらに取り忘れて二股にしてしまうと、その後の成長が悪くなる、着果が悪くなるなど、悪い影響を与えます。
ミニトマトは通常、主枝だけを伸ばす1本仕立てにするので、葉の付け根から出てくるわき芽はこまめに取ります。わき芽が10cmくらいになったら、片方の手で葉の付け根を押さえ、わき芽の先の方を持って付け根からちぎるようにかき取ります。
主枝は上方に伸ばしますが、伸びてきたら、その都度、あまり垂れないうちに麻ひもなどで支柱に誘引します。
6.摘芯
主枝が支柱の先端付近まで伸びたら、それ以上伸びないように摘芯をしますが、必ず花房の上に葉を2枚残します。
一般的に摘芯は、8〜9段目の花房の上で行いますが、支柱の高さや自身の背丈などの状況で、適当な位置で摘芯して構いません。なお、摘芯後は、わき芽は取らずに残しておき、混み合ってきたら適宜、わき芽の先端を摘芯します。
7.追肥
1回目の追肥は、第5花房の1番果の開花ごろに、1株当たり約30gのボカシ肥料をマルチフィルムを少し持ち上げて施します。
それ以降の追肥は、1回目の追肥から2~3週間おきに行います。畝の片側にごく浅い溝を作り、1平方メートル当たり50gのボカシ肥料を施して土をかぶせます。
8.摘花
1花房30花を超える場合には、摘花します。この場合、花房の付け根に近い方にバランスよく30花程度が残るように、先端部の花を手で摘み取ります。
9.敷きわら
梅雨が明けたら、根に高温障害が起こらないように、地温の上昇を防ぐための稲わらを敷きます。稲わらの厚さはマルチフィルムが見えなくなる程度にします。
10.収穫
果実全体が色づいたら、順に収穫します。果実を軽くつまんで傾けるようにすると簡単にもぎ取れます。収穫が遅れると、実が割れるので遅れないようにします。
1つの果房の全てを収穫したら、その果房から下の葉は取り除き、風通しをよくしておくと、病害虫の二次感染を防ぎやすくなります。
有機栽培のコツ
根の働きを活性化させる「マルチの穴開け」
野菜を健やかに生育させるには、水分や養分を大地から吸い上げる根の働きが活発であることが必要です。その根が生きる場所が土壌です。
根は地表に近いところに、より多く張ります。トマトなどの草丈が高くなる野菜を数カ月にわたり育てていると、根詰まりを起こして根の活力が弱まってきます。水はけが悪い場所や大雨の後など、水分があるのに日中にしおれるのはそのためで、疫病などの病害の発生にもつながります。
そのようなときに、株の近くに直径5~6cm、深さ15cmほどの小さな穴を1株当たり1〜2個開けると、土壌中の水分の蒸発が促され、土壌中の水分調整ができます。また、穴を開けることで古い根を切ることになり、新しい根の発根も促します。さらに、梅雨明けの高温期では、マルチフィルム下での有機物の分解によって発生するガスを抜く効果もあります。暑さ対策に敷きわらをしたら「マルチの穴開け」を覚えておいてください。
次回は「ナス」を取り上げる予定です。お楽しみに。