文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第16回】ミニカボチャ
2017/04/04
カボチャはつる性の一年草で、500kgもある大果品種(イベント用)もありますが、一般的な果実の大きさは1~2kgです。通常、つるをはわせて栽培するため、面積の広い畑が必要です。しかし、ミニカボチャの果実は小さく軽いので、支柱を立てて空中栽培ができ、狭い場所での栽培にはうってつけです。栽培のポイントは、2株以上植えることと、うどんこ病を出さないことです。さらにウリハムシ対策も必要など、難易度は少し高めですが、小さくても味がよく、調理もしやすいミニカボチャ。ぜひ挑戦してみてはいかがでしょう。
分類と生態
原産地:アメリカ大陸
科名:ウリ科カボチャ属
連作障害:少ない(1〜2年空ける)
生育適温:20〜30℃
作型と栽培
品種によって特性が異なるミニカボチャ
カボチャは植物種としては西洋カボチャ、日本カボチャ、ペポカボチャの3種類に分かれますが、いずれも起源はアメリカ大陸です。近年は、食味がよく、栄養価が高い西洋カボチャが圧倒的に多く栽培されています。
西洋カボチャは中央アメリカ(アンデス高原)原産で、冷涼乾燥を好み、日本カボチャはアメリカ大陸中・南部(メキシコ中・南部)原産で、西洋カボチャと比較すれば高温多雨に強いので作りやすいのが特徴です。ペポカボチャはメキシコの高地が起源とされており、中間的な特性を持ちます。
ミニカボチャの呼称は、前述の3種とは異なり、種に対応するものではなく形態に対応した名称です。よく栽培される「栗坊」の平均果重は500~600g、西洋カボチャの仲間で果肉の色が黄橙色です。平均果重200~300gの「プッチィーニ」はペポカボチャと西洋カボチャの種間雑種です。
品種によって栽培上の特性が異なる場合があるので、タネ袋や苗に添付の説明文をよく読んでから栽培するようにします。
ミニカボチャの作型例
各作型の特徴と栽培のポイント
[露地栽培]
関東などの温暖地では、4月中旬以降に苗を植え付ける露地栽培が一般的で、家庭菜園向きの作型。この場合、3月初旬にタネまきをして苗作りをするが、タネまきから植え付けまでの間は25~30℃に保温する必要があるので、栽培本数が少ない場合は苗を購入した方がよい。
畑に直接タネをまくこともできるが、タネまきは3月下旬になってからで、ホットキャップによる保温を行う。収穫開始時期はいずれも7月になる。
露地栽培であっても北海道などの寒冷地では、5月下旬に畑に直まきして9月に収穫する作型。8月に収穫するには保温育苗後、5月下旬に定植する。
[トンネル栽培]
北関東など、地域の気候によってトンネルが必要になる。
[抑制栽培]
東北など夏が涼しい寒冷地では、タネまき時期を6月に遅らせて7月に植え付け、10月に収穫をする抑制栽培が可能。地域の気候に合わせてタネまき時期が遅くならないように注意する。
栽培手順(温暖地の場合)
1.植え床の準備
植え床幅を1.2mとして両側に幅50cm以上の通路を確保します。畝の全面に堆肥を1平方メートル当たり1.5Lまいてすき込みます。畝は高くしないで平畝にしますが、植え床の両側に深さ10cm程度の排水溝を掘ります。
株間は50~60cmにします。植え付け(直まき)の位置は、植え床の中央ではなく、東西畝の場合は南側(南北畝の場合は東側)に、中央から40cmほど離します。
〈元肥を施す場所〉
元肥を施す場所は株と株の中間地点で、株の直下に肥料を入れてはいけません。直径30~40cm、深さ30cmの穴を掘り、穴の底に堆肥を1L入れて、掘り上げた土に50gのボカシ肥料を混ぜて埋め戻します。
カボチャを育てる土は締まっている方がよいので、堆肥と元肥は、植え付けや直まきの1〜2カ月前までには施し、畝を立てておきます。
2.タネまき
カボチャは1株だけでは果実の止まりが悪くなるので、最低でも2株は栽培するようにします。
〈育苗する場合〉
苗作りから始める場合は、直径9~12cmのポリ鉢にタネを2粒まき、土を1cmぐらいかけます。軽く鎮圧をして水やりをします。
