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連載

【第19回】ハクサイ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第19回】ハクサイ

2017/07/04

ハクサイはアオムシ、コナガの幼虫などの害虫がよく付きます。被害がひどかったり、タネまきや植え付けの時期が遅くなって本来の葉枚数が確保できなかったりすると結球しないこともあり、意外と栽培が難しい野菜です。しかし、汁物や鍋物、漬物にと用途も広く、秋冬の食卓には欠かせない野菜であり、家庭菜園でも外せない野菜の一つです。
難易度は高いのですが、葉枚数をしっかりと確保して、大きくてよく締まったハクサイ作りを目指しましょう。そのためには品種を選び、タネまきや植え付けを地域の適期にタイミングよく行い、害虫に対する備えも早い時期から行うように心掛けます。

春まき、秋まきどちらの作型にも対応した早生品種「ゆめぶき502」 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:中国
科名:アブラナ科アブラナ属
連作障害:あり(2〜3年空ける) 
生育適温:15〜20℃

作型と栽培

葉は短日下の冷涼な気候で成長し、暑さには弱い

ハクサイの仲間には、結球しない山東菜(さんとうさい)、半結球の花芯白菜(かしんはくさい)などがありますが、一般的にハクサイといえば結球ハクサイを指します。ハクサイの原産地は中国といわれており、カブやツケナなどのアブラナ科野菜の共通の祖先が中国に広がって、中国でハクサイが生まれたようです。日本的な野菜の一つとして捉えられていますが、日本への渡来は比較的新しく、明治時代になってからです。

ハクサイは多くの葉菜類や根菜類と同様に長日植物で、低温にあうと花芽が分化し花成(かせい=花芽が形成されること)が始まり、それ以降の長日下で花の成長が促進されます。
開花のための養分の貯蔵器官である葉は、短日下の比較的冷涼な気候で成長するので耐寒性は強いのですが暑さには弱く、特に結球開始後は耐暑性が低下します。生育適温は、結球までが20℃前後、結球期は15~16℃とかなりの低温です。

ハクサイはタネをまく時期の温度が重要

葉菜であるハクサイの栽培ではキャベツなどと同様に、栽培期間中に花芽ができることは避けなければなりません。※1
さらにハクサイは発芽当初から低温に感応して花芽ができてしまうシードバーナリ型植物なので、結球に必要な葉枚数を確保してから寒くなるような状況でタネをまく必要があります。耐暑性が弱いこととも合わせるとタネまきの時期の幅は狭くなります。※2
一般的に、花成を起こさせる最も有効な温度は5~10℃とされています。

※1 果実を収穫しない葉菜類や根菜類では、花芽が分化、発達することによって、葉や根の成長が止まるので栽培上は花芽の分化を避けます。
※2 同じアブラナ科でもキャベツなどのグリーンバーナリ型植物は、ある程度大きくなって初めて低温に感応し始めるので、生育前半の低温に対してある程度の猶予があります。

品種によって収穫までの日数が大きく異なるのも特徴

タネまきや植え付けの適期の幅が狭いハクサイですが、タネまき時期がそれほど違わないのに収穫時期が大きく違ってくるのも特徴です。これは、品種の早晩性によるもので、タネまきから60日足らずで収穫できる品種から90日以上もかかる品種まであります。ハクサイの品種名を見ると「ちよぶき70」のように、○○60、○○80、○○90といった数字が使われているのをよく見ますが、この数字はタネまき時期から収穫時期までの日数の目安を示したもので、このことから見てもハクサイの品種の早晩性が重要なことがよく分かります。
家庭菜園の初心者がハクサイに挑戦するなら、小型ですが短期間で収穫ができる早生種を選ぶことをおすすめします。最近ではプランターでも育てられる極早生種のミニハクサイも販売されています。

ハクサイの作型例(温暖地から暖地の場合)

