文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第17回】エダマメ
2017/05/02
エダマメの植物名はダイズです。エダマメは未熟ダイズを野菜として利用するもので、枝付きのままゆでたことからこの名が付けられたといわれています。現在は、特に「夏にビールとセット」のイメージがありますが、「だだちゃ豆」や「丹波黒」など有名な地方品種も多く、古くはおいしい秋の野菜として食べられていたと思われます。
エダマメは収穫後の品質低下が著しい野菜で、家庭菜園では市販品とは一味違う採れたてのおいしさが味わえます。夏のビールのお供だけではなく、秋に味が乗ったエダマメも楽しんでください。
分類と生態
原産地:中国北東部
科名:マメ科ダイズ属
連作障害:あり(3〜4年空ける)
生育適温:25〜30℃(日中)
作型と栽培
日長に感応する花芽の発達は品種によって異なる
ダイズの原産地は、中国北東部で温帯です。通常は温帯、高緯度地帯を起源とする植物は大部分が長日植物ですが、中国北東部地帯の気候は夏に雨が多いため、開花期が晩夏から秋になっています。従って、ダイズは日長が短くなると花芽が発達する短日作物です。
しかし、日長に感応する程度は品種によって異なります。長日下でも花芽の発達が遅くならない夏ダイズ(早生種)、長日下では大幅に遅れる秋ダイズ(晩生種)、その中間型があり、地域の緯度と気象に適した品種が利用されています。
生育適温は、昼間は25〜30℃と高温ですが、夜間はそれよりも10℃ぐらい低い方が好ましく、気温格差が少ないと収量、品質とも低下します。
生育期間は早生種が80日ぐらい、晩生種は120日ぐらいと幅があります。現在のエダマメの需要は夏に集中しているので、品種は短日を必要としない早生種の夏ダイズが多く使われています。一般的に早生種は晩生種よりも実が小さく、大粒で味が自慢の地方品種の多くが晩生種や中晩生種であるのはうなずけますが、その分、気象など適した栽培条件が必要になります。
莢の毛の色や、種皮の色も品種選びのポイントに
エダマメの品種を選ぶときは、早晩性だけでなく莢の毛の色や種皮の色もポイントになります。種皮の色は一般種の緑豆の他に茶豆、黒豆があり、莢の毛には白いものと茶色のものがあります。見栄えの点から店頭に並ぶのは白い毛の莢がほとんどですが、おいしさの点からは、茶色のものもおすすめです。
エダマメの作型例
各作型の特徴と栽培のポイント
[露地普通栽培]
エダマメの最大の需要期が7~9月であることから、早生種を使った露地普通栽培が多く行われる。露地普通栽培では、春の気温の上昇を待ってタネをまくが、温暖地では4~5月にタネをまいて7~8月に収穫、寒冷地では5~6月にタネをまいて8~9月に収穫する。
[露地抑制栽培]
露地普通栽培に対して10~11月に収穫する作型で、品種は中晩生種や晩生種を使って栽培。
栽培手順(温暖地の場合)
1.植え床の準備
マメ科植物には根粒菌が着生し、直接、植物が利用できない大気中のチッ素を同化して植物に供給してくれるので、毎年、堆肥が十分に入っていて土作りができている畑では、肥料は入れなくても大丈夫です。逆に、与えるチッ素肥料が多過ぎると、葉や茎ばかり茂って果実の止まりが悪くなります。
タネまきの2週間前に堆肥を1平方メートル当たり1.5L入れて耕します。石灰肥料は入れません。1週間前になったらボカシ肥料を1平方メートル当たり30g入れて、高さ10cm程度の畝を立てます。
1畝に1条植えの場合は、植え床幅は40cm、株間は15cmに、2条植えの場合は植え床幅70cm、株間20cm、条間30〜45cmにします。
2.タネまき
直まきでも、苗を作って植え付けてもどちらでもできます。収穫適期が1週間程度と短いので、タネまき時期を7〜10日ずつずらすと収穫期も少しずつずれるため、新鮮な味をより長く楽しめます。
〈直まきの場合〉
ビンや空き缶の底を使って深さ2cm程度のまき穴を作ります。1穴に3粒ずつ間隔を空けてタネをまき、タネが隠れる程度、指で押し込みます。上から厚さ3cmほど土をかぶせてしっかりと鎮圧します。
鳥害防止のために、不織布を植え床から少し浮かせて掛ける「うきがけ」にします。
〈育苗する場合〉
育苗する場合は、トンネルなどを設置して25℃以上の温度を確保し、直径9cmのポリ鉢に3粒ずつタネをまきます。
3.間引き、植え付け
〈直まきの場合〉
発芽後、初生葉(しょせいよう)※の次に出る本葉が開いたら「うきがけ」を外して、1穴2本立ちに間引きます。
※初生葉:インゲンやエダマメで子葉(双葉)が展開して最初に出てくる葉のこと。
〈育苗する場合〉
子葉が開いたら2本立ちに間引き、初生葉が開いたら植え付け適期です。
苗をポリ鉢から外して、準備した畑の植え床に植え付けます。
4.中耕、土寄せ
草丈が20~30cmほどに伸びたら条間を軽く耕し、倒伏を防ぐために株元に土寄せをします。
その後、乾燥防止のために植え床を刈り草や稲わら、黒のマルチフィルムなどで覆います。これらは開花の前までに行いますが、この時期に土が乾燥しているようならば、たっぷりと水やりをします。エダマメは開花前に干ばつにあうと、花が落ち、実が入らなくなるので注意が必要です。
5.収穫
タネまきから収穫までの栽培期間は品種によって異なりますが、収穫適期の幅は5~7日です。株による個体差もあるので、株の中央部の莢が膨らんできた株から順に、株ごと引き抜きます。莢が淡い緑色で実が硬くならないうちに早めに収穫しましょう。
膨らんだ莢だけをハサミで切り取って収穫することもできますが、できれば枝付きで収穫して本来のエダマメの味を楽しむとよいと思います。
有機栽培のコツ
鳥によるタネの食害、莢ができるころはカメムシ対策を!
栽培する上での障害は、病気よりも害虫によるものが多いのがエダマメです。初生葉が出るまでは鳥に食べられないよう、その後はアブラムシ類やカメムシ類、そして莢を直接、食害するマメシンクイガなどのシンクイムシ類への対策が必要です。
鳥はある程度大きくなった株には見向きもしないので、移植栽培は鳥害回避には最適です。直まき栽培では、不織布の「うきがけ」による被覆、苗用の白いポリ鉢を逆さにして被覆するなどが必需です。
「うきがけ」は、トンネル用支柱を120cm間隔でアーチ状に斜めに差して低めのトンネルの骨組みを作り、上から不織布をかぶせますが、トンネルにたるみを持たせることで鳥に狙われにくくします。
アブラムシは元肥にチッ素肥料を施すと発生しやすくなるので、チッ素肥料を使わないことで被害を少なくできます。また、本葉3~4枚のころまでにニーム油かすを株の上から1つまみ、茎葉に掛かるようにパラパラとまくのも害虫の忌避に効果が期待できます。また、シンクイムシ類は莢の中に食入してからの防除は難しいため、マメの肥大が始まるころにニーム油かすを株の上から同様にまきます。
害虫の発生は年によってまちまちですが、被害が一定の時期に集中することがよくあります。タネまきの時期を1週間ずつずらすことは、全体的な害虫による被害を減らす効果ももたらします。
次回は「ブロッコリー」を取り上げる予定です。お楽しみに。