ポリ鉢は保温のためにトンネルかハウスの中に入れて育てます。本葉が1枚のときに1本に間引き、本葉が3〜4枚になったら定植適期です。
〈直まきの場合〉
畑に直まきする場合は、ビンや空き缶の底を使って鎮圧しながら深さ1cmのまき穴を作ります。1カ所に4粒ずつタネをまき、土を1~2cmぐらいかけてしっかりと鎮圧します。鎮圧は足のかかとで踏みつけても大丈夫です。
タネをまいたら、ホットキャップをかぶせておきます。本葉が2〜3枚になったら間引いて1本立ちにします。
3.敷きわら
植え付けや直まき栽培の間引きの時点で、畝全体にわらを敷きます。
4.親づるの1本仕立て(西洋カボチャの場合)
植え付け(直まき)をした反対側の通路に、1株に対して1本の支柱を立てます。支柱は直径20mm、長さ210~240cmの丈夫なものを垂直に立てます。
やがて植え床を伸びてきた親づるを支柱に誘引しますが、一番花が着果するまでは植え床の上をはわせ、植え床の上で第1果をならせるようにします。
親づるから伸びた子づるは全て取り除き、親づるの1本仕立てにします。孫づるも全て取り除きます。
5.人工授粉と着果
10~12節目に第1果を着果させますが、栽培の初期だけは人工授粉をします。人工授粉は午前7~8時ごろに行います。なお、人工授粉をすると確実に着果するので、果実があまり多くならないように摘果をして、ならす数を調節します。第1果の後に3~4果を連続的に着果させる程度がよいでしょう。
人工授粉は、受粉させようとする雌花とは別の株のおしべを利用します。雄花から取ったおしべを雌花の柱頭にこすり付け、たっぷりと花粉を付けます。1つの雄花で2つの雌花を受粉させるくらいがちょうどよく、花弁は取り除いて行う方が容易で確実に行えます。
1番果を収穫したら、2番果を植え床上で実らせるように、順次つるを下ろして手繰り寄せます。支柱へのつるの誘引は麻ひもではなく、「サポートクリップ」などを使うと取り外しがスムーズに行えます。
1株当たり2~3果を植え床上で収穫したら、その後は放任で成り行きに任せます。
6.追肥
着果した果実が握りこぶし大になったころ、葉色が黄緑色になったり、つるの先端の伸びに勢いがなくなったら追肥をします。葉の色が濃い緑色をしていれば追肥はしません。
追肥をする場合は、1株当たりボカシ肥料30gを株間にパラパラとまきます。
7.収穫(西洋カボチャの場合)
開花から40~45日ほどで収穫期になります。果皮の表面に小さなしわが寄り、果梗(かこう=茎と果実を結ぶ柄)部のひび割れがコルク化したものから収穫します。
収穫後は丸ごと、風通しのよい涼しいところで1週間ほど保存するとおいしくなり、日持ちもよくなります。追熟させることででんぷんが糖に変わり、甘みが増していくので、収穫後すぐに食べては、せっかくのカボチャのおいしさが味わえません。
有機栽培のコツ
病害虫対策の基本はチッ素肥料を少なく、石灰肥料をまかないこと
カボチャ作りのコツは、うどんこ病とウリハムシの発生を抑えることです。共通する基本的なことは、チッ素肥料は少なめにして、石灰肥料をまかないことです。
また、うどんこ病は梅雨明け後に発生が目立ってくるので、発生初期にうどんこ病の葉を見つけたら早めに取り除くことも重要です。
ウリハムシの成虫は、体長が7~9mmで、頭部と前胸部は光沢のあるだいだい色をした甲虫です。葉の周縁部に、不規則な半円形あるいは円形の特徴的な食害痕を残します。対策のポイントは、春から初夏の活動が盛んな時期に成虫の飛来侵入を防止することです。畝の周囲にエンバクを作付けしたり、つるが伸びる植え床や通路にエンバクを栽培してリビングマルチ※にするなどが効果的です。
なお、シルバー色のマルチフィルムなど光を反射する資材によるマルチも、成虫の飛来侵入を防止します。しかし、その効果はマルチに対し植物体の面積比が50%を超えるまでの期間(植え付けから30~40日)であり、効率的とはいえません。
※リビングマルチは生きた植物をマルチとして利用する技術で、マルチ用品種のオオムギなども利用される。
次回は「エダマメ」を取り上げる予定です。お楽しみに。