各作型の特徴と栽培のポイント

[秋まき栽培]
暑さの盛期を過ぎた晩夏から初秋にタネをまき、涼しくなってから結球に入る秋まき栽培が最も作りやすく、ハクサイの基本的作型になっている。この場合、生育後半に低温に遭遇するが、花成が進む前に収穫できる。
秋まき栽培でタネまきが遅くなると栽培中に花成が起き、寒さで結球できないこともあるが、それまでに十分な葉枚数を確保できていれば結球に至る。また秋まき栽培では病害虫の発生のリスクを考えれば、タネまきや植え付け時期を遅くしたいが、低温による花成との兼ね合いを図り決めることになる。これは栽培地の気候条件により異なるので、その地で慣行的に行われている農家のタネまきや植え付けの時期を参考にするとよい。

関東地方などの中間地で見れば、育苗栽培の場合、おおむね8月15日から1週間前後、直まき栽培はその4~5日後が適当。品種の早晩性との関係からは、早まきするなら晩生種、遅まきなら早生種を選ぶが、病害虫の発生の最盛期を避ける意味で、早生種をその地の適期にまくのがおすすめ。

[春まき栽培]
気温上昇期に結球させ収穫するために、15〜20℃の生育適温から見るとかなり難しい作型。結球期の暑さを避けるためにタネまきを早くすると、幼若期に花成が終了し、さらに長日期に入っているので抽苔(ちゅうだい=トウ立ち)が始まってしまい作型としては成立しない。
そこで春まき栽培では、生育前半の期間に保温や加温をして花成を防ぐ必要がある。タネまきを遅くすると花成の心配はなくなるが、収穫期が夏になるので温暖地や暖地での栽培は無理で、寒冷地や高冷地での作型になる。さらにタネまき時期を遅らせた作型は、寒地から寒冷地の夏まき栽培として成立している。

栽培手順(温暖地の場合)

1.植え床の準備

連作すると土壌病害が出やすくなるので、なるべく連作にならない場所を選びます。アブラナ科の野菜を2〜3年は栽培していない場所が理想です。

タネまきの2週間以上前に、1平方メートル当たり完熟した堆肥2kgとボカシ肥料200gを施します。石灰などのアルカリ資材はまきません。
1畝に2条植えでは、植え床幅は100cm(畝幅150cm)で株間40cmにします。1条植えの場合は植え床幅60cmで株間40cmです。植え床は、いずれも高さは20cmの高畝を立てます。

2.タネまき(秋まき栽培の場合)

ハクサイは直まき栽培、移植栽培のどちらでもできます。タネまき後の害虫と雑草対策、乾燥の影響が心配なときは移植栽培がよいでしょう。
移植栽培では直径6~9cmのポリ鉢を使って育苗しますが、直まき栽培よりも4〜5日早くタネまきをします。

どちらの方法もタネをまく場所にビンや空き缶の底を押し付け、深さ1cmのまき穴を作ります。各穴に4~5粒のタネをまき、厚さ5mmを目安に軽く土をかぶせて鎮圧します。畑への直まきの場合、鎮圧は手の甲でもよいのですが板切れなどを使うと手が汚れず、タネの扱いも楽になります。タネまき後の水やりは行いません。

3.間引きと追肥(1回目)

〈移植栽培の場合〉

本葉が2枚のころに2本立ちに間引きます。残す苗が浮き上がらないように株元を押さえてピンセットで引き抜きます。

本葉4~5枚になったら、2本立ちのまま根鉢を崩さないように畑に植え付けます。植え付け後は水やりをして、初期生育をよくするために1回目の追肥としてニーム油かすを1株当たり3g、株の周囲にまきます。これは害虫の忌避にも効果が期待できます。

〈直まき栽培の場合〉

本葉4~5枚のころに2本立ちに間引き、株元に土寄せをします。その後、1回目の追肥として1株当たりボカシ肥料1握り(20〜30g)を施します。
2条植えの場合は条間に、1条畝の場合は株間にまいて、上に土をかぶせますが、肥料が株にかからないように十分注意します。

4.間引きと追肥(2回目とそれ以降)

移植栽培、直まき栽培のどちらも、本葉が6~7枚になったら間引いて1本立ちにして土寄せをします。間引くときは、残す株の根を傷めないように、必ずはさみを使って地際から切ります。

2回目以降の追肥は、1回目の追肥から2週間おきに結球が始まるまで行います。1株当たりボカシ肥料20〜30gを施しますが、土寄せは行いません。
なお、追肥や土寄せの際には葉の裏面をよく観察し、アオムシやコナガなどの幼虫やその卵を発見したら、その場で取り除きます。

〈ハクサイの間引きと追肥のタイミング〉

5.病害虫対策

葉を小まめに観察して、卵や若齢幼虫のときに発見して取り除くことが基本です。発生初期には、週に1回程度、水で300倍に希釈した食酢やニーム由来の植物抽出液を、葉の裏面にまんべんなく散布することも効果が期待できます。

6.収穫

葉が内側に丸まり、結球の頭を押さえて硬く締まっていたら収穫の適期です。株を手で斜め横に倒し、外葉を1~2枚付けて、外葉と外葉の間に包丁か鎌の刃を当てて切ります。収穫後の切り株についている外葉はそのままにせず、茎から切り離して畑の外で処分します。そうすることでその後の成長を止め、病害虫の除去にも役立ちます。

7.冬の管理

イラスト:角しんさく

結球したハクサイは霜の当たる頂点部から葉が枯れて、めくり落ちていきます。すると、その下にある葉が霜の害にあい、さらにその下へと連鎖的に被害が広がります。外側の葉を頂点部でまとめて縛り上げておくと、その下にある葉を守り、被害を最小限にすることができます。さらに新聞紙など通気性があるものをかぶせて一緒に縛り上げると、より耐霜性が増して遅くまで畑に置いておくことができます。
なお、収穫後にすぐ利用せずに一時期、保管する場合は、新聞紙にくるんで屋内で貯蔵します。年を越すような長期に貯蔵するには、晩生種を選び、完全に結球させずに八分ほどの結球で収穫して、保存性を高めます。

有機栽培のコツ

虫害は未熟な堆肥の使用や窒素肥料過多でも多発

ハクサイは病害虫の被害が多い野菜です。畑では幼いころから虫に狙われます。アオムシやヨトウムシによって、生育の初期に葉が穴だらけにされることもあります。また成長点が食害にあうと結球しないこともあります。
害虫は見つけ次第、捕殺すること以外に有効な手立てはありません。アオムシは葉の裏側をよく観察し、見つけ出します。ヨトウムシは被害株の根元を掘ると必ず出てくるので、見つけ出して捕殺し、被害が他の株にうつらないようにします。
これらの対策を徹底して行うことで、秋まきの場合は10月下旬ごろまでしのげれば栽培は成功します。なお、これら虫害の発生は、未熟な堆肥の使用や窒素肥料のやり過ぎで多発する傾向があるので、これらを避けることが大前提です。

管理作業で葉を傷つけないことも軟腐病の発生を抑制

ハクサイだけでなく多くの葉菜類や根菜類によく見られる病害に軟腐病(なんぷびょう)があります。細菌による土壌伝染性の病気で、ハクサイでは生育がある程度、進んだころに発症します。地面に接する葉や根頭部が腐ってきて、病勢が進むと株全体が枯れて悪臭を放ちます。
対策としてはイネ科、マメ科作物との3年輪作や、高畝にして排水性をよくするなどの環境整備が必要です。しかし、病原菌の多くは害虫の食害痕や、間引きや土寄せ、中耕などの管理作業によって付けられた傷から感染するので、これらの管理作用にも十分に注意を払って行うことが発生を抑えることにつながります。

次回は「カブ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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